夏の終わり(2013年 映画)

2016-09-29 00:00:21 | 映画・演劇・Video
瀬戸内寂聴尼がまだ瀬戸内晴美であったころ、つまり50年前に書いた原作にかなり忠実に沿った形でストーリーが進んでいく。

原作者は数多くの自作の中で一つを選ぶとしたら、デビュー作である「夏の終わり」と語っている。小説は彼女のほぼ正確な自伝であり、つまり彼女を中心とした男女四角関係が小説となり、そして映画版として熊切監督の手により復元されることになる。

natsunoowari


主演の知子(愛人)を演じるのは満島ひかり、同居人の年上の小説家は小林薫、年下の愛人は新人だった綾野剛が熱演。小林薫は煮え切らないやさしい男を熱演するのだが、女尼によれば実在の愛人となにげない所作がそっくりだそうだ。好演というのかな。

舞台は戦後まもない関東のどこかで、愛人の正妻は作家の本宅(鎌倉)に住む。二人の男の間で愛人は染色家として一流を目指すが、なかなかそうはいかない。まだ社会はまずしい。まだテレビはなくラジオの時間だ。時間が滞留しがちな世界の中で、登場人物の心は少しずつその形を変える。

そして、作家(小林薫)はついに人生に行き詰り、愛人(満島ひかり)に「一緒に死のう」と言うが、「なぜ奥さんじゃなく、私と死にたいのか」と詰問され、言葉を失う。

たぶん、「芥川も」とか「太宰も」とか言おうとしたが、ちょっと格が違うと思って口ごもってしまったのかもしれない。

そのまま川に飛び込んでしまったら、そもそも女尼は小説を書くことができないわけで、したがって、映画にもなることはないわけだ。

なお、女尼は本映画について、原作にほぼ忠実にできていると感謝しているのだが、二点気に入らない点があるそうで、まず、女尼が最も力を込めて書き込んだ「銭湯帰りの情事」のシーンが存在しないこと。もう一点は愛人(つまり自身)が、作家に玄関の脇の廊下に机を置いて書かせていたという点で、実際には陽当たりの良い二階の座敷を提供していた点だそうだ。(もはや証人はいないのだが。)