静聴雨読

歴史文化を読み解く

転形期の高校野球

2009-07-29 01:00:00 | スポーツあれこれ
(1)勝負にこだわる高校野球

今年の甲子園球場の高校野球が終わった。決勝戦が引き分け再試合となり、ファンの熱狂がいやが上にも高まった。まずは、早稲田実業におめでとうをいおう。

しかし、である。この熱狂を支えたものに思いをいたすことも必要であろう。
この大会は、ホームランが多く飛び出し、また、逆転による決着が多かったのが印象に残る。その背景は何か? ずばり、投手陣が弱体なのが露呈したことが背景だ。いや、弱体と言っては投手陣が可哀想だ。過酷な日程により、投手陣の磨耗が頂点に達して、打ち込まれるのだ。

準々決勝の帝京と知弁和歌山との試合で、リードされていた帝京は、打順にまわってきた投手にピンチヒッターを出し、逆転に成功した。しかし、その裏の守りで、後続の投手がストライクの取れないほどの荒れようで、3人投入した投手がことごとく失敗して、逆転されて負けた。聞くところによると、この3人の投手は公式戦でほとんど投げたことがない、とのこと。

また、早稲田実業の投手は準々決勝から、準決勝、決勝、決勝再試合と4試合すべてに登板して、すべて完投した。その鉄腕ぶりに、誰もが驚いた。でも、それでいいのだろうか?

一般に高校生の骨格はまだ固まらず、その時点で無理使いをすれば、後々に悪影響を与えかねない。これは、広く知られていることだ。しかし、目先の試合を一つ一つ勝ち抜いていくためには、無理を承知で特定の投手を使い続ける。現在の甲子園では、避けられない宿命かもしれない。

ここで考えてみよう。それほど、勝ち抜くことが重要か? 勝者を一つにすることが絶対に必要か? 

以下、甲子園大会の改善案を考えてみたい。
1.一試合における投手の投球数を90球に制限する。
2.50球以上投げた投手は、翌日の登板を禁止する。
3.延長戦を廃止する。勝者は抽選で決める。勝者を決める必要がない決勝戦は、二校優勝とする。
4.5回で10点差、6回で8点差、7回以降で6点差がついたら、コールド・ゲームとする。
5.試合続行が不可能と判断したチームは棄権を宣言できる。(今回の帝京の例でいえば、9回裏の守りで、最初のバッターに四球を出した時点で、帝京は棄権を宣言すればよかった。そうすれば、勇気ある撤退と賞賛されただろう。)

それでは面白みが減殺する、という意見もあろう。それでいいのだ。別の面白さを見出せばいい。
また、それでは、短時日の日程が組めないという意見もあるかもしれない。それは本末転倒で、上記の要請を満たすような日程を考えるなり、出場チームを減らすなりすればいいのだ。

コンビネーションの良い守備、意図のはっきりと伝わる攻撃、投手の交代作戦など、面白い要素が高校野球には数多くある。そういうところに注目する観戦法があってよい。
勝負へのこだわり過ぎに眼を向けるときが来ているという思いが強い。
高校野球への熱狂が、一部選手の酷使によって成り立っているのは、健全な姿とはいえない。  (2006/8)

(2)高校野球の新しい形

北京オリンピックの影に隠れて、「夏の甲子園」は目立たないが、連日熱戦が続いている(らしい)。今年は90回の記念大会だそうで、例年より多くの高校が甲子園に登場できることになり、お陰で、神奈川県から2校が参加できることになった。

北神奈川大会の決勝(東海大相模高校対慶応義塾高校)はまれに見る熱戦となった。序盤から双方点を取り合い、追いつ追われつの展開が続き、最終回6対4で東海大相模が逃げ切るかに見えたところ、慶応が粘って追いつき、延長戦にもつれ込んだ。

延長戦は双方チャンスがあるものの決定打が出ず、12回に慶応が決勝打を放って勝ち切った。
まことに、どちらが勝ってもおかしくない好ゲームだった。

この試合で注目されたのが、両チームの投手起用法だ。

東海大相模は、エース・ピッチャーがほとんどの試合を投げきり、この決勝戦も先発して11回まで投げた。12回に次の投手に交代したのだが、試合後の監督談話では、「12回を迎えるにあたって、エース・ピッチャーがダグ・アウトのベンチから立ち上がれなかった。それで、『やむなく』交代させた。」ということだった。図らずも、エース・ピッチャーに頼りきりの姿を露呈させた談話であった。

一方、慶応は、2枚の投手を擁して、継投で試合を乗り切る戦略で北神奈川大会を勝ち進み、決勝にも、同じ戦術で臨んだ。決勝では、延長戦は想定外であったろうが、2枚の投手の継投で乗り切って見事優勝した。

エース・ピッチャーに頼りきる戦略と2枚の投手の継投で乗り切る戦略との戦いは後者の勝利に終わった。

ここで、もし、東海大相模が北神奈川大会の決勝に勝ち上がって甲子園に出場したら、と考えるとぞっとする。あのエース・ピッチャーは慶応戦で190球投げたという。疲労の蓄積は極限に達していたであろう。その投手にまた甲子園で投げさせるのか?

結果として、慶応が北神奈川大会の決勝に勝ち上がって甲子園に出場することになり、本当にほっとした。
慶応の推し進めた「2枚の投手の継投で乗り切る戦略」は、これからの高校野球のあり方の基準というかモデルというかを示していると思う。
実際、「2枚の投手の継投で乗り切る戦略」の方が、チームの結束を高めるのに役立つだろうし、超一流を追わないという高校野球の精神にも合致しているように思うのだが。  (2008/8)