日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

京品ホテル強制執行~労使コミュニケーション不足による不幸の極み

2009-01-26 | ニュース雑感
東京・品川駅前の老舗「京品(けいひん)ホテル」(港区)廃業に反対する従業員労働組合が自主営業を続けていた問題で、東京地裁は25日、従業員らをホテル施設から退去させ、立ち入り禁止とする強制執行を行いました。JR品川駅前の同ホテル前は10月の事件発生以来、私も仕事で毎週のように通りがかっており、そのたび配られる近況を伝えるビラに目を通しては、商売柄「なんとか穏便な着地点は見出せないものか」と考えさせられる部分も多く、この日の結果強制執行と言う結末に至ったことはなんとも残念な気分であります。

ことの発端は、ホテルを経営していた「京品実業」が昨年10月20日、多額の債務による経営悪化などを理由に廃業、正社員39人とパート社員30人を解雇しました。そもそもは、同族経営の同社社長一族がバブル期の放漫経営によってつくった多額の借金が諸悪の根源でした。その借金債権者が、たまたまリーマンブラザースの関連会社であったために、親会社の破たんを受けて返済を迫られることとなり、オーナーが「ホテル廃業→物件売却」による決着を考え結果このような事態に陥ったのです。

リーマンの破たんによる急転直下の展開という問題はあったにせよ、個人的にはどうみても平時からの経営と従業員の間におけるコミュニケーションが十分ではなかったのではないかという点が非常に気になっています。というもの、経営側、従業員側どちらの主張が正しいのか判断がつくほどの情報量もなく、私の立場でその点はなんとも申しげられませんが、従来からの経営と従業員のコミュニケーションが円滑でなかったことは、10月以降の経営・従業員各々がどちらもあまりに一方的なやり方であった事を振り返ってみるに、まず間違いのないところであったと思われるからです。

再開発を条件としたホテルの営業権付土地譲渡や、第三者への経営権譲渡とホテル営業を続けたまま賃貸物件としての物件売却を実施するやり方等、思いつきで言うほど単純なスキームでは即解決策にはならないのでしょうが、労使間および債権・債務者間の時間をかけた話し合いによって、皆が一定のメリットが得られるWIN-WINの解決策も見出し得たかもしれないと考えるのは至極常識的な想像であると思います。それだけに、長年にわたり問題の借金が存在していながら、解決策が議論されることもなくこのような性急な展開の末、乱暴な結末に至ったことは、平時からのあらゆるコミュニケーション不足こそが原因であったと言わざるを得ないと思うのです。

従業員側の「不法占拠」とされたやり方には、確かに“法的な”問題はあったのでしょうが、片やオーナー一族の放漫経営の末の一方的な決定も、従業員の生活をかかえる経営者としての自覚に欠けていたという点において、違法でこそないものの経営倫理的“コンプライアンス違反”であったと言わざるを得ないと思います。しかしそうであっても、法の下では従業員側の「不法行為」は明らかに裁かれる存在であり、「不法行為」に追い込まれる前に長年にわたる借金まみれ経営の「倫理的コンプライアンス問題」を話し合いで問う機会はなかったのだろうかと思うと、誠に残念です。

経営者の責任問題はもちろん大きいと思います。ただ最後の引き金を引いたのは、外部団体「東京ユニオン」に運動方針をゆだねた従業員の判断でしょう。この段階で経営とのコミュニケーションの道は完璧に断たれたと思います。「労使のコミュニケーション不足」「経営の独断」「外部団体の介入」…、昨日の強制執行の場面をテレビで目にして、やり直しのきかない後味の悪さだけが残った不幸な事件でありました。