日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

オリンパスに巣食う“組織風土のオバケ”

2011-11-09 | 経営
最近のニュースの中で、昨日も取り上げたように野田首相が教えてくれているのは「リーダーの資質」の問題でしたが、オリンパスの“とばし粉飾”では日本企業の「組織風土」という問題の厄介さを示唆しています。

日本の企業が組織改革をおこなうときに外部のコンサルティング・ファームの力を借りるのは、“外圧”の活用という理由が第一である場合がほとんどです。特に大企業ともなれば優秀な人材は内部にも山ほどいるのであり、業界事情や社内事情に精通している分、中の人間方がより効果的な改革案を作れたりもするのです。しかし、改革の前に敢然と立ちはだかるのが「組織風土」の壁です。こればかりは内部の人間では打ち破れない。体に染みついた“社内常識”が無意識のうちに思いきった改革を躊躇させ、改革を中途半端なものに終わらせることになるのです。

そこで、本気で社内改革を進めようと思うのなら、外部のエキスパートを雇い敢えて高い金を払ってでも改革を進めていくことになります。しかし実際に外部に依頼しても、なかなかその通りには受け入れられないのです。私がチームの一員としてある程度の規模のクライアントの改革に携わった際も、入念な内部調査に基づいて思い切った改革案を提示したところ、「ここまで改革をしたら、うちはつぶれるよ」と経営陣に一蹴され、結果骨抜き案への修正を余儀なくされて改革はほとんど実のあるものにならなかった、という経験があります。似たような話は、コンサルタント仲間では実によく耳にする話です。「組織風土」のことを意識し理解している経営者は非常に少ないのです。

外部コンサルタントが提案する改革がすすまない程度の「組織風土」の壁はまだ可愛いものですが、これが大きくなると「悪癖」になり、さらにはコンプライアンス違反をものともせずガバナンスなどあってなきも同然とまで来ると、最後には知らず知らず犯罪行為にまで手を染める・・・。「組織風土」の壁は大きくなると手の着けようがないほどのオバケになってしまい、多くの企業犯罪はこのオバケに支配され引きおこされてきました。昨日のオリンパスの高山社長の会見の一問一答を見て、私の頭に浮かんだのはこの厄介な「組織風土」が巨大化したオバケです。20年にもわたって代々のトップが関与してきた巨額粉飾ですから、原因は「組織風土」以外の何物でもありません。

その粉飾の影を踏み白日の下に引きずり出すキッカケを作ったのが、外国人経営者のマイク・ウッドフォード前社長だったのです。要するに“臭いモノには蓋”をよしとする至って日本的な同社の「組織風土」を身につけていなかったからこそ、なし得た指摘だったのでしょう。しかし昨日の高山社長は、記者団からの繰り返される「ウッドフォード氏の処遇は変わらないか?」の質問に、「解任は彼の資質の問題」の一点張り。「この人も組織風土のオバケに毒された経営者なり」を実感させるに十分過ぎるやりとりでした。

仮にウッドフォード氏が高山社長が言うように独断専行だったとしても、粉飾の影を見逃さなかった経営者と長年にわたって粉飾を見過ごしてきた経営陣と、株主や一般投資家が見た時にどちらが残るべき経営者であるのかは、言わずもがなではないでしょうか。ウッドフォード氏は「現役員は全員辞任すべき」「株主は私を呼び戻すだろう」との見解を公表しています。オリンパスは第三者機関監視の下、現取締役の総辞任を実現し早期にウッドワード氏を中心とした「組織風土」に染まっていない経営陣の下で、悪しき「組織風土」を一掃する必要があると感じさせられました。

「組織風土」の改革なくしてオリンパスの復活はありえないでしょう。同時に日本の証券市場の信頼回復という観点からも、世界の投資家が納得する対応が同社に求められていると思います。