日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

ようやくのハイブリット市場参入~日産自動車の“後手後手”検証

2009-07-17 | ビジネス
日産自動車がハイブリッド中小型車を、11年をメドに販売するとの報道がされました。

ご承知のように、このところの“ハイブリッド戦争”は、トヨタ「プリウス」とホンダ「インサイト」の一騎打ちといった様相です。景気悪化を受けてのハイブリッド車の値下げに加え、景気対策でのエコカー減税や補助金上乗せなどの措置も続々繰り出され、「プリウス」が現時点予約の年明け納車が伝えられるなど、今や空前のハイブリッド車ブームとなっています。お陰でトヨタ、ホンダでは、製造ラインの稼働率が不況突入前の段階に戻りつつあるなど、“大不況底打ち”現象が明確に現れてきているのです。

このように明るさを取り戻したトヨタ、ホンダに比べて、日産の“一人負け状態”は目を覆いたくなるばかりです。これはひとえに、不況脱出の目玉であるハイブリッド車商品の有無が明暗を分けたと言っていいでしょう。トヨタがいち早く大衆向けハイブリッド車として「プリウス」を販売したのが97年。ホンダがスポーツタイプ限定ながら、ハイブリッド車初代「インサイト」を発売したのがこれに遅れること2年の99年のことでした。一方日産はハイブリッド車に目もくれず、究極のエコカーであるEV車=電気自動車に照準を合わせて、これ1本での大逆転を虎視眈々と狙ってきたのです。

ところが、昨年来の景気低迷は戦略上大きな誤算を生みました。何より、EV車の価格の高さ。ガソリン併用で動くハイブリッド車に比べて、電池のみで稼働するEV車は電池開発のコスト高の問題もあって当面はかなりな高額商品とならざるを得ないことがネックでした。そこに持ってきて、6月に発表された同じEV車である三菱自動車「iMiEV」が軽クラスなのに価格が約500万円であるいう事実は、不況下の国民に与えた印象として、「EV車は庶民の手が届くモノでない」を強くしてしまいました(同じ“負け組”の三菱の発表タイミングの悪さも笑えます)。片やハイブリッド車は、値下げと景気対策のエコカー優遇措置で一気に庶民レベルにまで価格が下がり、当面はエコマニア等特定層に限定されると思われた購入層は大きく広がっていったのです。これによって、ハイブリッド車は燃費が良く経済的で、エコに貢献できて、しかも減税等でお得、という良いことづくめのイメージ展開がなされ、EVの“敗北”は確実になりました。

日産の戦略は完全に失敗でした。景気の先行きを読み間違えたこと、国内におけるトレンドの流れを読みきれなかったこと、この2点は致命傷ともいえる大きな失策でした。金融危機からの脱却後景気上向きの中、次の景気悪化は当分先とタカをくくっていたのでしょう。「“得するエコ”は広く一般に受け入れられる」に裏打ちされた“エコブーム”のトレンドの到来を、まったく予見してもいなかったのでしょう。価格的に高く一般層向け実用化商品取り扱いには、まだまだ時間がかかるEV車一本でのエコカー戦略を、初代トヨタ「プリウス」の販売開始以来12年間もの長きにわたって描き続けていたのですから。「貧すれば鈍す」の印象を強くせざるを得ない戦略的失策です。

トヨタ「プリウス」が販売を開始した97年も、金融危機真っ盛りの不況下でした。以来日産のハイブリッド車戦略検討のチャンスは常にあったにも関わらず、この8月にEV車本格商品第一号の発表予定を直前に控えて、このタイミングでのハイブリッド車取扱計画の検討。EV一本化でのエコカー戦略は誤りであったと、自ら公言していることに他なりません。今回の大不況からの脱却において、トヨタ、ホンダ2社から明らかに遅れを取った“崖っぷち”の日産自動車。未だかつてないドン底からの脱却を可能にする“ゴーン・マジック”は、果たしてあるでしょうか?いやむしろ今回の大失態は、ゴーン長期政権からの転換の必要を示唆する出来事のように思えるのですが…。

※写真=トヨタは高級車「レクサス」のハイブリッド専用車発表も話題で、益々好調。