日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

官僚組織改革にまず活用を~中小企業経営者必修の新基準「ISO26000」とは

2010-11-19 | 経営
一般の方々はあまりご存じないと思いますが、国際機関のひとつにISO(国際標準化機構)と言う団体がありまして、これまでも「品質」とか「環境配慮」とかの観点から一定の基準を設けてそのクリアを認証することである種の企業の事業価値やサービス価値を規定し信頼感を創造する国際基準を制定してきています。そのISOにおいて、このたびISO26000という新たな基準が制定され(正確には5年にわたる検討作業を受けて9月に関係約90カ国の採決により採択)、11月1日に正式発行されました。

今回のISO26000は何の基準を設けたものであるのかと言えば、ズバリ「組織の社会的責任」。この言葉の定義は、「組織活動が社会及び環境に及ぼす影響に対して組織が担う責任」「様々な組織が持続可能な社会への貢献に責任を持つこと」となります。また同じ「社会的責任」でも「CSR」が企業を対象にしているのに対して、今回のISO26000が対象とする「社会的責任」は企業にとどまらないすべての組織を対象としている点が大きく異なっています。すなわち、内外にヒトとの関係が発生するあらゆる組織が組織として活動をしていく過程においては、社会的責任を全うする義務が生じる訳ですが、その社会的責任を全うするの在り方基準を定めたものが今回のISO26000なのです。

従来のISOの基準と大きく異なっている点がひとつあります。それは、従来のISOが第三者による認証を前提として「適合」を付与するものであったのに対して、この26000はあくまで社会的責任に関する考え方や具体的な行動事例を示しこのように行動するのが望ましい、と方向づけをするにとどまる「ガイダンス文書」である点です。では、どう使うのか。第三者認証がなされるものでははないと言う事はすなわち自己の適合宣言の有効性すらも否定するものであり、各組織がISO基準に則った組織活動をすることで例えば「弊社はISO26000を行動基準として企業活動を行っています」といった社会的責任の国際基準に則って活動をしていることを宣言しつつ組織内を本基準で運営していく、というのが基本的使い方であると考えられるのです。そもそも、「社会的責任」自体が個別の要求事項によって判断されるというような類のものでなく、適合性の評価そのものが何人なれども論理的に不可能であるというものですから。

このISO26000を我が国の民間企業ベースで考えた時に、国際取引のある大企業限定のテーマであるかと言えば決してそうでありません。この規程の主なテーマとするするところは、「組織統治」「人権」「労働慣行」「消費者課題」「コミュニティへの参画」「環境」「公正な事業慣行」の7つがあげられ、これらは組織運営のグローバル・スタンダード化の流れから見ればむしろ中小企業経営にこそ最も積極的に取り入れられるべき視点でもあるのです。その証拠に、ISOの国内委員会を務める(財)日本規格協会ではISO26000に関しては早くも「ISO26000と中小企業の事例」としてHPでは中小企業にターゲットを絞り込んだ啓もう活動を始めているのです。
☞ http://iso26000.jsa.or.jp/contents/

中小企業経営者にとっては、これからの企業経営においてはISO26000基準の理解と組織活動への浸透は不可欠な課題となると思われます。現時点ではまだISO26000の日本語版は「準備中」とのことですが、日本語版の発行以降企業経営にとって大きなテーマとして注目されることは確実であり、企業として「退場」を命ぜられないためにも十分な理解と取り組みが望まれるところです。このテーマは引き続き当ブログでも取り上げていきます。

この問題がらみで最後にひとつ提案です。先日の“生”事業仕分けを観戦してあまりに常識とかけ離れた官僚の意識と行動を目の当たりにした訳ですが、このISO26000の採択には日本も賛成をしている訳でして、まずは今のとんでもない官僚組織がISO26000に則った組織運営に取り組むと宣言するのがいいのではないかと思うのですが、いかがでしょう?先般の“生”事業仕分け観戦の際にも書きましたが、とにかく官僚組織の「意識改革」「常識改革」をおこなわない事には、財政再建は望むべくもないと実感されられた訳です。日本を“破滅の道”に導かないためにも、また世界に恥じない社会的責任意識を身に付けた社会の実現をはかるためにも、ぜひとも政府は官僚組織改革の基準として率先してこのISO26000を組織活動基準に採用し、真っ先に取り組むべきではないかと思うのです。