ヘルンの趣味日記

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明治の暗さ

2017年06月26日 | 日記
山田風太郎の「幻燈辻馬車」という小説があります。

幕末から明治初期、辻馬車で生計を立てている男と彼が馬車にのせる様々な有名人が交錯する話です。

過去の悲惨な出来事、現在進行で語られる出来事、どれも動乱期のすさまじい話があります。

ちょっと印象的なのは会津藩への明治政府の仕打ちは有名ですが会津藩のほうでも戦争中、民間人に無法な行動をとったという設定があったことです。そのために会津を憎みつづける美女が会津県令をそそのかして会津を苦しめたという話です。
もちろん小説はフィクションですが、たしかに戦争だから会津を憎む人がいても不思議はないでしょう。

主人公のセリフで
「幕末が暗かったというが、自分には明治のほうが暗く感じる」
というものがあります。
日本の夜明けとか、維新の明るい側面が強調されがちですが、現実はそれほど明るくなかったかもしれません。

幕末の開国によって新しい感染症が脆弱な公衆衛生の国に流れ込んだり、神と仏の信仰の共存が崩れ、大変な時代だったようです。

その暗い、混乱した社会をひた走る辻馬車というのが、なんとなく産業革命時代の暗い時代のホームズをのせた馬車のようで、雰囲気があります。
幻燈というのは、辻馬車が明治の光と影を映すということでしょうか。

私はこの小説の「明治は江戸より暗い」という言葉が印象的で、以来、明治期を見る目が変わりました。
ちょっと考えたらわかるはずだったのですが、あまり負の側面を想像したことがありませんでした。

これまでの社会秩序の瓦解による「蝶々夫人」のような話。

さらに明治期に流行したコレラなどの感染症。
脆弱なインフラのため、公衆衛生もレベルが低かったはずで、そのことが鎖国で守られてきた社会を直撃したことでしょう。

そこそこ安定していた幕藩体制をとりやめ、鎖国から開国に変化したときに、暗い側面があっても不思議ではないです。
とくに開国直後にはそれほどではなかったでしょうが、明治時代初期はこれまで全く存在しなかった感染症が蔓延していたことは想像できます。
また、西洋医学をあまりに過信した悲劇もあったようです。

明るい側面というと、
思いつくのは阪田三吉です。

家元制度がなくなったために、江戸時代では将棋をさすことも許されなかったはずの階層から将棋の天才が出現できたことです。
色々苦労したそうですが、とにかくその才能を発揮して将棋の歴史に残りました。

あと、科学者が留学を通じて一気にその才能を開花させました。

才能のある人たちが苦しみながらも、成果を出した時代でもあったようです。


ただ、明治後期はともかく、鹿鳴館時代など、明治の初期はちょっとファンタジーのようなありえない狂気の時代だったように思えます。