デミング博士のニューエコノミクスって

デミング博士の”ニューエコノミクス”に書かれた内容と,それに関連する内容を,「マターリ」と理解するページ

PDSA Cycle PDSAサイクル

2005-11-27 16:00:00 | 論理!!
 論理の要,PDSAサイクルと,演繹と帰納についてさらします.

1.PDSAサイクル



 まず,PDSAサイクル(について,New Economics Ch. 6 Management Peopleよりの内容をさらします.
 ちなみにオリジナルはPDCAサイクルですが,デミングさんはもっと本質がわかりやすくなるよう,C: CheckをS: Studyと言い換えています)

 The New Economics: for Industry, government, education -2nd ed. P.131より
【】内訳注
<引用>


Fig. 13 A flow diagram for learning and for improvement of product or of a process.

The PDSA Cycle. 2 このサイクルは(Fig. 13),学習及び,製品やプロセスの改善ためのフローダイヤグラムである.

 ステップ1. PLAN. 誰かが製品やプロセスの改善のアイディアを持っている.これが ステップ1に埋め込まれている 0-th ステージである.これが,テスト,比較,実験の計画を導く.ステップ1がサイクルすべての基礎である.急なスタートは非効率で,コストがかかり,フラストレーションがたまる.人々はこのステップをショートカットする弱さを持っている.彼らは動きを止めず,活動を止めず,忙しさを止めず,ステップ2に移る.
 計画ステージは,いくつかの考えよりの選択と共にスタートしているであろう.どれがテストできるか? 結果はどうか? 可能な選択からの可能な出力を比較する.どの考えが,新しい知識または利益を最も確実に表しているか?
 問題は,どうやって実行可能なゴールを達成するかであろう.

 ステップ2. DO. ステップ1で決定したレイアウト【割付】条件での望ましい限り小さいスケールでのテスト,比較,実験の実行を行う.
【実験計画法みたいです】

 ステップ3. STUDY 結果を学習する.結果は,希望や期待とどれだけ一致しているのか? もし違うならば,何が間違っていたのか? たぶん,私たちは初めの時点で自分を騙していたので,再度新しくスタートしなければならない.

 ステップ4. ACT. 変化を採用する
      もしくは 【その考えを】廃棄する
      もしくは  再度サイクルを回す,出来るだけ違う環境条件,
            違う材料,違う人々,違うルールで.

 読者に銘記して頂きたいのは,変化を採用するまたは,廃棄するには,予測が必要である事である.

2 このPDSAサイクルの出典は,1950年 日本での私の講義による.これは,Elementary Principales of the Statical Control of Quality (JUSE 【日科技連】, 1950; Out of print)に示されている.

</引用>

 実は,このサイクルについてデミングさんは,Ch4. でもいっていて,下記のような例や,幾何学(ユークリッド幾何学から非ユークリッド幾何学が出てきた:デミングさんは,ユークリッド幾何学を大きな広いビルや長い道路に応用した際に生じる不都合(地球は丸いので)に新しい幾何学が必要になったとの説明をしています)例などを引いて,説明しています.

 前にCh4の内容を書いていますので,そこからのコピペです.

The New Economics: for Industry, government, education -2nd ed. Ch.4 P. 102 より
<引用>

 Knowledge is built on theory. 知識は,論理の積み重ね.

 知識の論理は私たちにひとつの事柄を教えてくれる.もしそれが知識を運んできてくれ,将来の予測が出てきて,間違いのリスクも分かり,そして過去の観察と間違いなしに合えば.
 合理的な予測には,予測と観察結果との比較が基礎になった,システマチックな変更や論理の拡張による,論理や知識の組み立てが必要である.

