デミング博士のニューエコノミクスって

デミング博士の”ニューエコノミクス”に書かれた内容と,それに関連する内容を,「マターリ」と理解するページ

Interdependence 相互依存

2005-11-20 16:26:46 | システムについて
 経営学の父:ピーター・ドラッカーさんが先週亡くなったようです.
 実はデミングさんとドラッカーさんは,NYU(ニューヨーク大学)での同僚でした.何でも,マネジメント科創設の時,教室が確保できなくて,市民プールが使用されていない時にそこを教室として講義をしていたそうです.(でも,この2人には何かぎこちなさがありますが…….やっぱりMBOがらみなんですかね?)
 そこで,デミングさんの本で,ピーター・ドラッカーさんに言及している部分を抜き出してさらします.

Interdependence 相互依存



The New Economics: for Industry, government, education -2nd ed. P96より
<引用>

 コンポーネント間の相互依存の大きさは,彼らの間のコミュニケーションと協力の必要性による.
 Figure 9に,低から高までの依存度を示す.
 マネージメントの間違いは,コンポーネント間の相互依存を含んでおり,事実,M.B.O.の実践における損失の原因である.
 会社の事業部におけるそれぞれの仕事に与えられている努力は,足し合わされない.
彼らの努力は,相互依存的なものである.一つの事業部がゴールを達成できたとしても,それ自身が置き去りにされ,ほかの事業部を殺してしまう.ピーター・ドラッガー【Peter Drucker】はこの点を明確にしている.
Peter Drucker, Management Tasks, Responsibilities, Practices (Harper & Row, 1973)


Fig. 9 Interdependence, from low to high.


 良く最適化されたシステムの例として,オーケストラがある.演奏者は,プリ・マドンナのようにソロを演奏しないし,各人が,聴衆の耳を捉えようとしている.彼らは,お互いをサポートしている.
個人個人では,国のベストプレーヤである必要は無い.つまり,ロンドン王立交響楽団の140人各人の演奏者は、他の139人の演奏者をサポートしている.オーケストラは,聴衆に判断される.いつも輝かしい演奏者によってではなく.しかし,彼らは共に働くのだ.マネージャと同じ【役割である】指揮者は,システムである演奏者間に協力を生み出し,各演奏者はお互いをサポートする.
ここには,演奏者及び指揮者の働く喜びという,他のオーケストラの目的がある.

</引用>

もう一つ.

In MBO (management by objective) 目標管理



The New Economics: for Industry, government, education -2nd ed. P30より
<引用>





現在の実践 ベター・プラクティス
M.B.O. (management by objective) システムの論理を学ぶこと.システムの目的の最適化により,コンポーネントをマネージすること.

 実践されているMBO,会社の目的は,いろいろな部署や事業部に配分されているものである.経験による通常の仮定は,もしすべてのコンポーネントや事業部が【目的の】共有化を成し遂げれば,全社で目標を成し遂げるであろう.この仮定は一般的な妥当性が無い:コンポーネントは大概の場合,相互依存している.
  不幸にも,いろいろなコンポーネントの努力は,足し合わされない.そこには 依存性がある.つまり,昨年度,購買の人間が10%のコストダウンを成し遂げたとしても,製造でコストアップと品質悪化があるであろう.彼ら【購買】が取るハイ・ボリューム・ディスカウントの優位とそれによる在庫の積み増しが,柔軟性とビジネス上の不測の事態に対する反応の邪魔になる.
 ビーター・ドラッカー【Peter Drucker】は,深い理解とともに,この点を明瞭にしている.
 不幸なことに,大勢の人々は,彼の警告を読んでも,悩むことは無い.
(Management Tasks, Responsibilities, Practices, Harper & Row, 1973)

</引用>

参考文献


  • Dening, W. Edwards, The New Economics: for Industry, government, education -2nd ed., 1994, ISBN:0-262-54116-5
  • Peter Drucker, 牧野洋 訳,ドラッカー 20世紀を生きて, 2005, ISBN:4-532-31232-9


The Funnel 漏斗の実験

2005-11-20 16:23:00 | システムについて
 The New Economics: for Industry, government, education -2nd ed. の第9章The Funnelの内容をさらします.

1.目的


 いつものように,目的と,実験方法を引用します.

The New Economics: for Industry, government, education -2nd ed. Ch.9
<引用>

 この章の目的:この章の目的は,結果管理【Management By Results】(Ch.2)での損失の論理を示すことにある.
漏斗があれば誰でもこの実験を行うことが出来る.
 この実験に必要な材料は,大体家庭のキッチンにあるものである.

 【中略】

</引用>

 つまり,この実験では,バラツキがある場合に,固定した目標や目標を追いかけた方がいいのかどうかを確かめます.

