このお話は妄想から生まれた物語です。実在する人物や団体とは無関係です
*つづきから*
彼と付き合い始めて、二年が経った大学3年の夏。
お互いに就職活動に忙しくしていた。
それでも、時間が合えば一緒にいたし、それが当たり前のように毎日が過ぎていた。
内定を貰って二人でお祝いのパーティーをした時の事・・・
お前とは、こうやって・・・これから先も一緒におるんかな~。
彼が優しく微笑んでいた。
私もその言葉を信じて疑う事は無かった。
サークル活動も引退して、就活も終わって、彼は新しいアルバイトをはじめた。
どこで、どんな仕事をしているのかは知っていたけれど、
そのバイトを理由に会えなくなる事が増えていった。
これまでは、どんなに忙しい時でも二人で過ごして来たのに。
そんな気持ちを彼に投げかけた時の事だった。
ねえ~、バイト忙しいね。
うん、疲れるわ~。
今度、どんな顔して働いているのか見にいっちゃおうかな~。
来るなよ。
えー、そう言われると行きたくなる。
来たら、別れる。
『別れる』
彼の口から初めて聞いた言葉だった。
急に彼の表情が冷たく感じて、その表情が怖くて、これから先が見えなくなった気がした。
一週間も彼に会わないなんて、初めての事だった。
この明らかな異変に私は動揺していた。
学校での授業はゼミだけになっていたし、キャンパス内でも彼に会えない事で、なおさら不安になっていた。
彼からの電話で呼び出された、彼がバイトをしている街。
外で会うなんて久しぶりだね。
うん。
・・・・
気まずい雰囲気が漂っていた。
あのさ・・・俺、お前の他にも好きな子がおんねん。バイト先の子。始めはその子には、彼女がいるって話していたし、友達やってんけど・・・。
二番目でもいいから、付き合って下さい。
って、言われた。
俺さ~、一年ん時の夏の事思い出したわ。お前もこんな気持ちやったん?
俺もズルイからさ、お前とその子と二股かけて付き合う事もできんねん。その子の事も好きやけど、お前の事も好きやから。
私は判っていた。
彼の「好き」の針は、私ではなくて、もう、その子に振り切れている事も、彼が二股を掛ける事ができない事も。
その日の会話は、初めて会う人との他愛もない世間話のような、どうでもいい会話しか出来なかった。
「来たら別れる」と言われた、その街で私と会う事が彼の気持ちなんだと察していた。
帰り道・・・私もあの夏の事を思い出していた。
そして、今の彼の気持ちも、あの夏の彼の気持ちも良くわかってしまう自分が嫌いだった。
彼と連絡を取らないまま、坦々とした日々を送っていた。
久しぶりに学食へ行くと、イラストだらけのPCに向う彼の姿があった。
相変わらず、これ使ってるんだ。
おお!久しぶり。お前も来てたん。
うん。サークルに顔出したら、学食にいるって後輩が教えてくれたから。
ああ、そうか。うまいこといってる?
何が?
アイツと?
あっ、知らなかった?別れたよ、もう。
えっ・・知らんかった。いつ?
夏かな・・・。
何で?
そんなに聞かないでよ。
ごめん、ごめん。いや、まだ付き合うてるって思ってたから。
振られた・・・。
私は彼に、全部話した。
理由も、状況も、そして、気持ちも。
何故だか、なんの衒いも無く、全てを話せた。
全てを話す事が、あの時の彼に対しての贖罪になるような気がしたからだった。
彼は時折、視線をPCに落としながら、話を聞いてくれた。
こうやって、二人で話しをすんのって、一年の夏以来ちゃう?なあ!?
この時、私はどうして彼と付き合わなかったのかと、この期に及んで後悔していた。
なんていう女なんだ、私。
もう立ちなおったん?
どうかな・・・たぶん大丈夫。
俺も、こないだ決まったよ、就職。
ええ!おめでとう。どこに?
前から、どうしてもやりたかった仕事。ようやくご縁があったわ~。
彼はどうしてもやりたい仕事があって、そこには強い希望とこだわりがあったから、回りが妥協しながらも内定を手にする中で頑張っていた。
頑張って、待ってて、ご縁があってよかったね。
そうやねん。待った甲斐があったな~って、これだけは譲れなかったもんな~。
ああ、もうこんな時間?
