昔、新宿のFugetsudoによく通ったものです!

そろそろ先が見えてきましたから、今のうちに記憶を書いておこうと…

大きなゴムボート

2008年08月22日 | ファンタジア
別荘の夏は思い出がいっぱいだ。葉山の海のすぐ側だから、水遊びには、ちょっと坂を下るだけでいい。

いつだったかの夏、愛犬のJも一緒に別荘に行った。そう、Jは結構、君とのデートに一緒だったことを思い出す。折りたたみのバリ・ケンを車に乗っけて、餌を少し持って出ればいい。

別荘にJがついてくることを、君はちっとも気にしてなかった。むしろ楽しんでいたようだった。考えてみると、逆に、カミさんが僕が犬連れで、泊りがけで出かけるのを何とも思っていなかったのは、ちょっと不思議だった。

ある夏のある日、物置から大きなゴムボートを引き出して、ポンプを探してだして空気を入れ始めた。迷彩調の深いグリーンの大きなボートを膨らますのは大変だった。3~4人乗りのボートをパンパンにするには、かなりの時間がかかった。僕は汗まみれになっていた。それだけで疲れて、芝生の上に寝転がっていた。Jがじゃれ付いてきたが、僕は顔をなめるに任せていた。

元気を出して、二人で軽くはないゴムボートをやっと浜に降ろしたのは、もう昼だった。小さな浜には人がたくさん出ていて、波が結構高かった。

何とか、3人(二人と一匹)で、沖に漕ぎ出そうとするのだが、小さなパドルでは、なかなか前に進まない。ゴムボートはとても、抵抗を受けやすく、結構重いものだと知った。

ぎゃぁぎゃぁ言いながら、二人で頑張って、沖を目指す。波が高くて、風もある。天気は上々だけれど、前に進まない。ふっと、君の砕けた笑い顔が、今もまぶしく思い出される。

3人で何とか、沖のブイまでと考えていたのだが、簡単ではない。何しろ、波打ち際からなかなか離れられないのだ。

と、ちょうど引き波の頭を超えようとしていた時に、新しい大きな波が僕たちを襲った。
ボートは、激しく上下した。船底にうずくまって、びしょびしょになっていたJが立ち上がった。危ないぞ…と思っているうちに、Jは揺れを怖がってか、自分で海に飛び込んだ。
それこそ、犬掻きで一生懸命、岸を目指し始めた。Jにとっては、初めての海。波が顔を襲うと、苦しいらしい。

僕は、あわてて飛び込んだ。君はボートに残っていた。とにかく、Jに追いついて浜にあげてやらなくてはと、あせった。なんとか、Jが波で沖に流されるのを防ぐことができた。助かった。

周りの人は、状況がわからず、笑いながら僕とJを見ていた。僕は、冗談じゃないと思った。とにかく、Jは無事だった。

君だけ乗ったボートも、波に押されて浜に近づいてきた。もうやめようって、僕が言った。二人で、ボートを何とか浜に上げ終えて、二人はJを真ん中に座り込んでしまった。息が荒かった。

ジリジリ太陽が照る。パラソルが風に揺れていた。砂だらけになって、二人と一匹はひっくり返ったままでいた。

帰りはきつい上り坂。ゴムボートだから、引きずって行くわけにもいかない。とにかく、とにかく、二人でやっと帰ってきたときは、もう何もやる気がしなかった。
Jは君に、シャワーしてもらい、拭いてもらって縁側にうずくまっていた。

もう、二度とゴムボートは出さないと決めた、Jとの一日だった。

<この写真は、Flickr にあるEggybirdさんのWavesを借用しました。>

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君が家にきた

2008年08月01日 | ファンタジア
僕の職場はとても上下関係が薄い世界で、えばっている上司も少なければ、へりくだっている部下も少ない非常にフランクな世界だった。

そんな環境だから、部下や仲間を自分のうちに気楽に呼んでホーム・パーティみたいなものを開くことが珍しくなかった。
僕も独身時代、いわゆる課長さんにあたる関係のMさんの横浜・軽井沢のお宅に何度か遊びに行ったことがある。奥さんともいい友達になれた覚えがある。

僕の自宅が出来て数年経った頃、課の誰かが僕んちにいってみようと言い出した。たしいかに僕の家が完成してから、まだオープン・ハウスみたいなものをやっていなかった。

その話を聞いて、ちょっと引けた。みんなに知られてはいなかったけれど、僕は子供たちに会うための週末を除いて家族と別居していたからだ。

もうその頃、カミさんとは子供達のこと、学校のこと、地域社会とのこと以外は会話も無いさめた関係になっていた。子供たちのことを考えて、家庭をぶち壊すことはしないと合意していたから、外見には幸せな家族に見えたはずだ。

一方、君とは、まだ飲み友達プラスアルファの関係の頃だった。幹事が、女の子がいるほうが座が和らぐと、同じ課ではなかった君とか、上司の秘書とかにも声をかけた。結果として、君は僕の部下たちと一緒に5~6人で僕んちに来ることになった。

僕は心の中ではちょっとためらっていた。君が来ることにちょっと不安だった。男女が仲良くなると、本人たちは全く気づかないけれど、周りにはちょっとしたしぐさとか言葉から、ふっと本当の姿が現れてしまうことが間々あるからだ。たとえば二人の間の物理的な距離感だとか。

かといって、君を招待者のリストからはずすのはもっと目立つと、結局そのままにした。

君たちはやってきた。カミさんはしっかり者の主婦だし、海外経験もあるから洋風の料理をいっぱい作って歓待してくれた。みんなも良くしゃべり、よく飲んだ。僕の子供たちも、犬のJも一緒になって、久しぶりに笑い声が我が家からもれたはずだ。

家の中を案内したり、レコードをかけたり、僕たちの海外生活のアルバムを見せたりして、時間が経った。君と僕は、特に意識することも無く、みんなと一緒に自然に時間を過ごせたと思う。

ただ君が、僕のヨーロッパ生活のアルバムを夢中になってみていたのを覚えている。きっと過去の僕をできるだけ知りたいという気持ちが強かったのだろうと思う。

いつものようにみんな良く飲んで、君も酔っ払っていた。そして、君はみんなと一緒に車で帰っていった。僕はカミさんの手前、どこか緊張が解けてほっとした。

しかし、後片付けをし始めたとき、車が戻ってきた。なんだろうと思っていると、君は自分のハンドバッグを僕んちの居間に忘れたまま帰ってしまっていたのだ。

女性にとってハンドバッグは付属物みたいな大切なものだ。プライバシーの塊といってもかまわないと思う。それを君は僕んちに忘れていった。やはりすこし普通ではなかったのだと思った。

このことで、君はカミさんに強い印象を与えたようだった。やっぱり、ちょっと無謀だったかなと少し僕は後悔した。

その後、君は何度となく、も少し早く出会っていたらなあ…って、僕に言っていた。

僕が家庭を持っているという現実を、家に来て改めて実感したのだと思う。
二人の関係の苦しい面が見え始めていたのだ。

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