静聴雨読

歴史文化を読み解く

日本郵政の商品企画力(「郵政民営化」後)

2009-11-05 07:16:08 | 社会斜め読み
日本郵政公社は2007年10月に民営化され、グループ管理会社の「日本郵政グループ」の下に、郵便事業会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命、郵便局会社の4分社が発足した。郵便事業、銀行事業、生命保険事業の3事業会社とともに、それらの窓口業務を担当する郵便局会社が設けられた。

何ヶ月か前、「郵政民営化」の効果を検証する特集番組がNHKから放映された。そのうちの一部が印象に残った。郵便事業会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の3事業会社から郵便局に(すなわち、郵便局会社に)個別に「ちらし」が送りつけられ、郵便局(すなわち、郵便局会社)はそれらの「ちらし」を無条件に展示しなければならない、という問題点が郵便局会社から提起された。郵便局の個別の事情(局内の広さ、お客様のニーズなど)を配慮した展示方法を考える権限が郵便局会社にまったくない、ということだった。3事業会社と郵便局会社とが合議して改善案を検討したはずだが、その結果は知らない。

問題は、郵便局会社にまったく企画機能がないことだ。3事業会社に言われたように動き、窓口手数料だけで郵便局会社を運営する仕組みになっている。だから、業務改善提案が郵便局会社から出ることはない。

例えば、上記の「ちらし」の展示方法について、郵便局会社がいくつかの展示パターンを考え、それを個々の郵便局に提示して、最適の展示方法を採用させる、というような企画力がまったく欠けているのだ。

郵便事業に限っていえば、郵便局会社を強くするには、個々の郵便局管内の集配業務を郵便事業会社から郵便局会社に移管することを考えたらいい。現在は配達業務を郵便事業会社が担当しているが、集配業務に対するエンドユーザの要望事項を理解しているのは、個々のお客様に接している郵便局(すなわち、郵便局会社)にほかならない。

ネットワークの世界では、基幹ネットワークとローカル・ネットワークの2種に分けて議論するが、郵便の世界でも、基幹郵便ネットワークを担当する郵便事業会社とローカル郵便ネットワークを担当する郵便局会社とで業務分担することが望ましい。こうすることによって、郵便局会社に顧客満足向上のための施策を考えるような企画力が身につくようになると思う。 (2009/4)

この秋の政権交代に伴って、日本郵政をめぐる政策にも新しい動きが出てきた。それに対する私の考えを記しておきたい。

その1。日本郵政の社長を更迭して、大蔵官僚OBを充てたことはまったく評価に値しない。官僚の「天下り」と「渡り」の厳禁の原則を破ってまでやる人事ではない。
 
その2。郵便局のネットワークを維持して、郵便局を公的サービス機関として活用の拡大を図る考えは賛同する。

以上が私の基本的なスタンスだが、前回(4月)に述べた「郵便局会社が顧客満足向上のための施策を考えるような企画力を身につける方策」は何も見えない。

現在、郵便の配達を郵便事業会社が担当していることを理解している人がどれだけいるだろう。
一方、郵便の集荷は、郵便事業会社が郵便局会社に委託したり、郵便ポストやローソンなどのコンビニエンス・ストアから集荷したりしている。つまり、郵便を配達する配達員とその車は、もっぱら「配達」という「行き」の作業だけを行っている。

物流業界では、例えば、九州から首都圏に物資を運ぶ物流業者は、九州から首都圏への「行き」の物流を終えた空のトラックにどのようにして荷を積んで「帰り」の道を走らせるかに腐心している。そのために、「帰り」の荷を扱う業者と提携したりして、トラックの効率を上げる。それができた物流業者が「勝ち組」として生き残っていける。

それに比べると、郵便集配事業では、膨大な人と車をかけて、「行き」だけの作業をしている。ここに大きな無駄があることに気づかねばならない。「帰り」の荷を増やすためには、例えば「産直品」のプロモーションなどが考えられると以前のべたが、それだけではない。

もう一つ、別の業界の例を引けば、例えば、コンピュータ・メーカーがある法人にPC300台を納入したとする。すると、そのPCの保守のために、法人と保守契約を結び、定期保守などを実施する。この保守契約だけでも安定的な利益を確保できるものだが、それに加えて、保守員の才覚次第で、さらに利益を生み出すことができる。日常的に法人に出入りしていると、その法人のPC拡大計画などを早期に入手できるようになる。この「情報」を営業部門に伝えれば、更なる販売拡大に結びつくというものだ。

同様のことを郵便配達員に当てはめれば、使い方次第で、郵便配達員は、お客様のニーズを汲み取って、郵便局や3事業会社に有益な「情報」を伝達するパイプ役に変身することができる。ただし、現状のような、郵便事業会社の郵便配達員にそれを求めても無理だ。郵便配達員が郵便局会社の配下に入って初めて実現可能なアイディアだ。  (2009/11)