夕暮れ時を知らせるチャイムが鳴っていた。
じゃあ、またね。
ばいばーい。
彼は可愛く手を振った。
外は肌寒くて、ジャケットの襟を閉じた。
私は思い出していた。
待った甲斐があったな~って、これだけは譲れなかったもんな~。
そう言いながら、彼が私を見つめていた時の視線を。
もしかして・・・んな事ないか、いや、でも。
私は学食へ戻って、彼の姿を探した。
そうだよね・・・待ってるはず、ないよね。
彼の言葉の中に、ほんの少しの望みを見たような気がしたけど、それは思い上がりだったと、すぐに気付かされた。
でも、その時の私が気付けなかった事が一つあった。
彼が学食を見渡せる、渡り廊下へ移動して、私の姿を見守っていてくれた事を。
*運命の人・社会人*
よろしくお願いいたします!
じゃ、早速、これをお願いします。
はい。
ああー、何で一番神経質そうな人に当たっちゃったんだろう。ハズレだな~、もう・・・。
希望通りの会社に入社したものの、配属までは希望通りには行かず、おまけに私の教育係りは一番神経質そうな彼。唯一の救いは、その彼が色白のイケメンだったという事だけだった。
ちょっと、いいですか?
はい。
これ、入力ミスが目立ちます。確認してから、もう一度提出して下さい。
申し訳ありません、すぐにやり直します。
細かいんだよね~、本当に。自分で直してくれたっていいじゃない。観賞用には適しているけど、一緒に仕事をするのは・・・どうなんだろうな~。
と、心の中でボヤいていると・・・
何ですか?
いえ、何でもありません。
これだもの、全てを見透かされているようイヤだった。
入社して研修中は、神経質でイケメンの彼が仕事のパートナーだった。それでも、研修期間が終われば状況が変わると思っていたのに、だ。
今日から、改めてよろしくお願いいたします。
と、彼に挨拶している私がいた。
部署が開いてくれた歓迎会の席。
どうして、ここでも隣なの・・・息抜きも出来ないよ。
僕が隣では不服ですか?
いえいえ、そんな事は無いですよ~。
と、これまでの人生で学んで来た、同性に嫌われない程度のぶりっ子を出してみた。
ダメだ、通用しない・・・。
さり気ないぶりっ子が通用しないタイプの彼だった。
仕方が無いので飲むしか無かった。酔った勢いで言ってしまった。
あの~先輩は私の事、嫌いですよね?
周りの騒がしさにかき消されそうな私の声に対して、意外な答えが返ってきた。
いや、好きですよ。
・・・・・
仕事もきちんとこなしていますしね、問題も無いですし。素直でいいと思いますよ。自分の下で一緒に働きたいと思ったので、それは人事に伝えておきました。僕は希望が叶って、君と仕事が出来て嬉しいですけども。
君は僕の事、嫌いでしょ?
驚いていた。へ~、私の仕事振りを買ってくれてたんだ。お陰で、私は彼と一緒に働くのね~・・・・。
き、嫌いじゃないですよ。仕事も出来るので尊敬してます。
単純な私は、評価されていた事が嬉しくて、お酒の力も借りて、彼に心を開き始めていた。
初めて仕事以外の話をしてくれた彼。
彼は異業種ではあるけれど、とある会社の御曹司で、将来は父親の後を継ぐという事。そして今は修行の為にこの会社にお世話になっているという事。
私も大学時代の話をしてみた。
ふ~ん、じゃあ、その大きなサークルでのマネジメントが少しは役に立っているんだね。
そうなんですかね~。
評価されたら、期待に応えようという気持ちも高まって、私は彼と一緒に懸命に仕事に打ち込んだ。彼について行くと仕事も上手く行った。
最初はあんなにイヤだったのに、仕事上のパートナーとして、欠かせない存在になっていた。そして、偶然とはいえ研修で彼と組んだ事が運命だったとさえ思っていた。
仕事が順調進んでいると、彼と過ごす時間が増えていた。
仕事のパートナーだった彼が、プライベートでのパートナーにもなるのは、自然な事だった。
じゃあ、先に行くからカギ閉めておいで。
えー、一緒に行きたい。
それは、ちょっと・・・・。
会社では何食わぬ顔してるのに・・・。
遅刻しないように。
こういう所は、お堅いのよね~・・・・。
その日の昼休み。
二人が付き合っている事なんて、だれも気付かない社内。この人と私、付き合ってますよーと言いたくなるような時も多かった。
彼の仕事ぶりと容姿、そして何より御曹司というバックグラウンドがあるから、他の女子社員が放っておく事は無かった。
彼は、わざと私のテーブルの近くに座ってきた。数名の女性陣を引き連れて。
彼女いるんですか~とか何とか、色々と詮索している様子の女性陣。
その人には、ぶりっ子は通じませんよ~。彼女は私ですよ~。
と、B定食を食べながら心穏やかでは無かった。
彼は女性陣をうまくあしらいながら、私の様子も見ていた。
ネクタイを緩めて、シャツのボタンを開け・・・私を見て微笑んだ。
・・・・・
ひゃーっ、ここで出す?
