昔、新宿のFugetsudoによく通ったものです!

そろそろ先が見えてきましたから、今のうちに記憶を書いておこうと…

横浜駅まで歩けるマンション

2012年01月22日 | ファンタジア
(タイトルをクリックすると、絵が大きくなります)

 小田急線O駅近くの僕のぼろアパートから始まった僕たちの秘めたる恋は、君が買ったF駅近くの君の買ったマンションに移って、もうすぐ、10年になろうとしていた。

 しかし、F駅近くのマンションは狭くて、熱くて…ということで、君は新しいマンションを探し始めた。「深夜の疾走」で、なんとか看取ることができたお袋さんから、財産相続を受けたのかもしれない。ちょっと信じられない若い独身の女性の金の余裕だった。何しろ、新築のマンションを買おうっていうのだから…。

 Fのマンションは、二人の職場にも近く便利だったけれど、逆に不自由でもあった。まあどこに住もうが、おおやけにできない秘めたる恋の二人は、どこか常におどおどし、公然とは二人では歩けないで周りを気にしていた。その原因は、おおやけになった場合のいろんな困難が見えていたからだ。もちろん、二人、腕を組んで歩きたかったのだが…。

 僕が子供たちを見限ることができない以上、あの時点で君との結婚は考えられなかったし、秘めたる恋がおおやけになれば、僕も君も仕事を失うか、そうでなくても、別の職場で全く一からやり直さなくてはならないだろうということは明らかだった。そうかといって、君も僕も、この二人の出会いをこのまま消し去るという選択は考えられなかった。だから、二人は二人でいることが神様の考えかのように、必要不可欠な存在だった。

 君が次のマンションを探し始めたのは、そんな時だった。

 僕はJR横浜駅のすぐそばに、新しいマンションが工事中だというのを東海道線に乗る度に見ていて知っていた。それがHKと言うマンションだった。ちょうど売り出しの垂れ幕が東海道線の車窓からも見えた。候補に加えたらどうかと君に話した。ちょっと高そうだけれど…と言った。

 二人で下見に行った。販売していた不動産屋さんは、40過ぎの僕と30歳代初めの若い君の取り合わせに、どういう組み合わせの二人なのかと迷ったようだ。下見の主役は君で、僕はそれの付添という役割だった。決めるのは君だったから、相談には乗っていたけど…。 不動産さんは、誰と話せばいいのか本当は分からなくて、まごついていたのを思い出す。変な二人だなぁ、どんな関係なんだろうと思っていたに違いない。

 君には新しいマンションを買うことについて、明確な目的があったのを知ったのはすこし後のことだ。

 君は、きっと毎日、二人で一緒に暮らしたいと思い始めていたに違いない。つまり、二人がちゃんと住めるマンションが欲しかったのだと思う。リビング、君の部屋、二人で眠ることもできる部屋、そして僕専用の部屋。そんな風景が頭にあったのだろうと思う。それは、F駅近くのマンションではかなわなかった。

独立した部屋を僕に与えたい。そして、そこを僕の本拠として僕に生活してほしいという願いがあったのだと思う。そう、その部屋に僕のサイドテーブル付のデスクを買ってくれた。その机とは、それ以来ずっと僕と一緒に動いている。

 このマンションは、確かにF駅にくらべても僕たちの職場へも比較的簡単に行けるし、東京へのアクセスは格段に良くなることは確かだった。それに、そのマンションには高いけれども、屋内駐車場がついていた。当時としては珍しく、無線でガレージのシャッターを遠くから開けることができた。

 駐車場にはもう僕たちが下見したころには、本当はもう空きはなかったのだと思うけれど、君が購入の条件にしたから、不動産屋さんは、隠し持っていた最後の一台分を君に確保することを受け入れた。

 即決はできなくて、手付けをうって考えることになった。それにしても、君は30代初めの若い女の人としては、結構、自分でいろんなことを決めていた。僕との秘めたる恋を止めることもできたのだけれど、続けようと決めていたし、Fのマンションの購入は一人で決めた。そして、今度はもっと広くて、値の張る新築マンションを買うって決心していた。

 でも僕には一つ、気になることが起きていた。それは、君がアメリカまで追っかけて行った独身男性のマンションが、君が購入しようとしているHKのすぐ近くにあるということを偶然見つけていたのだ。それは「こころのスタンス、もしくは立ち位置」で書いた若いエンジニアの持っている派手なフェラーリの姿だった。その車はそんじょそこらには存在しない車で、平沼あたりのあるマンションの屋外駐車場に止まっているのを、僕が東海道線に乗っていて偶然見つけたのだ。

 
 そのマンションは、君の購入しようとしていたマンションから歩いて6~7分のところにあった。僕はどうも気になって、購入予定の新しいマンションから歩いて行ってみた。その日、ど派手なフェラーリはいなかったけれど、そのマンションにはその彼の名前があった。なんだかなぁ…と思った。これからも、できれば付き合いを続けたいと君が思っているのかとも…。

 いろいろ検討したけれど、その頃の新築マンションとしては、安い方かもと言うことで、君が購入することが決まった。ただし、駐車場はべらぼうな賃料がついていた。それは僕が払うことになっていた。

 横浜駅東口から横浜中央郵便局と崎陽軒の間を右に歩いて7分。ここが、その後の二人の棲家となった。

 でもやはり、僕は週末には子供たちのいる家に帰り続けていた。君の希望していた、週末も含めて一緒に生活する場所にはならなかった。それがどう展開するのか、その年の7月、二人にはよくわかっていなかったのだ。
コメント