 庭の雄鶏君は論理を持っていた.
 彼は毎朝パタパタ羽をはばたかせ,彼の全エネルギーを使い鳴いていた.
 太陽が昇った.
 この関係は明らかだ:彼の鳴き声が原因で太陽が昇る.
 彼の重要性には,何の疑いも無い.
 障害がおきた.ある朝,彼は鳴くのを忘れた.
 太陽は,お構い無しに上がってきた.
 ショボーン.彼は,彼の理論を変更する必要性を感じた.

 彼の理論が無いと,彼は,何も変更できない.何も学習出来ない.

</引用>

 これは,PDSAサイクルのPの時点で論理(仮説)を組み立てる必要があり,その論理が無いと,このサイクルが役立たない事を指し示しています.(だから,上記「ステップ1」で,「人々はこのステップをショートカットする弱さを持っている.」とわざと説明しているのでしょう.)
 下記に,私がまとめたPDSAの内容を挙げておおきます.

  • 将来を予測できる理論である.(Plan)
  • その理論より出た予測と,実際の観察の結果との比較が可能である.(合っているかどうかがわかる)(Do)
  • 比較の結果,その理論があっているか,間違っているか判別可能である.(Study・Check)
  • 理論が間違っていた場合,その理論の変更もしくは拡張で理論を改善できる.(Action) (これが出来ないと,その理論を捨てて,新しい理論を採用する必要がある)

 そして,上記のような理論が無いと,予測が出来ない.また予測が間違っているかどうかが分からないため,学習が出来ない.(=改善できない)となります.

2.演繹と帰納



 ここで,デミングさんの本から離れて,宮川雅巳さんの「品質を獲得する技術 タグチメソッドがもたらしたもの」P. 53 2.3.1 実験研究の2つの流儀の内容を見ていきましょう.
 この研究(実験)の二つの流儀とは,「演繹的実験」と「帰納的実験」の二つです.
 この二つは以下のような感じです.
  • 演繹的実験: 実験する項目に対する仮説を立てる.例えば落体の実験とかで,「落体の落下距離は,時間の2乗に比例する」とかです.これを条件を合わせて色々な高さから落としてみて,時間を計り,このとおりになるかどうかを確かめるのを演繹的実験とかと名づけます.
  • 帰納的実験:もう一つの帰納的実験とかは,ベーコンさんが提案した概念で,自然現象に人工を加えてどのような結果になるかを観察することだそうで,これを経験的因果関係の発見に役立てようとしたらしいです.
       この二つをホパーさんの科学的研究法の枠組みにはめると,下記図のようになります.(なおこの図は,「品質を獲得する技術」P54 図2.11 に私が加工と落書きしたものです) 図 ホパーによる科学的研究法の枠組み及び,PDSAとの関連  そう,実は私がこの図を見たときに,「PDSAに似てない?」と考え,落書きしてみたら,あらま,合うではないですか.(そうでもないですか?)  もしかしたら,「仕事や社会の仕組みの分析や設計に科学を持ち込むとはこういうことですか.」などと思ってしまいました.  それはともかく,宮川さんは,【フィッシャー(R.A.Fisher;1867-1947)が20世紀初頭に創始した実験計画法は,無視できない実験誤差のもとで,ベーコン流実験を近似的に実現する方法論であり,タグチ流実験も帰納的実験をある面で徹底させたものである.】(宮川,前掲書,P. 55)といっています.  もし,上記図が,PDSAにフィットするのであれば,PD部分は,各技術やら方法論やらでカバーする領域であり,SA部分は統計的手法がカバーする領域で,品質管理とはつまり,各固有技術(方法)+統計的手法という事になります.  そして,デミングさんの言うとおり,Pでの論理の組み立てが重要であるのであれば,基礎体力として統計的手法は必要であるが,やはり重要なのは固有技術であるといえると思います.

      参考文献

      • Dening, W. Edwards,The New Economics: for Industry, government, education -2nd ed.,1994,ISBN:0-262-54116-5
      • 宮川雅巳,品質を獲得する技術 タグチメソッドがもたらしたもの,2000,ISBN:4-8171-0399-6