昨晩の事・・・・。
社内恋愛は、やっぱり内緒?
そうだね。できれば黙っていた方が、今はいいと思うけど。
彼女いる?って他の人に聞かれたら何て答えるの?
何て答えようかな~・・・。
私は彼の首筋の際どい場所にキスマークをつけてあげた。
私の彼ですっていう目印。
ふふふふふ・・・全く、子供なんだから。
そのキスマークを、さりげなくチラっと私にだけ見せるように襟元を開けた彼。
私はB定食どころでは無くなって、一人恥ずかしくなって、その場を立ち去った。
社食で、あんな事しないでよ~。
だって、目印だって付けたのは君だよ、君。
そうでした・・・・。
こんな風に目印つけなくても判るようにしましょうか?
え?
これは君が僕の物だという目印です。
そういって、彼は私の薬指に指輪をはめてくれた。
驚いていた!プロポーズの言葉と指輪のブランドに。
ハリーウインストン?
そう。
これは・・・そしたらお返しは、フランクミュラーの時計とかじゃないとダメ?
そんな事気にしなくて大丈夫。もう持ってるし・・・。
こうして、私は自分自身で考えてもいなかった玉の輿に乗ったのだった。
結婚を機に私は部署の移動があった。
入社当初から希望していた部署だったし、何より彼と同じ部署で働くのは何だか抵抗があった。
彼も実家の事業を継ぐまでは、私が働く事を快諾してくれた。
新しい部署での仕事は、毎日が新鮮で楽しくてやりがいもあった。
彼の下で働いて学んだ事が、そこでの私のスキルアップを手助けしてくれた。
ただ・・・
すれ違っていった。
時間が無くてすれ違うなんて、よく聞く話だし、私達は大丈夫だと過信していた。
でも、ほんの数ヶ月で、私は気を使いながら彼と過ごすよりは、仕事に打ち込む方が楽だと感じてしまった。
仕事だけのパートナーでいた方が良かったのかな?
そうだね。
短い会話が、彼と交わした最後の言葉だった。
こうして、私の人生に×がついたのだった。
*再会・そして・・・*
離婚したん。
×が付いちゃった。
で、今は幸せなん?
そうね~これが私の幸せだって思うようにしてる。
そうか・・・なあ、もう一個聞いていい?あの時、何で学食に戻って来たん?
あの時って・・・どうして知ってるの?私が戻った時は、もういなかったよね?
ああ、おらんかったけど、廊下の方から見ててん。
声、掛けて欲しかったな~。
あん時、声かけてたら、俺ら付き合ってた?お前とはタイミングが合わへんな~。
残念なタイミングだね。
今日は、子供はどうしてるん?
ダンナが面倒見てる。
ふ~ん。そうか。どんな人なん?
えー、聞く?
聞くよ、今日は聞くよ~。
年下のいい奴だよ。
そう言って笑いながら楽しんだ同窓会。
彼は来なかった。
もしもし・・・エイトどう?
どうも、こうもないで!早う帰って来て。
ああ、もうエイト泣いてるの?すぐ帰るから、ちゃんと見ててね。
わかってるがな、早う、頼む。
私は彼と子供の待つ家へ帰る電車に乗り込んだ。
彼と離婚してから、会社を辞め、中途採用で入った会社で出会ったのが彼だ。
年下と付き合うのは初めてだったし、バツイチの私が彼と再婚するまでには時間が掛かった。
今度は俺がいるから。俺がそばにいるから。
彼のプロポーズの言葉。
帰ったらまた、疲れた~って言うんだろうな。
しょうがない、たまには私が頭をなでなでしてあげようっと。
ただいま~!!
