日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

「目的」を見失った“税財政改革抜き”の「高齢者医療制度見直し案」

2010-07-27 | ニュース雑感
後期高齢者医療制度の現行制度に代わる仕組みを検討している厚生労働省の「高齢者医療制度改革会議」が23日、新制度の骨格案をとりまとめたそうです。

自民党政権時代に成立した現行制度ですが、75歳以上を“別扱い”とする“差別対応”が国民的な不評を買い、民主党は対自民イメージ戦略的にこれを利用。選挙マニフェストにも「後期高齢者医療制度の廃止」を掲げ目玉政策のひとつとし、昨年の政権交代後には12年度末廃止を決めているのです。ただ消費税上げを含めた抜本的税制見直しが議論の俎上に上った現在、税財政改革をすっ飛ばし選挙大敗後のこのタイミングでの唐突な見直し案の骨格提示は、マニフェスト記載の問題をひとつでも早期に取り上げ、参院選前後から騒がれ始めた「民主党のマニフェストは言いっぱなし」「民主党は嘘つき」といった世論の流れを払しょくしたいと言う狙いがミエミエな感じがしています。

また見直し案の内容的な部分に関して少しだけ申し上げるなら、管首相は先の参院選でこれからの国政の基本方針に「強い社会保障」を掲げていたにもかかわらず、国保に加入する高齢者の給付費を公費と現役世代が支える方式を続け高齢者1割負担を維持するという今回の内容は、「強い社会保障」の実現とは程遠いものではないのかと即座に思わされてしまうようなオソマツなものでもあるのです。そもそも首相が掲げる「強い社会保障」の実現は、選挙前にぶち上げた「消費税引き上げ」による財源の確保とセットで提示されていたものであると理解できるわけで、今回の見直し案提示に財源に関する記載が一切ない点は、なんとも中途半端な内容であると言わざるを得ないでしょう。

選挙前には「超党派で議論を」と威勢がよかった消費税論議ですが、選挙戦での大敗後は全く鳴りをひそめています。消費税上げの必要性に関しては、「その前にやるべきこと」や「上げのタイミング」の問題はあるものの、国民的理解はある程度得られていると考えるのが現状では一般的になりつつあり、ここで一層の支持率低下を恐れて見当違いの“臭いモノに蓋”的対応をすることは、本来の目的を見失わせることになる事以外の何物でもありません。本来の目的は「強い社会保障」の実現に他ならず、そのためにはまずは抜本的な税制改革論議を展開して、「強い社会保障」を支える福祉財源をどう考えていくのかについて国民的議論につなげていくことは不可欠であるハズなのです。

厚労省の意向では、年末までに最終案を固め来年の通常国会で法案を通し13年度からの新制度スタートを目指すとのことですが、このスケージュールでは肝心の財源議論すなわち税制改革の議論はどう考えてもすっ飛ばされてしまう訳で、「強い社会保障」とは切り離されたまま高齢者医療に関する新制度が組み立てられようとしているのです。政権政党は、人気取り優先で拙速な制度改革をおこうのではなく、国民生活にとって何が一番大切であるのかをしっかりと捉えたうえで、目的を見失う事のない腰の据わった議論を展開して欲しいと強く要望します。