尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

受難

2006年06月14日 00時14分08秒 | 詩の習作
陽が沈み月が昇るように
疲れきって横たわる身体の上で
昼間のわたしと
夜のわたしが入れ替わる

昼間のわたしが眠り
夜のわたしは寝ずの番をする
これが受難でなくて何だというのだ

わたしの半分はいつも起きている
わたしの半分はいつも眠っている

地球がそうであるように

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ペスト

2006年06月13日 21時26分35秒 | アバンギャルド集
これは一つの暴力だろう
顔のまん中に
金属をくり抜いた
トンネルがあいている
僕はその奥に逃げていく
右腕を差しこみ栓をすれば
もう大丈夫だ
街へ出れば
食堂でも
プラットホームでも
顔に腕を突っ込む格好ばかりだ
新しいペストだ

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唄が聞こえる

2006年06月13日 10時25分35秒 | 詩の習作
遠くで
唄が聞こえるんだ

すると
アメ玉が
のどに詰まるんだ
自分で尻を叩くんだ
吐き出すと
色とりどりの
まるい言葉なんだ
並べるんだ

遠くで
唄が聞こえるんだ

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「ペディキュア」

2006年06月12日 23時12分41秒 | ライトバース集

今日と明日のあいだで
木の葉のように
回りながら落ちてきた天使
背中をまるめて
ペディキュアを塗っている

折れた羽など
とってしまえばいいのに
―合理主義者らしく僕は
不機嫌な天使に忠告した

天使はふり向いた
白い顔に紅い唇と
濡れた大きな目が
不釣り合いだった

元気を出して
歌うように言ったのだ

―私はもう人間よ
明日になれば
飛べない羽を
引きずって歩かなくっちゃね
あなたが青い空の
影を曳いているように

真珠色のペディキュアを
かわかすため
仰向けになって
足をぱたぱたさせながら
歌うように言ったのだ

    (加筆して、本日の再投稿です)

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遅延

2006年06月12日 21時37分35秒 | 詩の習作
僕という赤ん坊に
産声はなかったらしい

僕はのろまであった
うさぎのダンスがおどれなかった
現在ものろまである
将来ものろまであり続けるだろう
だけれども
その概念で僕を説明できるとは
思わないで欲しい
自分の体を含むこの世界から
不断に遅れているのだ
その間隔は
一日ではない、一分でも一秒でもない
コンマo.2~0.3秒の間である

そのわずかなズレのために
永遠、あなたに
つまりあなたを含む
この現在と世界に追いつくことはできない
これが僕についての全てだ

希望があるとしたら
(みなさんでそろって笑うかも知れない)
あなたが読んでいるこれらの言葉である
私は追いつけないが
この言葉たちは
(怖ろしく遅延しているためにかえって)
あなたに届く可能性を持っているのだ
(私のいない明日あなたに夕立が降るように)
これが僕の言葉についての全てだ
秘やかな産声である


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まん中

2006年06月11日 12時26分54秒 | 短詩集

 「まん中」

優しい女は
真っ暗だけれど
いつも教えてくれました
(ここが私のまん中です)

小心者の男は
時の蒼い糸をひきながら
進んでゆく
神経の針でした
(ここが宇宙のまん中です)

抜けてしまうと
真っ白です

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足首

2006年06月10日 23時26分31秒 | 詩の習作
天気が良すぎると
全く不幸ではないのに
窓から衝動的に
飛び降りたくなる男がいた
その時男は
(ほんとうに不幸だから)
窓から飛び降りようとする
もう一人の男のことを
息をしないで想像する
彼の自慢のカルティエの金時計や
彼より10歳若い奥さんの
細い足首について考える
中学生のように勃起したら
ふうっと息をついで
金網の入ったガラスの窓を閉めるのだ

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パロール

2006年06月10日 22時14分37秒 | 詩の習作
死んだ人とは話ができない
生きている人とはとても話がむずかしい
で、私は(わたし)と話す慣わしだ

話をよく聞いてくれるので
その(わたし)は
死んだ人かも知れないと
思うことがある
尋ねると
(わたし)は
黙りこくってしまう
世界が背をむけるように

死んだ人とは話ができない
生きている人とは話がむずかしい
それでも
私は生きてゆかねばならないでしょう
それが答えだ

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重力

2006年06月10日 00時53分15秒 | 詩の習作
土から生まれたものは
土に帰れ

風が過ぎると
夜の底に
押しつけられている
木の葉が一枚
最後の
寝返りをうって

月が太鼓を
叩かれたように
跳ねた


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薄ら笑い

2006年06月09日 21時34分55秒 | 詩の習作
顔面のぶ厚い皮膚だけが
笑っていることがある
白を黒といい
黒を白といってきた
長年の習性である

説教の途中
そこのお前
その薄ら笑いをなんとかしろ
担任の教師に挑まれたこともある

たしかに
薄ら笑いの皮の下には
暗い川がながれている
この見えない川がほんとうのお前だろう
とは世間の常識だけれど

薄ら笑いの表面こそ
僕の精神だ
薄ら笑いで答えると
疲れた顔を橋にして
その下を川が流れるのだ

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鏡の夢

2006年06月09日 04時47分22秒 | 詩の習作
未明に鏡の夢を見た
鏡の夢にろくなものはない
たいていは最後にうなされる

薄暗い洗面所で
僕は電気カミソリ器を使って
(実際、一昨日から新品のものを使い始めていたが、それだ)
ひげを剃っていた
ところが
腕とカミソリし器しか映っていない

押せばずぼっと腕ごと沈んでいくような
沼のような鏡であった

目が覚めてすぐに
これを書いている
その時
自分が鏡に映らないことが不思議ではなかったことに
こだわっている
ひげを剃っていたのはほんとうは誰なのか?
それから、核心は
(気が違ったようなことをいい出すが)
誰が夢をみたのかということだ
今、背筋が寒い

哲学は怖いぞ

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孤独

2006年06月08日 13時42分56秒 | 詩の習作
ひとりぼっちだというけれど
君はいつも
だれかと話しているではないか
だれかと笑っているではないか
だれかと泣いているではないか
孤独とは自分のなかに二人でいることかな
生活を励ましたり慰めたりしながら
二人だけですごすことかな
自分という家をね

そうしていると
ある朝、ドアがノックされ
霧のなかからもう一人が
ほんとうに現れて
同じように笑って
君をびくりさせるんだ
だから孤独って二人のことだよ

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朔太郎

2006年06月07日 23時59分27秒 | 詩の習作
詩というものは
体から
竹、竹、竹
竹が生える
その気持ちよさだ
その気持ち悪さだ

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豆まき

2006年06月07日 23時52分15秒 | 詩の習作
詩を書いては
丸め
詩を書いては
丸め
豆のように
放りなげる
鬼も来ないが
誰も来ない

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オペラ座

2006年06月07日 23時45分57秒 | 詩の習作
わたしのなかに
オペラ座がある
地下には怪人が住んでいる
クリスチーヌ・ダーエが歌う
しかし抜け道はない

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