日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

音楽夜話~「レディース・アンド・ジェントルマン」In武道館

2010-09-23 | 洋楽
本日は久々に完全休養日を決め込んで、日本武道館での1日限りの映画上映会「レディース・アンド・ジェントルマン」を見に行って参りました。

「レディース・アンド・ジェントルマン」はご存じローリング・ストーンズの72年のツアー映像を映画化したもので、当時完成し試写会まで行われていながら(東京ではヤマハホールで行われた記録があるそうです)なぜか今までおクラ入りしていたという作品です。72年のツアーと言えば、あの名作「メインストリートのならず者」を新作にひっさげて精力的なツアーを行っていた時期で、このツアーは何と言っても明けて73年には日本中の音楽ファンが待ちに待ったストーンズ初来日公演が武道館で予定されたという“いわく付き”のものでもあるのです。しかしながら、ご存じのようにその日本公演はリーダー、ミック・ジャガーの麻薬不法所持前科に対する日本政府の入国ビザ不許可という措置によりあえなく中止となり、その後日本の音楽ファンは“生”ストーンズのライブ体験を90年まで延々待たされることになるのです。

で、今回のその“怨念ツアー”の映像を映画化した作品上映会は、件の(九段の?)日本武道館で行われるという念の入れようでして、これはもう「あの時の恨みを今こそ晴らそう!」と言わんばかりの企画であり、私なんぞは土砂降りの祝日を何の迷いもなく吸い寄せられるように武道館へと向かった訳です。10月にはDVDリリースがされるという作品でかつ2500円という映画にしてはちと高めの値段設定ではありましたが(一応ポスター付)、そこはストーンズの底力とでも言うのでしょうか、武道館満杯とまではいかないもののまずまずの客の入り。さすがに本物のライブではないだけに、開演前の会場内の緊張感はほとんどゼロでしたが、それでも客電が落ちると歓声と拍手が。

この武道館上映会の最大のウリは、600インチの大スクリーンと生のライブ並みの音響を体感できると言う「フライング・システム」の使用で、とにかく音は確かに大迫力でした(振動がすごくて、体のあちこちがかゆくなりました)。ただ当時の録音技術というよりPA技術では仕方ないのでしょうが、楽器の分離が悪くて音ははかなり“団子状態”。まぁあの頃の武道館はこんな感じだったかなと、逆にこれがやけにリアルだったりもしたのでした。それよりなにより72年のストーンズは確かにカッコいい。若いミックの動きは軽やかだし、キースも風貌は全く別人ですから。それと当時のもう一人のギタリスト、ミック・テイラーってなかなかの渋ウマ。これがまた今のキースとロニーの“ヘタウマ”コンビとは全然違った味わいがある訳です(彼単独で昨年ビルボード・ライブに来ていました)。

曲目はアルバム「ベガーズ・バンケット」「レット・イット・ブリード」「スティッキー・フィンガーズ」そして「メインストリートのならず者」までの、スワンプ4部作からが中心で個人的にはベスト。「ブラウン・シュガー」に始まって「ジャンピング・ジャック・フラッシュ」「ストリート・ファイティング・マン」で終わるセットリストは、確実に今のツアー・セットの原型であり、60年代と別れを告げ脈々と今に連なるストーンズのライブスタイルの基本はこの時期に作られたとも言えるのです。同じメンバーでのライブ映像に69年のミック・テイラー加入直後の「ハイドパーク・コンサート」や、その4カ月後のあの“オルタモントの悲劇”を映した「ギミー・シェルター」がありますが、今回のはそれらとは明らかに違う印象で、確実に“70年代型ストーンズ”に変貌を遂げつつも75年のロン・ウッド加入後の現在につながるビジネスライクな洗練さはまだ身につけていない、ある意味一番おもしろかった時期のストーンズかな、と改めて思ったりもしました。

90年の初来日実現時は確かに日本中が大変な盛り上がりではあったものの、それはすでに株式会社ローリング・ストーンズ的なライブに変貌を遂げた後の彼らであり(もちろん株式会社ローリング・ストーンズであればこそ毎度毎度満足度は大変高いのですが)、このような70年代的でかつ今につながる“原液”のような姿を見せられてしまうと、「あーやっぱり見ておきたかった・・・」と、70年代ストーンズを迎えるはずだった同じ武道館であるが故になおさら思えてもしまうのです。最後に毎度毎度思う事ですが、武道館にはビートルズの日本公演以降ロックの神様が宿ってるようで、今日のような単なる映画の上映会であってもやはり「武道館でストーンズ」となれば、特別な感覚を味あわせてくれる場所なのだなとつくづく感じさせられたのでした。

※ミックとキースが一本のマイクをはさんで歌う「ハッピー」、最高にカッコよかったです。