日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

東電の家庭向け料金値上げを、絶対に許してはいけない理由

2012-01-21 | ニュース雑感
予想されていたことではありますが、東電の電気料金値上げに関して企業向けの4月以降17%アップに続き、遂に家庭利用分に対してまで言及されるに至りました。個人的には様々な観点から考えて、これは絶対に許してはいけないことであると思っています。

まず、いろいろ情報が錯綜しているので、ちょっと整理をしてみたいと思います。

・情報の出所ですが、東京電力と政府が出資する原子力損害賠償支援機構が、金融機関の協力を引き出すために策定が進められている「総合特別事業計画」の素案が明らかになったというもの。
・その中で今後10年間の資金計画を提示。福島第1原発の廃炉費用を確保したうえで電力の安定供給を継続するには、2兆円規模の資金が必要と説明。(1)24年度中に企業と家庭向けで平均10%の値上げを実施する(2)柏崎刈羽原発(新潟県)を25年度に順次再稼働させる-との前提条件を示し、26年3月期には518億円の最終利益を確保できるとしていると。
・機構側は2兆円の資金のうち、1兆円は公的資金注入、残り1兆円は金融機関融資という考え。東電には公的資金注入による一時国有化は避けたいという考えが根強く、家庭向けの料金上げ幅を最大20%程度にすることで黒字幅を広げ、2兆円すべてを金融機関から引き出したいという考えがある。

ネット上から入手できるここ1~2日のニュース報道を整理すると、以上のような情勢であるようです。許してはいけない理由に関し、思うところをランダムに書き連ねます。

まず、“死に体”の東電が破綻処理をされてしかるべき状況下でなお図々しく「公的資金注入による一時国有化は避けたい」はあり得ないわけで、これがもし本当であるのなら、国民は口をそろえて、「そもそも盗人猛々しいとはお前のことだ」と言ってやらなくてはいかんでしょう。

次に本計画が、金融機関からの1兆円の融資金を引き出すためのものであるのなら、値上げと原発再稼働を原資とした国民生活を犠牲にするような計画に、高い公共性を帯びた金融機関が「YES」を言ってはいけないのではなかと考えます。この素案通りモノのがもし提示されるなら、金融機関はその判断に自社の社会的責任がかかってくると今から心して、断固「NO」を突き付けて欲しいところです。

さらに政府の姿勢の問題。家庭向け電気料金値上げには国の承認が必要であり、政府として金融機関融資1兆円の返済原資をこのような国民負担に求めるようなやり方を「是」とするような判断をするのなら、それは無責任極まりないということになると思います。

なぜなら今回の件は震災による原発事故発生と言う政府のエネルギー方針も大きくかかわった“人災”であり、政府は責任感をもって積極的にこの問題に関与すべき立場にあるからです。であるのなら、国民負担を前提とする再建計画を「是」とするのではなく、例えば政府保証付で1兆円の金融機関融資を引き出し国有化により東電の経営に積極関与することで、血のにじむような徹底したリストラ策と前向きな努力によって資金返済を実行させ再建に向かわせるべきであろうと思います。

おそらくこの案のまま国民負担に頼る再建策を軌道に乗せるなら、仮に一時国有化をしたとしても料金値上げと言う最も安易な返済原資が稼げる方法での再建策では、この期に及んで料金値上げをトップが「権利」と言って憚らない東電の抜本的な再生には到底つなげることはできないでしょう。“尻に火をつける”ことで本気を呼び起こし、真の再生を実行させる責任が政府にはあると思うのです。

企業向け電力の値上げだけでもコスト上昇による物価への影響や、一層の空洞化進展による雇用環境のさらなる悪化など、間接的な家計への影響は十分考えられる状況にあります。このうえ家庭向け電気料金を値上げすることは、我が国経済に計り知れないマイナスを生み出すことにもなるでしょう。政府には国民生活を守る立場からも、この問題には当事者としての責任感ある対応を強く求めたいと思います。増税と同じく値上げというモグラ叩き的対応策では、なんら問題の抜本的解決にはつながらないということに、早く気づくべきであると思うのです。

いずれにしましても、東電の家庭向け電気料金値上げを前提とした再建策は、絶対に認められるものではありません。