2.実験方法



<引用>

ルール1
 漏斗を目標に向ける.そのまま目標に対し固定する。
 玉を50回ほど漏斗を通して落下させる.おのおのの玉が落ちたところにマークをつける.
 ルール1の結果には,がっかりする.我々の期待より大きなラフな円を描いている.
 【中略】

 【訳注:ルール1は,つまり,漏斗を固定して何もしないということです.】

ルール2
 玉を落とすたびに,最後の落下点に対し埋め合わせるように,漏斗を移動させる.
(例:落下点が目標に対し北東に30cmずれて落ちた場合,漏斗を南西に30cm移動する.)
 結果には,がっかりする.ルール1より悪い.
 【中略】

 【訳注:ルール2は,前の目標位置-前の結果位置=次の漏斗の位置です.】

ルール3
 落胆,我々は新しいルールに関し考察した.玉を落とすたびに補正するが,目標を
補正に使う.最後の落下点を補正するために、目標の反対側に漏斗を移動する.
 ルール3のやり方は,以下の通り:
 1.漏斗を目標の上にセットする.
 2.最後の目標に対する落下点を補正するように,漏斗を動かす.
 (Dr. Gipsie Ranneyの貢献を得た)

 この結果は,今までよりひどい.
 【中略】

 【訳注:ルール3は,固定目標位置-前の結果位置=次の漏斗の位置です.】

ルール4
 (最初の落下後),最後の落下点に対し,正の位置に漏斗をセットする.
 (i.e., 最後の玉が落ちた場所がそこである.)
 ますます落胆.結局天の川のような軌跡だ.
 【中略】

 【訳注:ルール4は,前の結果位置=次の漏斗の位置です.】

 ルール4は,1924年コロラド大学のWilliam Pietenpol教授によって下記のように
規定された.その時,彼の学生のひとりとして,私は数学と物理学修士【履修に】
努力していた.
 酔っ払いの男;どちらが北か東か南か西かわからない;家に帰りたがっていた.
 彼は数歩歩く,よろめく.彼が正しいと思っている方へ,どちらが北か東か南か西かわからない;彼は数歩歩く,よろめく.そしてこの調子で彼はハンディキャップを背負ったまま行動する.彼の試みが増えるとともに,家への距離を縮めるチャンスは少なくなる.
この結論は,1898年Lord Rayleighによって予測された.

</引用>

 上では,漏斗と玉(マーブルとか・ビーズとか)を使用して実験していますが,ここではRというソフトを使用して,シミュレーションして見ます.使用したプログラムは,後の方に記載しておきます.

3.実験結果



 ルール1


Fig. 3-1-1 Rule 1


Fig. 3-1-2 Rule 1 close
座標を拡大したもの


Fig. 3-1-3 Rule 1 Control Chart Y axis

ルール2


Fig. 3-2-1 Rule 2


Fig. 3-2-2 Rule 2 close
 座標を拡大したもの 


Fig. 3-2-3 Rule 2 Control Chart Y axis

 ルール1よりもコントロール・リミットが広がっています.
 (こういう風に目標を補正することを「ハンティング」というそうです.)

ルール3


Fig. 3-3-1 Rule 3 first


Fig. 3-3-2 Rule 3 second


Fig. 3-3-3 Rule 3 Control Chart Y axis

 固定値を目標として補正しているので,波打っています.

ルール4


Fig. 3-4-1 Rule 4 first


Fig. 3-4-2 Rule 4 second


Fig. 3-4-3 Rule 4 Control Chart Y axis

 激しいランダムウォークです.

4.考察・結論


  • ルール2:バラツキがある(目標に対してバラツキが大きい場合)目標を単純に補正した場合は,何もしない場合より大きくなる.(ハンティング:デミングさんは「干渉」と呼んでいます.)
  • ルール3:目標を1つに固定して(幅を持たせず),補正すると,波打つ.
  • ルール4:前の結果が積み重なる(履歴効果等)場合,ランダムウォークになる.


 つまり,下記のような結論になります.
  • 目標を立てる場合は,結果のバラツキを小さくする方法をまず実行し,バラツキを押さえ,バラツキの幅より大きな目標の幅を取るか,補正値を工夫する.
  • むやみやたらに目標値を固定しない.その時の状況を読み取り,目標の幅を考える.
  • 大きな目標を達成するためには,前の結果がうまく積み重なるように考える.もし,その目標が環境悪化等の負の結果の減少である場合,積み重ねが減少するように考える.


 結果管理や目標管理という方法論自体,上記のことを考えていないことが多いように思えます.また,「結果のバラツキを減らす方法」が出来なかったり(例えば,売上予測の精度を向上するためには,GDP(=需要予測)の予測精度の向上が必要だと思います.),履歴効果(教育・訓練等)を無視し,投資ではなくコストとして処理するため,大きな目標(長期的目標)を達成できない事が多々あるような気がします.

