諦めない教育原理

特別支援教育は教育の原点と聞いたことがあります。
その窓からどこまで見えるか…。

185 近未来からの風#21 OECDの提言「学びの羅針盤!」

2022年09月18日 | 近未来からの風
秋の山で🈟 北沢峠

「VUCA」(Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguity)(不安定,不確実,複雑,曖昧)という未来像での学校教育はどうあるべきか、各国の有識者はどう考えるのか「OECD(経済協力開発機構) Education 2030 プロジェクト」から見て行きたい。
テキストは、
白井 俊『OECD Education2030プロジェクトが描く教育の未来:エージェンシー、資質・能力とカリキュラム』ミネルヴァ書房 (2020/12/22)
参考のHP
OECDにおける Agencyに関する議論について - 文部科学省

第2章 プロジェクトの背景と議論の経過(つづき)

SDGsの指標ともマッチしたウェルビーイングの指標を目指した形で、3つのコンピテンシーを策定したプロジェクトは、ラーニングコンパス(学びの羅針盤)をしめしていくことになる。

その意図と経緯を長くて恐縮だがそのまま引用しよう。

Education2030プロジェクトにおいては、当初考えられていたのはコンピテンシーに関する学習枠組み(learning framework)を策定することであった。(中略)
その意味ではIWGにおいても、「Education2030学習枠組み(Education2030 Learning Framework)」などの言葉が暫定的に用いられてきたのであるが、なぜ「ラーニング・コンパス」と言う表現になったのだろうか。
ラーニング・コンパスは、日本語に直訳すれば「学びの羅針盤」であるが、明らかに比喩的な表現である。第1章で述べたように、AIの発達や移民の増加、サイバー・セキュリティーなどの新しい課題が続々と登場してくる中で、「生徒が、単に決まりきった指導を受けたり、教師から方向性を支持されるだけでなく、未知の状況においても自分たちの進むべき方法を見つけ、自分たちを舵取り(navigate)していくための学習の必要性を強調する」(OECD、2019)ことが意図されたのである。生徒が直面するコンテクストを大きく分けると、“Time”と(時間的コンテスト;過去、現在、未来)と“Space”(空間的コンテクスト;家族、コミュニティー、地域、国家、デジタル空間などの社会的空間)があり、人生の様々な場面で積極的に行動していくためには、こうしたコンテクストを縦横無尽に動いていかなければならない(OECD、2018b)。そのために必要なのが、自分のアイデンティティーをしっかりもちながら、自分がしたいこと、すべきと考えることを、行動に移すことである。大切なのは、「誰かの行動の結果を受け止めるよりも、自分で行動することである。形作られるのを待つよりも、自分で形作ることである。誰かが決めたり選んだことを受けることよりも、自分で決定したり、選択すること」(OECD、2019)である。
(上述のように)この「学習の枠組み」については、様々な議論が行われ、またそのイメージ図についても各国の行政機関や研究者、実務家、さらにはデザインの専門家なども協議しながら改良が重ねてきた。その結果コンパスのような形を設けることとし、(中略)学習枠組みの名称について「ラーニング・コンパス」とすることが提案されている。「コンパス」は方角を示すものであるが、「ラーニング・コンパス」が示唆する方向とは、「私たちが実現したい未来(The Future We Want)」の方向と言うことである。よりVUCAとなる世界において、目指すべき方向にナビゲートしていくことを象徴するものとして用いられているのである。

としており、以下は3種類が代表的なデザインで議論を経て変化してきている。
(文字がつぶれないように濃淡を補正してあります)









「VUCA」(不安定,不確実,複雑,曖昧)という未来にむかってこれらのコンパスで歩んでいくということだ。
こうしたイメージをもとに日本を含めた各国が教育の改善・改革をすすめる主原料にしていきつつあるのだ。

ところで、この「学びの羅針盤」は各国を代表する教育学者や心理学者、そして哲学者が参加して作りあげたものである。プロジェクトの中でこの方々が盛んな議論をし、白井さんは議論の過程を丁寧に本書に取り上げている。
紙幅の限界もあり、ランダムな引用を許していただいて、その一部を紹介する。

ブルーム・タキソウのみにおける認知面、精神運動面、上位面と言う分類を踏まえると、教育プログラムの一般的な要素として考えられるのは、知識、スキル、態度に相当する3つの要素と言うことになる。(中略)プロジェクトの開始当初、議論の参考となる「たたき台」が必要ということで、暫定的にいくつかの素材が検討に用いられていた。
(非公式な会合(IWG)でも)X軸、Y軸に示されている知識やスキルだけでなく、Z軸方向に態度(attitudes)が盛り込まれていること、また、近年重視されているメタ認知(meta-cognition)が全体を通底する概念として示されている。

メタ認知の位置づけについては、(上記のように)、ドメイン全体に通底する概念として捉えられていた。プロジェクトにおいては、これらのような形で、メタ認知を知識やスキルとは異なる、それらよりも高次な別種のものとして扱うべきか検討が行われた。たしかに、自らの知識の質や量についてメタ認知することも、自らのスキルのレベルについてメタ認知することも、また自らの態度や価値観のあり方についてメタ認知することもあり得る。しかし、そもそもコンピテンシーのの統合的性格を前提とすると、メタ認知という個別のスキルのみを、このように特別に扱うことが適当なのか、という疑問が示されたのである。また、メタ認知スキルも認知的スキルの1類型であることから、これを別枠に整理する事は概念整理として適当でないとの指摘も出され、後にメタ認知スキルを認知的スキルの一環として整理することで合意が得られたところである。

態度などに関する側面を整理する際のラベリングの仕方についてである。態度(attitudes)と言う軸が設けられているが、態度は一定の道徳や倫理に基づいて表出されるものでもあることから、問題になったのは、道徳や倫理を含めた価値観を、態度などに関する側面のラベリングにおいてどのように考えていくかと言う点である。(中略)
議論の過程において、“character qualities”(人的資質)などの用語を提案されたこともあったが、これもキャラクターと本質的に同じ問題があるとして、最終的に、態度(attitudes)に価値観(values)を加える形で「態度及び価値観」(attitudes and values)という言葉で合意を得たところである。

以上、断片的で申し訳ないが、似た議論は以前から国内でも何度も行われ、これからも行われていくだろう。「メタ認知の通底」やコンピテンシーを自律的な力(intre-personl)と集団での相互関係での力(intre-prasonal)に分ける考えなどは、議論の上でも新鮮で白井さんもここにレポートする価値を感じられたのかもしれない。

そして、その成果は、現に今度の学習指導要領にもいかされており、

文部科学省が示している学習指導要領においても、資質・能力の3つの柱である「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」が、バランスよく育成されなければならないとされているが、コンピテンシーの統合的性格についての正しい理解に基づくものと言える

と本書にも書いている。
ただ、要点である「統合」して表されたことは、可視化も定量化もしにくく、それが有効性も評価しずらい。だから現場としては扱いにくい印象をうける。いかに統合的にそれぞれの要素を含み込ませるか、ということなのだが、その答えたは実践の積み上げの先ある、ということなのかもしれない。
上の初期、中期のイメージ図は「知識」「スキル」「態度及び価値観」がお互いが編み込まれる流れとしてあらわされ、「統合」を際立てようとしている。

資質・能力の3つの柱それぞれを意識する事は重要であるとしても、本来のコンピテンシーの考え方からすれば、3つの柱を別個独立のものとして捉える事は現に避けねばならない。

と、白井さんはくり返している。

次回は、子ども達が学習の主体者であるべきとするプロジェクトの趣旨を担保する「エージェンシー」について学んでいく。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする