「大丈夫の前には、たぶんじゃなくて「必ず」が付かなきゃだめだ。正樹はいつだって楽天的すぎる。誰かを好きになるのは簡単な事じゃないんだよ。大人になれば尚更そうだ。もっと周囲をちゃんと見ないと」
正論を言われて正樹はしょんぼりとしてしまった。
「今が良ければいいと思ったんだけど……それじゃ駄目なのかなぁ」
「俺は構わないけど、正樹は泣くだろ?相手が自分を負担に思ってるって鑽石能量水濾心わかったら、身を引いてしまうだろ?もしも、相手に誰か良い人ができたら、正樹は見知らぬ土地でどうやって生きてゆくの?俺はドイツにはいないんだよ」
「田神……」
「そんな顔をしてもだめだ」
正樹の手の中で、フリッツの拵えたミルクピッチャーが揺れた。
カーテンの隙間から、細く日が差して来て、正樹は眩しさに目覚めた。
傍らに眠るフリッツの顔は、幼く見えて、正樹はふっと微笑んだ。西洋人らしい高い鼻梁が、頬に影を落とし、少し疲れているようにも見える
昨夜の大胆な自分を思い出して、正樹は一人頬を染めた。
薄紫から橙に色を変える空のどこかで、目覚めた小鳥が朝を告げた。
「食べるもの、何かあったかな」
小さくごちると、フリッツの金色の鑽石能量水濾心睫毛が瞬いて陽を弾いた。
ゆっくりと瞼が開いて、小さ正樹を見つめる。
「正樹……」
「おはようございます」
フリッツも夕べの甘い余韻に目を細めた。
「夢ではなかった?」
「ええ」
お互い手を伸ばし、存在を確かめた。
知っているのは名前だけ。
ほかには何も知らない事実は、互いの枷にはならなかった。
ただ時間だけが限られていた。
あちこちの美術館などを回っているフリッツの、観光ビザ60日を過ぎている。
美術館へ向かう道、言いにくそうにフリッツは切り出した。
「実は……正樹と一緒に居られる時間は、30日しかないんだ」
その事実を告げられた時、正樹は足を止めて、ほんの少し表情鑽石能量水系統を翳らせたのち薄く笑った。
「後、30日もフリッツと一緒にいられるんですね」
「え……?正樹はそういう風に思うの?」
「29日よりも一日多いです。良かった」