日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

“耳貸さぬワンマン経営”が招いた悲劇 ~ NOVAを他山の石とせよ

2007-10-29 | ニュース雑感
英会話学校最大手NOVAの更正法申請は、まさにワンマン経営が招いた経営破綻の典型例でした。

「経営のトリセツ」で過去にもお話してまいりました、「ワンマン経営の限界」→「組織管理への移行」=「俺の会社から皆の会社へ」が全くなされず、更正法の申請と言う最悪の結果を招いてしまったケースと言えるでしょう。

NOVAの猿橋前社長は、大阪で少人数制の英会話教室NOVAを立ち上げ、「駅前留学」というキャッチフレーズとそれまでの英会話教室を一新するようなイメージ戦略で急成長を遂げました。側近と共に短期間で驚異的な拡大路線を展開し、98年には東証の店頭公開(現ジャスダック上場)を果たします。

しかしNOVAは株式公開、上場企業とはおよそ思えない管理体制にありました。「NOVAには人事、総務といった普通の会社にある部署がない」。かつてこう豪語した猿橋氏ですが、それはコンサル的観点からみれば上場クラスの企業としてはあるまじき経営形態であり、すべての事案に社長決済の必要なこの組織構造こそが、企業としての存続を危うくする結果を招いたと言えるのです。

「猿橋氏は授業の質の低下で解約する生徒の心理が読めなかった。そうした点を補う人材がいれば違った結果になっただろうが、企業の安定経営には不向きだった」(NOVA社員)との話からも分かるように、今月ジャスダックへの改善報告書の中で指摘されたナンバーワンかつオンリーワンの「経営者である猿橋氏への権限の集中」という体質が、まさに破綻(はたん)の引き金になったと断言できるのです。

NOVAの破綻から学ぶべきことは、これまで「経営のトリセツ」で言ってきた事ばかりです。もう一度おさらいしてみます。

社長一人の管理能力では手に負えなくなった企業は、「組織管理」への移行、すなわち「俺の会社」から脱皮し「社員の会社(上場の場合には加えて株主の会社)」に移行しなくてはいけないということ。たとえ自分が作り上げた会社であろうとも、一定のサイズに成長したなら、「自分のもの意識」を捨て、会社を「私物化」しない、責任と権限の委譲による「組織管理」が不可欠であると言うことです。

そして、さらには社員の代表者たるナンバー2の意見を汲み、社員経由での情報を大切にすることで利用者や株主の立場での考え方を見失わないよう努める必要があるのです。
特定商取引法に違反して受講契約時に虚偽の説明をするなど、消費者の利益を顧みず、法令を順守してこなかった経営姿勢は、まさにイエスマンだけを残してきた“盲目組織”が招いたコンプライアンス違反であった訳です。

創業時からの同胞を重用していながら、結局自分の事しか考えず、自分の事しか信じられなかった、そんな猿橋氏の経営者としての“器”の小ささが会社の大きさをカバーし切れなかったことが、利用者にも株主にも社員にも悲劇であったとしか言いようがありません。

社長解任の憂き目に会ってなお、利用者も株主も社員も置き去りにしてこっそり自己所有株の売却までし金銭を得ようとしている姿は、「自己中心的経営者の狂気」の極みです。残念ながらそこには、経営者としての「責任」は微塵も感じられません。

どこかへ雲隠れをしている猿橋氏に今、少しでも経営者としての「自覚」があるのなら、一日も早くその姿を、利用者、株主、社員の前に現して欲しいと思います。それこそが、今彼に課された経営者として、また人として果たすべき最後の「責任」ではないでしょうか。