遅い~、ほんまに、もう。大変やってんぞ~。
振り出しにもどったな~(笑)
*おしまい*
続きでこの長い妄想にお付き合いくださった方々へ、秘密を暴露します(笑)
今回は、それぞれの『彼』のバックグラウンドやその後も考えてみました。
それは、また別のお話が出来そうな雰囲気でもあって、ニヤニヤしています。
実は。
お気づきの方もいらっしゃると思いますが、
今回の妄話は母が書いています。
過去にもいくつかのお話は母が書いています。
全部読んでいただくと、母と娘のテイストの違いがあって、
言葉のチョイスに個性が現れていると感じています。
それから、もう一つ。
ここに書かれたお話は、冒頭に書いた様に妄想からうまれているのですが、
母の実体験もちょこっと混ぜちゃいました(笑)
どこまでが妄想で、どこが本当の事なのか、わかるかな~!?
いひひ、あはは
*つづきから*
彼と付き合い始めて、二年が経った大学3年の夏。
お互いに就職活動に忙しくしていた。
それでも、時間が合えば一緒にいたし、それが当たり前のように毎日が過ぎていた。
内定を貰って二人でお祝いのパーティーをした時の事・・・
お前とは、こうやって・・・これから先も一緒におるんかな~。
彼が優しく微笑んでいた。
私もその言葉を信じて疑う事は無かった。
サークル活動も引退して、就活も終わって、彼は新しいアルバイトをはじめた。
どこで、どんな仕事をしているのかは知っていたけれど、
そのバイトを理由に会えなくなる事が増えていった。
これまでは、どんなに忙しい時でも二人で過ごして来たのに。
そんな気持ちを彼に投げかけた時の事だった。
ねえ~、バイト忙しいね。
うん、疲れるわ~。
今度、どんな顔して働いているのか見にいっちゃおうかな~。
来るなよ。
えー、そう言われると行きたくなる。
来たら、別れる。
『別れる』
彼の口から初めて聞いた言葉だった。
急に彼の表情が冷たく感じて、その表情が怖くて、これから先が見えなくなった気がした。
一週間も彼に会わないなんて、初めての事だった。
この明らかな異変に私は動揺していた。
学校での授業はゼミだけになっていたし、キャンパス内でも彼に会えない事で、なおさら不安になっていた。
彼からの電話で呼び出された、彼がバイトをしている街。
外で会うなんて久しぶりだね。
うん。
・・・・
気まずい雰囲気が漂っていた。
あのさ・・・俺、お前の他にも好きな子がおんねん。バイト先の子。始めはその子には、彼女がいるって話していたし、友達やってんけど・・・。
二番目でもいいから、付き合って下さい。
って、言われた。
俺さ~、一年ん時の夏の事思い出したわ。お前もこんな気持ちやったん?
俺もズルイからさ、お前とその子と二股かけて付き合う事もできんねん。その子の事も好きやけど、お前の事も好きやから。
私は判っていた。
彼の「好き」の針は、私ではなくて、もう、その子に振り切れている事も、彼が二股を掛ける事ができない事も。
その日の会話は、初めて会う人との他愛もない世間話のような、どうでもいい会話しか出来なかった。
「来たら別れる」と言われた、その街で私と会う事が彼の気持ちなんだと察していた。
帰り道・・・私もあの夏の事を思い出していた。
そして、今の彼の気持ちも、あの夏の彼の気持ちも良くわかってしまう自分が嫌いだった。
彼と連絡を取らないまま、坦々とした日々を送っていた。
久しぶりに学食へ行くと、イラストだらけのPCに向う彼の姿があった。
相変わらず、これ使ってるんだ。
おお!久しぶり。お前も来てたん。
うん。サークルに顔出したら、学食にいるって後輩が教えてくれたから。
ああ、そうか。うまいこといってる?
何が?
アイツと?
あっ、知らなかった?別れたよ、もう。
えっ・・知らんかった。いつ?
夏かな・・・。
何で?
そんなに聞かないでよ。
ごめん、ごめん。いや、まだ付き合うてるって思ってたから。
振られた・・・。
私は彼に、全部話した。
理由も、状況も、そして、気持ちも。
何故だか、なんの衒いも無く、全てを話せた。
全てを話す事が、あの時の彼に対しての贖罪になるような気がしたからだった。
彼は時折、視線をPCに落としながら、話を聞いてくれた。
こうやって、二人で話しをすんのって、一年の夏以来ちゃう?なあ!?
