日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

「危機管理コンサルタント」を活用し切れていなかった海老蔵会見

2010-12-08 | ニュース雑感
市川海老蔵の事件はガキ気分が抜けない非常識芸能人の芸能ネタなので、当ブログで問題指摘する価値なしとしてこれまで触れずに来ました。昨日、本人が説明会見を開いたのですが、事件そのものの評価云々は引き続き置いておくとして、昨日の会見が用意周到なプロのコーディネートによるものであるという印象でしたので、「危機管理コンサルタント」が一般的にどの様な指導をするのか、海老蔵氏は果たしてそのアドバイスを上手に活用できていたのか、当ブログ的に解説してみたいと思います。

まずは、会見実施のタイミングです。
加害者側の容疑者の身柄も確保されていない今の時期に、だいぶ急いで会見を開いたという感が強くします。狙いは、①加害者とされる相手の発言が一切ない段階でこちらがある程度の事件に関するコメントをすることで、比較優位に立ち一般的に流れつつある「喧嘩両成敗」的風潮を払拭し「被害者」としてのイメージを確立させる(同時にマスメディアの“書き得”をストップさせる)、②そのためには暴行によるものと容易に想像できる左目の充血が残っている段階である必要があった、③「退院」という極力早い段階で会見をすることで「可能な限り早い段階で会見をした」という印象付けをおこない「反省」をより一層印象付けしたかった、などが容易に考えられます。

続いて「会見態度」「受け応え」「演出」に関する部分でコンサルタントの指導によるものと思しき部分を羅列します。
①望むメディアは拒むことなく会場への入場を許可(結果、500人という異常とも言える大人数相手の会見となった)
②はじめの本人挨拶は、冒頭の松竹社長が壇上で話したのに対しひな壇を降りてより「低い位置」でおこなう
③社長挨拶も含めて事前原稿、想定問答を読んでいるような話し方はしない
④冒頭で、マスメディアが指摘しているキーワード「思い上がりがあった」を自ら口にすることで、世論の指摘を反省し受け入れている印象をつくる
⑤一言一言なるべくゆっくりと質問相手を見ながら話をする
⑥胸を張るような姿勢ではなく気持ち前屈みで、もともと通る声質でもあり声はいつもよりも小さめに抑える
⑦質問にあらかじめ制限をつけずに「何でも聞いて構わない」という開かれたムードを作る(しかしながら実際は、事の核心に触れるような部分は「捜査中」を理由に回答しない)
⑧「捜査中」を理由に回答しない事柄についても、理由のみで突っぱねるのではなく極力回答の冒頭に自身の言葉を一言つけ加えて、応対をソフトにする
⑨会見の予定時間を一応設定して事前に公表しておくものの(60分)、質問事項が尽きるまで閉会としない事で(実際の会見時間は93分とのこと)、メディアの心象を良くする
⑩常識的なお辞儀の約2倍の時間をかけたお辞儀を最初から最後まで徹底する(実際には「お辞儀をしたら、○秒数えなさい」と指導を受けているハズです)

他にもプロの指導と気がつく点は多々ありますが、いずれにしましても松竹が手配したコンサルタントによる相当周到に用意され事前練習されたものであることは間違いないでしょう。一般的に企業の不祥事会見などでも、最近では「危機管理コンサルタント」の指導を受けて準備をする機会が増えているのですが、それでも思わぬ失敗が後を立たないのは、どんなに練習を重ねても企業経営者が“場馴れ”していないためにいざその場に立つと“真っ白”になってしまうという理由があるのです。その点海老蔵氏は“百戦錬磨”の強者ですから、挨拶や想定問答を一言一句間違えずに記憶することなどお手のものでしょう。その点を勘案しつつ会見態度から反省の度合いをはかるなら、普通の不祥事会見との比較では割り引いて考える必要があるかと思います。

また、コンサルタントの準備の甘さを指摘させていただくなら、入念に準備しリハーサルを重ねた会見ではあったものの、会見する本人の舞台度胸と原稿覚えの良さについ流されたか、肝心の本人におかれた立場の理解を十分させきれていなかった点は否めません。この点は、事前準備のない想定外の質問に対する受け応えでもろくも崩れを見せています。ひとつは、「お酒は辞めますか?」の質問。海老蔵氏は「当分は控える」と答えましたが、正しい回答は「今回裏切ったお客様および関係者の皆様からお許しいただくまでは、飲む気はありません」でしょう。「それはいつ?」と問われれば、「まずは、一日も早く舞台に戻れる日がくること。すべてはそれからです」と。もうひとつ、「今24日の自分に声をかけるなら何と言うか?」に対する「出かけるな」という回答。これは完全にダメ回答です。「私は運が悪かっただけ、反省していません」と言ってしまったようなもの。せめてその日の自分に「バカかお前は!呆れてモノも言えん」ぐらいは言って欲しかったですね。

危機管理の一環として緊急事態発生時にコンサルティングを活用されることは間違ってはいませんが、問題はその使い方。単なる道具屋として使うのではなく、しっかりとコンサルタントの理論や考え方を吸収して活用するのでなけば、作られた会見をお膳立てする以上のモノにはなり得ません。出来過ぎた会見の中に“抜け”を垣間見るにつけ、非常に残念な気分にさせられました。世の中にはコンサルタントを“ハコづくり”にばかり利用する、誤ったコンサルティングの使い方しかできない経営者は多いので、それと同じ類いではありますが。支払ったコンサルティング料が、魂の入らない道具立てや“ハコづくり”に消えたのではコンサルタントの立場からしても、なんとも虚しい気分にさせられます。