ベルリン飛行指令(佐々木譲著 小説)

2019-06-20 00:00:02 | 書評
本著を勧めてくれた人の談では、「私には、あんな勇気はない」ということだったので、てっきり「翼よ!あれが巴里の灯だ」というような飛行機黎明期の小説かなと思っていたが違っていた。昭和15年、日独伊三国の軍事同盟が結ばれた頃、すでにドイツの英国空爆計画が挫折していた。爆撃機を守るべき戦闘機(ユンカース)の実力が英国のスピッツファイヤー機の能力に後れを取っていたからだ。


そのため、ドイツ帝国中枢部は、当時、中国戦線に登場した日本のゼロ戦をコピーしてドイツで作ろうと考え始める。そのため、実機を2機日本から取り寄せたいと言い出すわけだ。実力もわからず米国からF35を100機以上まとめ買いしようというのとは異なる。ドイツ人の考え方はいつでも合理的すぎる。

ところが、日本とドイツの間には敵国が展開している。特に英国である。当時の日本の制空権はベトナム北部までで、その先は、インドとイランとイラクという英国の牙城がある。北から行こうにもソ連を刺激するわけにはいかない。

この大役を果たそうというのが安藤啓一中尉と乾恭平一空曹の二人。両名とも腕は一級だが、そもそも海軍の方針に懐疑的だったため、干されていた。

本著は文庫で630ページもあるのだが、この乗員の決定とか途中のルートで2000マイルごとに必要な中継飛行場を現地の反政府勢力から確保したり、ゼロ戦の装備の追加とか、さまざまな困難を乗り越えるための事前準備や下工作に延々と惜しげもなくページを使っていく。三分の二を超え420ぺージを過ぎて、二人はやっと横須賀の基地を飛び立つわけだ。

そして小説としては予想通りに事前工作の時の様々な無理がほころびを始め、味方のはずのインドや中東の首長から無理難題を突き付けられ、徐々に悪い方向に進んでいく。結局、二機のうち一機は、そういうゴタゴタのつけによる整備不良の結果、英国機から逃げきれないこととなり、最終的にベルリンには一機だけが到着。実は、その後ドイツはミサイルを作って英国攻撃を始めることになり、ゼロ戦複製計画は極秘のうちに記録のすべてが抹消され、現代に残るのは尾翼に日の丸をつけた飛行機を見たことがあるという数名の元兵士の記憶だけなのだ。



本書を読んでいるうちに、うすうす感じていたのは、こんなフィクションのようにできた話が記録や記憶から消し去ることができるのだろうかという疑問だった。ところが、読後、色々と調べると、本書の内容というのは、ほとんどすべてが完璧なフィクションなのだ。調べようにも手掛かりすらない。いわゆる歴史IF小説だったわけだ。どうもまいった。
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