この時、私はどうして彼と付き合わなかったのかと、この期に及んで後悔していた。
なんていう女なんだ、私。
もう立ちなおったん?
どうかな・・・たぶん大丈夫。
俺も、こないだ決まったよ、就職。
ええ!おめでとう。どこに?
前から、どうしてもやりたかった仕事。ようやくご縁があったわ~。
彼はどうしてもやりたい仕事があって、そこには強い希望とこだわりがあったから、回りが妥協しながらも内定を手にする中で頑張っていた。
頑張って、待ってて、ご縁があってよかったね。
そうやねん。待った甲斐があったな~って、これだけは譲れなかったもんな~。
ああ、もうこんな時間?
夕暮れ時を知らせるチャイムが鳴っていた。
じゃあ、またね。
ばいばーい。
彼は可愛く手を振った。
外は肌寒くて、ジャケットの襟を閉じた。
私は思い出していた。
待った甲斐があったな~って、これだけは譲れなかったもんな~。
そう言いながら、彼が私を見つめていた時の視線を。
もしかして・・・んな事ないか、いや、でも。
私は学食へ戻って、彼の姿を探した。
そうだよね・・・待ってるはず、ないよね。
彼の言葉の中に、ほんの少しの望みを見たような気がしたけど、それは思い上がりだったと、すぐに気付かされた。
でも、その時の私が気付けなかった事が一つあった。
彼が学食を見渡せる、渡り廊下へ移動して、私の姿を見守っていてくれた事を。
*運命の人・社会人*
よろしくお願いいたします!
じゃ、早速、これをお願いします。
はい。
ああー、何で一番神経質そうな人に当たっちゃったんだろう。ハズレだな~、もう・・・。
希望通りの会社に入社したものの、配属までは希望通りには行かず、おまけに私の教育係りは一番神経質そうな彼。唯一の救いは、その彼が色白のイケメンだったという事だけだった。
ちょっと、いいですか?
はい。
これ、入力ミスが目立ちます。確認してから、もう一度提出して下さい。
申し訳ありません、すぐにやり直します。
細かいんだよね~、本当に。自分で直してくれたっていいじゃない。観賞用には適しているけど、一緒に仕事をするのは・・・どうなんだろうな~。
と、心の中でボヤいていると・・・
何ですか?
いえ、何でもありません。
これだもの、全てを見透かされているようイヤだった。
入社して研修中は、神経質でイケメンの彼が仕事のパートナーだった。それでも、研修期間が終われば状況が変わると思っていたのに、だ。
今日から、改めてよろしくお願いいたします。
と、彼に挨拶している私がいた。
部署が開いてくれた歓迎会の席。
どうして、ここでも隣なの・・・息抜きも出来ないよ。
僕が隣では不服ですか?
いえいえ、そんな事は無いですよ~。
と、これまでの人生で学んで来た、同性に嫌われない程度のぶりっ子を出してみた。
ダメだ、通用しない・・・。
さり気ないぶりっ子が通用しないタイプの彼だった。
仕方が無いので飲むしか無かった。酔った勢いで言ってしまった。
あの~先輩は私の事、嫌いですよね?
周りの騒がしさにかき消されそうな私の声に対して、意外な答えが返ってきた。
いや、好きですよ。
・・・・・
仕事もきちんとこなしていますしね、問題も無いですし。素直でいいと思いますよ。自分の下で一緒に働きたいと思ったので、それは人事に伝えておきました。僕は希望が叶って、君と仕事が出来て嬉しいですけども。
君は僕の事、嫌いでしょ?
