愛はプライドより強く(辻仁成著 小説)

2018-04-24 00:00:18 | 書評
20世紀の終わりに書かれた小説。芥川賞を受賞した名作『海峡の光』の2年前に発表されている。

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ごく簡単に粗筋を追うと、同じ会社にいて音楽プロデューサーをしているナナとナオトは同棲中で婚約しているのだが、大問題がある。勤務していた封建的な会社は社内結婚した場合、どちらかが辞めることになっていた。その理由はわからないが、結婚祝や出産祝をダブルで払わなければいけないからなのだろうか。一方、社内での仕事の評価が高かったのは女性のナナの方で、元々は小説家志望だったナオトは自分から会社を辞めてしまう。次の仕事を見つけてから辞めるという転職の鉄則を破ったわけだ。しかも小説は売れないどころか一行も前に進まないわけだ。

こうなると問題が起きるのが男女関係の常で、小説的には当然だが、別の異性が攪乱要因として登場することになる。ナオトの前に現れるのが自殺未遂を繰り返す無職の女性。ナナに接近するのは、有名カメラマンの男性(名前は鉅鹿というのだが読めない。実録物ではないのだから、なぜ誰でも読める翔平とか一朗とかにしないのだろう)。

このあたりが、つまらないのだがそこから先は読者の予想通りの展開になる。読まなくてもいいのかもしれない。話を面白くするためには登場人物の心の底に過去の衝撃的な事件があったというような方がいいのだから、有名カメラマンであるが自殺未遂のクセがあるとか同業の女性ディレクター登場とか、さらに味付けとして謎の占い師とか登場させてもいい。さらに登場人物の何人かは、過去のなんらかの大事件に共通に関係し、影響を受けていたとか展開した方がいいような気がする。ただし、小説の長さは三倍になる。


ともかく軽く読めるので朝の東京発名古屋行きの新幹線で訪問先を訪れるときなど、時間つぶしにちょうどいいかもしれない。といっても訪問相手が異性の場合、この小説を参考にして、名刺と一緒に白紙の婚姻届を渡すのは止めた方がいいだろう。渡すなら、読み終えたばかりのこの小説本だろうか。