ニシノユキヒコの恋と冒険

2018-12-26 00:00:11 | 書評
おそらく川上弘美の代表作の一つになるだろう『ニシノユキヒコの恋と冒険』。10編の短編連作集なのだが、10編とも男と女の絡みである。淡い恋なのか、深い愛なのか、単に欲望を満たすだけなのか、それぞれの短編にそれぞれの形態があり、10編とも女性側からの目線で書かれている。

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ところが、小説的に大問題なのは、10編とも男の方は「ニシノユキヒコ(あるいは西野幸彦)」という同一人物。時制は必ずしもこどもから大人に流れるわけでもなく読者は注意が必要なのだが(といって文学部の教授(男でも女でも)がこの小説を女子学生に読ませて、10編を正しい時間の流れに並べ替えなさいというようなことにはならない)、つまりニシノユキヒコのこどもの頃から亡くなるまでの恋の遍歴を女性の側から書いているわけだ。

実は、その仕掛けに気が付くのは、論理的には第二編のはずなのだが、迂闊にも、もう少し読み進んだ後だった。思ったのは、この小説は、「源氏物語」なのだということ。次々に女性を取り替え引き替えながら布団に潜り込んでいって、時には女性を傷つけたり怒らせたりしながら読者である平安貴族を喜ばせていたのが、紫式部が創り出した「光源氏」だったのだが、それを現代版ダイジェストにしたのが川上弘美なのだろう。まあ、ドンファンという似たようなコトバもあるが、川上弘美にも西野幸彦にも紫式部にも光源氏にも失礼だろう。

そして、紫式部は、光源氏亡き後の世界も少し書き足したのだが、本書も第9編で主人公が亡くなり第10編がある。

一編ずつは、ひどい男だな、と思うような小説なのだが、10編を読み終わると、彼の人生はかなり可哀そうな側面もあったのだなあと、感傷的回想をもって裏表紙を閉じることを著者は期待したのだろう。

もっとも、実生活でも奔放な恋愛を楽しもうという楽天的な方々は、本書を読めば、「恋愛関係における相互無神経さの効果」をさらに習熟し、磨きをかけることもできるだろう。

実は、今年読んだ100冊目の本。


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