驚いていた。へ~、私の仕事振りを買ってくれてたんだ。お陰で、私は彼と一緒に働くのね~・・・・。
き、嫌いじゃないですよ。仕事も出来るので尊敬してます。
単純な私は、評価されていた事が嬉しくて、お酒の力も借りて、彼に心を開き始めていた。
初めて仕事以外の話をしてくれた彼。
彼は異業種ではあるけれど、とある会社の御曹司で、将来は父親の後を継ぐという事。そして今は修行の為にこの会社にお世話になっているという事。
私も大学時代の話をしてみた。
ふ~ん、じゃあ、その大きなサークルでのマネジメントが少しは役に立っているんだね。
そうなんですかね~。
評価されたら、期待に応えようという気持ちも高まって、私は彼と一緒に懸命に仕事に打ち込んだ。彼について行くと仕事も上手く行った。
最初はあんなにイヤだったのに、仕事上のパートナーとして、欠かせない存在になっていた。そして、偶然とはいえ研修で彼と組んだ事が運命だったとさえ思っていた。
仕事が順調進んでいると、彼と過ごす時間が増えていた。
仕事のパートナーだった彼が、プライベートでのパートナーにもなるのは、自然な事だった。
じゃあ、先に行くからカギ閉めておいで。
えー、一緒に行きたい。
それは、ちょっと・・・・。
会社では何食わぬ顔してるのに・・・。
遅刻しないように。
こういう所は、お堅いのよね~・・・・。
その日の昼休み。
二人が付き合っている事なんて、だれも気付かない社内。この人と私、付き合ってますよーと言いたくなるような時も多かった。
彼の仕事ぶりと容姿、そして何より御曹司というバックグラウンドがあるから、他の女子社員が放っておく事は無かった。
彼は、わざと私のテーブルの近くに座ってきた。数名の女性陣を引き連れて。
彼女いるんですか~とか何とか、色々と詮索している様子の女性陣。
その人には、ぶりっ子は通じませんよ~。彼女は私ですよ~。
と、B定食を食べながら心穏やかでは無かった。
彼は女性陣をうまくあしらいながら、私の様子も見ていた。
ネクタイを緩めて、シャツのボタンを開け・・・私を見て微笑んだ。
・・・・・
ひゃーっ、ここで出す?
昨晩の事・・・・。
社内恋愛は、やっぱり内緒?
そうだね。できれば黙っていた方が、今はいいと思うけど。
彼女いる?って他の人に聞かれたら何て答えるの?
何て答えようかな~・・・。
私は彼の首筋の際どい場所にキスマークをつけてあげた。
私の彼ですっていう目印。
ふふふふふ・・・全く、子供なんだから。
そのキスマークを、さりげなくチラっと私にだけ見せるように襟元を開けた彼。
私はB定食どころでは無くなって、一人恥ずかしくなって、その場を立ち去った。
社食で、あんな事しないでよ~。
だって、目印だって付けたのは君だよ、君。
そうでした・・・・。
こんな風に目印つけなくても判るようにしましょうか?
え?
これは君が僕の物だという目印です。
そういって、彼は私の薬指に指輪をはめてくれた。
驚いていた!プロポーズの言葉と指輪のブランドに。
ハリーウインストン?
そう。
これは・・・そしたらお返しは、フランクミュラーの時計とかじゃないとダメ?
そんな事気にしなくて大丈夫。もう持ってるし・・・。
こうして、私は自分自身で考えてもいなかった玉の輿に乗ったのだった。
結婚を機に私は部署の移動があった。
入社当初から希望していた部署だったし、何より彼と同じ部署で働くのは何だか抵抗があった。
彼も実家の事業を継ぐまでは、私が働く事を快諾してくれた。
新しい部署での仕事は、毎日が新鮮で楽しくてやりがいもあった。
彼の下で働いて学んだ事が、そこでの私のスキルアップを手助けしてくれた。
ただ・・・
すれ違っていった。
時間が無くてすれ違うなんて、よく聞く話だし、私達は大丈夫だと過信していた。
でも、ほんの数ヶ月で、私は気を使いながら彼と過ごすよりは、仕事に打ち込む方が楽だと感じてしまった。
仕事だけのパートナーでいた方が良かったのかな?
そうだね。
短い会話が、彼と交わした最後の言葉だった。
こうして、私の人生に×がついたのだった。
*再会・そして・・・*
離婚したん。
×が付いちゃった。
で、今は幸せなん?
そうね~これが私の幸せだって思うようにしてる。
そうか・・・なあ、もう一個聞いていい?あの時、何で学食に戻って来たん?
あの時って・・・どうして知ってるの?私が戻った時は、もういなかったよね?
ああ、おらんかったけど、廊下の方から見ててん。
声、掛けて欲しかったな~。
あん時、声かけてたら、俺ら付き合ってた?お前とはタイミングが合わへんな~。
残念なタイミングだね。
今日は、子供はどうしてるん?