5.参考文献


5-1.参考文献


  • Dening, W. Edwards, The New Economics: for Industry, government, education -2nd ed., 1994, ISBN:0-262-54116-5
  • R Development Core Team, R: A language and environment for statistical computing.(Ver. 2.1.1), 2005, ISBN:3-900051-07-0
  • 船尾暢男, The R Tips データ解析環境Rの基本技・グラフィック活用集, 2005, ISBN:4-86167-039-X
  • 田口玄一 他, 製造段階の品質工学, 1989, ISBN:4-542-51102-2
  • 宮川雅巳, 品質を獲得する技術 タグチメソッドがもたらしたもの, 2000, ISBN:4-8171-0399-6


5-2.使用プログラム


 下記に,(汚いですが)プログラムをさらします.
#
#Funnel demonstrates(experiments) program
#
#r		:漏斗の口の大きさ	funnel channel width
#j		:玉を落とす回数		Drop times of beads
#xlim		:描画エリアのX軸の大きさ(中心を0としているので
#		マイナス~プラスの値が必要,例:xlim=c(-10,10)
#		X-axis width of plot area. X-axis Center is 0. 
#		Require to set number from minus to plus.
#		e.g. xlim=c(-10,10) 
#		
#ylim		:描画エリアのy軸の大きさ(中心を0としているので
#		マイナス~プラスの値が必要,例:ylim=c(-10,10)
#		Y-axis width of plot area. Y-axis Center is 0. 
#		Require to set number from minus to plus.
#		e.g. ylim=c(-10,10) 
#		

funnel<-function(x,y,r){
funneldata<-rep(0,2)
rud<-runif(1,min=0,max=r)
sita<-runif(1,min=0,max=pi*2)
funneldata[1]<-(rud*cos(sita))+x
funneldata[2]<-(rud*sin(sita))+y
return(funneldata) } funnelexp1<-function(r=1,j=100,xlim=c(-10,10),ylim=c(-10,10)){
funneldata<-matrix(1:(j*2),ncol=2)
title= for(i in 1:j){ funneldata[i,]<-funnel(x=0,y=0,r)
} par(ask=TRUE) plot(x=funneldata[,1],y=funneldata[,2],xlim,ylim,type="p", main="Funnel demonstrate with Rule.1",xlab="",ylab="") qcc(funneldata[,1],type="xbar.one", title="Funnel demonstrate with Rule.1 x axis") qcc(funneldata[,2],type="xbar.one", title="Funnel demonstrate with Rule.1 y axis") } funnelexp2<-function(r=1,j=100,xlim=c(-10,10),ylim=c(-10,10)){
x<-rep(0,(j+1))
y<-rep(0,(j+1))
i<-0
funneldata<-matrix(1:((j+1)*2),ncol=2)
funneldata[1,]<-funnel(x=0,y=0,r)
for(i in 2:(j+1)){ x[i]<-x[(i-1)]-funneldata[(i-1),1]
y[i]<-y[(i-1)]-funneldata[(i-1),2]
funneldata[i,]<-funnel(x=x[i],y=y[i],r)
} par(ask=TRUE) plot(x=funneldata[1:j,1],y=funneldata[1:j,2],xlim,ylim,type="p", main="Funnel demonstrate with Rule.2",xlab="",ylab="") qcc(funneldata[1:j,1],type="xbar.one", title="Funnel demonstrate with Rule.2 x axis") qcc(funneldata[1:j,2],type="xbar.one", title="Funnel demonstrate with Rule.2 y axis") } funnelexp3<-function(r=1,j=100,xlim=c(-10,10),ylim=c(-10,10)){
funneldata<-matrix(1:(j*2),ncol=2)
funneldata[1,]<-funnel(x=0,y=0,r)
for(i in 2:(j)){ funneldata[i,]<-funnel(x=0-funneldata[(i-1),1],
y=0-funneldata[(i-1),2],r) } par(ask=TRUE) plot(x=funneldata[,1],y=funneldata[,2],xlim,ylim,type="p", main="Funnel demonstrate with Rule.3",xlab="",ylab="") qcc(funneldata[,1],type="xbar.one", title="Funnel demonstrate with Rule.3 x axis") qcc(funneldata[,2],type="xbar.one", title="Funnel demonstrate with Rule.3 y axis") } funnelexp4<-function(r=1,j=100,xlim=c(-10,10),ylim=c(-10,10)){
funneldata<-matrix(1:(j*2),ncol=2)
funneldata[1,]<-funnel(x=0,y=0,r)
for(i in 2:j){ funneldata[i,]<-funnel(x=funneldata[(i-1),1],
y=funneldata[(i-1),2],r) } par(ask=TRUE) plot(x=funneldata[,1],y=funneldata[,2],xlim,ylim,type="p", main="Funnel demonstrate with Rule.4",xlab="",ylab="") qcc(funneldata[,1],type="xbar.one", title="Funnel demonstrate with Rule.4 x axis") qcc(funneldata[,2],type="xbar.one", title="Funnel demonstrate with Rule.4 y axis") } funnelexp1() funnelexp2() funnelexp3() funnelexp4()