永井荷風という生き方(松本哉著)

2017-01-24 00:00:24 | 書評
題名と内容がやや一致しない本で、内容は永井荷風が42年間にわたり書き綴った日記『断腸亭日乗』の解説書というか楽しみ方が書かれている。

kahu


まず苦痛の方からだが、難解な漢字が多い。読めないし、意味も分からない、そもそも漢字が多い。漢和辞典を引きながら読むと、それだけで物識りになる。

わたしは、この本を読んでいて、最初のうち、ひどく違和感を感じたことがあった。著者の松本氏が、かなり荷風に対して上から目線で書いているのだ。大荷風に失礼ではないだろうかと感じたのだが、読み始めていくと、その意味がわかってくる。

文章は難読な漢字が多く、体裁の上では「格調極めて高し」なのだが、書いてある内容が「淫にして品なし」というようなもののわけだ。もちろん荷風は日記を時々出版していたほどで、真剣に書いているつもりなのだが、人生で金で囲ったことのある女性(愛人)の数を書き並べ、13人プラス名前を忘れてしまった3人の16人で、この他臨時の者挙ぐるに遑(いとま)あらず、とか書くわけだ。満56歳の時だ。

この日記だが、現在では当時の文化や社会を知るのに重要な役目をはたしているそうで、後は荷風の性格がよくわかることになっている。

一つ不思議なのは、有名な話だが永井荷風と高見順が従兄どうしだったことを飛ばしている。高見順の方から荷風に対して下手に出たものの永井荷風が相手にせず日記で悪口を書き飛ばす。それに対して高見順も自分の日記の中で、荷風の非道を書いている。

この昭和11年からの日記合戦について本書は何も触れていない。なぜだろう。

といっても日記全体にチャレンジする気はないので。