ダンナが面倒見てる。
ふ~ん。そうか。どんな人なん?
えー、聞く?
聞くよ、今日は聞くよ~。
年下のいい奴だよ。
そう言って笑いながら楽しんだ同窓会。
彼は来なかった。
もしもし・・・エイトどう?
どうも、こうもないで!早う帰って来て。
ああ、もうエイト泣いてるの?すぐ帰るから、ちゃんと見ててね。
わかってるがな、早う、頼む。
私は彼と子供の待つ家へ帰る電車に乗り込んだ。
彼と離婚してから、会社を辞め、中途採用で入った会社で出会ったのが彼だ。
年下と付き合うのは初めてだったし、バツイチの私が彼と再婚するまでには時間が掛かった。
今度は俺がいるから。俺がそばにいるから。
彼のプロポーズの言葉。
帰ったらまた、疲れた~って言うんだろうな。
しょうがない、たまには私が頭をなでなでしてあげようっと。
ただいま~!!
遅い~、ほんまに、もう。大変やってんぞ~。
振り出しにもどったな~(笑)
*おしまい*
続きでこの長い妄想にお付き合いくださった方々へ、秘密を暴露します(笑)
今回は、それぞれの『彼』のバックグラウンドやその後も考えてみました。
それは、また別のお話が出来そうな雰囲気でもあって、ニヤニヤしています。
実は。
お気づきの方もいらっしゃると思いますが、
今回の妄話は母が書いています。
過去にもいくつかのお話は母が書いています。
全部読んでいただくと、母と娘のテイストの違いがあって、
言葉のチョイスに個性が現れていると感じています。
それから、もう一つ。
ここに書かれたお話は、冒頭に書いた様に妄想からうまれているのですが、
母の実体験もちょこっと混ぜちゃいました(笑)
どこまでが妄想で、どこが本当の事なのか、わかるかな~!?
いひひ、あはは
本当に素晴らしかったです(^O^)!!
ブログを通じて素敵な親子さんに出逢えたなぁと…(*´`)♪
最後のお相手が黒色の彼ではなかったので、あれれーな気持ちがスッキリしました(笑)
母さんも物語を書くのがお上手ですね(*^_^*)
追記を読むまでNanaさんが書いていると思っていました(笑)やはり親子なので似ていますね{CARR_EMO_203}
実体験どの彼ですか?
緑の彼でしたら大胆な恋をしていらしたんですね…{CARR_EMO_203}そう考えると少し照れてしまいます(笑)
今回のお話はちょっとドキドキしながら読んでました。
お母様の実体験が入っていたからですかね(笑)
いろいろ想像しながらまた読み直します(うひょひょ)
お母様が書かれていたのですね!
NaNaちゃんだと思いこんでいたので全然気づきませんでした(・ω・;)
とっても楽しかったです☆
最近は恋愛小説は全然読んでなかったのですが、久しぶりに読みたくなりました!
長い妄話、お疲れ様でした♪
NaNaさんったら、どうしてこんな大人の恋愛が描けるのっ!?と
どきどきしながら読んでしまいましたよ(笑)
追記を読んで納得です。
母娘で素晴らしい文才をお持ちなんですねー。素敵です(^^)
母だな~と思っておりました。
何度も何度も読み返し堪能させていただきました!!
リネン室の呪縛からは解放されませんが・・・
あれは、今回の大作とは別のジャンルとさせて頂きます(笑)
あの日あの時が少し違っていたら、今の私も違っていたよな~
なんて思うことがありますよね(笑)
すごい面白かったです(*´ω`*)
実体験が含まれてるなんて、ちょっと気になります(^^)
個人的に、緑の彼の辺りが読んでて胸がキュンキュンしちゃいました(笑)
ぜひ、また違う設定でお願いします★
お母さまには初めてコメントさせて頂きます、ynmamaと申します。
と言いつつ、私もアラ40の主婦です( ̄∇ ̄)
よろしくお願いします。
楽しかったです~お話!
それぞれの色さんのお話が私の知っている彼らにぴったりで!!
私も妄想は大好きでよく考えていますが、全然(-.-;)小学生レベルです?!
またドキドキするお話読ませて下さい!
楽しみに待っています。
そしてこれからも娘さんとお母さまの楽しいブログ拝見させて下さ~い。