暗室(吉行淳之介著)

2016-06-28 00:00:52 | 書評
ずっと以前に読んだ小説を再読した時に、よく筋書きを覚えている場合と小説の全体としての感覚を覚えている場合とまったく記憶にない場合がある。始末に負えないのが、その二番目の「感覚だけは残っている」場合で、本書もそうだった。

anshitsu


主人公の男性小説家(中田)のまわりには複数の肉体関係を持つ女性がいるのだが、それらの女性が増えたり減ったりして、この手の小説には不可欠のはずの行為そのものの記載がない。小説家が絶倫男なのかどうかも明らかになっていないが、どうも回数は多いようで、一人に電話をかけて不都合の場合、A→B→Cというように探しはじめる。

現代では差別ととられる記載も多く、本著がこの先、日本文学の中に席を置いておけるのか、意識的に忘却処分になるのかは不明だが、著者にとっての代表作であるだろう。

吉行淳之介は何回かの大病を患っていて、本作はうつ病から立ち直った直後の作らしいが、そういう病的な感じは感じない。むしろ、小説の筋立ての中に、前後の筋のどこともつながらない奇妙な章が、いくつも登場する。

暗室とは写真の現像室のことだが、比喩的には主人公の私(中田)のいる場所を指していて、暗室の中で、光を探すこともなく、ずっとぐるぐる回りをしているのだが、一人一人と女性たちが暗室から出て行って、一人になった時に、小説は終わる。第49章という、きわめて不思議な番号が最終章には振られている。

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