日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

渋谷センター街の新ネーミング「バスケ通り」に、第二の「E電」の懸念?

2011-09-17 | ビジネス
渋谷のセンター街のメインストリート(駅前交差点から150メートルの範囲)が、「バスケットボール・ストリート(バスケ通り)」と名付けられることになるとの記事を目にしました。チーマー発祥の地として、不良の巣窟として、オヤジ狩りの名所として…、いずれからもイメージされる「悪い」「怖い」というマイナスイメージを払拭しようと、渋谷センター商店街振興組合が決定したとのこと。でもなぜバスケなのでしょう?サッカー・ストリートでも、ベースボール・ストリートでも良さそうなものですし、むしろそちらの方がよりポピュラーな分だけ「悪い」「怖い」の払拭になるような気もしますが…。

一見単純に思えるネーミングでのイメージ転換も実は深くて難しい。イメージ戦略、ブランド戦略等ではかなり重要な位置づけを占めるネーミング。企業のCI(コーポレート・アイデンティティ)戦略においても、シンボルマークとともに社名の変更などは大きな役割を果たす部分でもあるのです。しなしながらその失敗例も実に多い。ネーミングや社名を変えてはみたものの、浸透しない、イメージが伝わらないという例は、随分とあるものです。その失敗のほとんどは、初めに“ネーミング変更ありき”であったり“マーク変更ありき”であったりする場合です。一言で言うなら“魂のないCI戦略”であるのです。

「魂」とは何か?これぞまさに「アイデンティティ」です。例えばネーミングでイメージを変えたいのであるなら、なぜそのネーミングなのか、ネーミングの目的は何なのか、がネーミングを見ただけ聞いただけでおぼろにでも浮かんでくる、そう言ったネーミングに直結する「魂」の仕掛けが必要なのです。要するにネーミングと同時に、サービスの内容が変わったとか、接客の対応が改善したとか、立体的な形でそのネーミング変更の「魂」がイメージできるような変化が実感できる、すなわち「魂」の入った改革であるということが成功するネーミングであり、成功するCIであるのです。まずは「魂」を明確にして、内部から浸透・徹底をはかる。その上でネーミングを一気に変更する。これが成功するCIの条件でもあります。

ネーミングの代表的失敗例をひとつ上げておくなら、昭和62年、国鉄が民営化した際に山手線をはじめとする従来「国電」と呼ばれていた近距離電車を名付けた「E電」があります(ご記憶でしょうか?)。スタート当時「EにはEast、Electric、Enjoy、Energyなどの意味が込められている」と説明されていました。当時はどこの駅にも「E電」の表示がされ、「E電」のヘッドマークを付けた電車も各路線で走っていたのです。しかし「E電」は全く浸透しませんでした。旧「国電」は誰からも「E電」とは呼ばれず、結局そのまま何の変哲もない「JR線」と呼ばれたまま今に至っています。その最大の原因は、国鉄は民営化後も「国営時代と何ら変わらないサービス姿勢と顧客対応」であると利用者に感じられてしまったことにあると言われています。まさしく「魂」のないネーミング変更だったのです。

さて渋谷センター街のネーミング変更、大丈夫でしょうか?サッカーでなく野球でもなく、なぜ「バスケット」なのか。その根底にある「考え方=魂」をいかにして、目に見える形でその通りを訪れる人たちに伝えていくのかが、このネーミングの成功に向けてネーミングそのものの決定以上に重要なポイントになっていくのです。現段階での情報を聞く限りでは、「バスケットボール・ストリート」を支える「魂」部分が見えにくいだけに、ネーミングの実行に向けて「E電」の二の舞にならないよう十分ご注意いただきたい、とだけ老婆心ながら申し上げさせてただきます。日本を代表する東京の有名商店街ですから、ぜひとも全国の衰退に苦しむ商店街のヒントとなるような「魂」のこもった改革を期待します。