すてきなあなたに(演劇)

2016-07-25 00:00:38 | 映画・演劇・Video
六本木の麻布区民センターホールで麻布演劇市第215回公演として、演劇集団いたわさ「すてきなあなたに」を観劇。

この劇団、たぶん観るのは3回目かと思う。出演の何人にかには見覚えがある。今回の「すてきなあなたに」は、「暮らしの手帖」の創刊者の一人(もう一人は花森安治氏)の大橋鎭子さんが1969年から連載をつづけたエッセイを劇化したもの。大橋鎭子さんは2013年に93歳で他界され、今年のNHKの朝の長寿番組で「とと姉ちゃん」のモデルとなった。

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ところで、脚本は元々劇のための作品だし、小説や漫画はストーリーがあるのだから劇化は可能だ。詩はもともと解釈の幅が広いので原作とおおむね方向が同じであれば文句はつかない。

しかしエッセイというのは、本質的には作者の「個人的感想」だ。

春はあけぼの。やうやうしろくなりゆく山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる。

といって一人で満足している清少納言に対して、「私は、春は嫌いだ。花粉症で朝起きると、すぐに不機嫌になる」という人だっている。選挙のスローガンみたいなものかもしれない。「都知事になったら3か月以内に待機児童ゼロになる方策の検討を始めるつもりです」というようなものだろうか。エッセイも公約も言いっぱなしでいい、という特徴がある。

そのエッセイを劇にすることは、果たして可能だろうか。

そして、それをギリギリ成立させるために演出家の方が取った方法は、二元論。とある喫茶店では、二人の男性の学者(政治学者ではない)が、人類史に関するディープな社会科学的考察を続ける。一方、何組もの女性が日常をテーマとする過去の「すてきなできごと」を語り合う。そして、二種類の無関係な関係が、結局は同一の方向に進み始める。


ところで、いろいろあって関東にやっと戻ってきて、すべてが以前のままではがっかりだが、すべてが以前と違っていては苦しいなと思っていて、とりあえず以前と同じもののいくつかは取り戻しつつあり、それが演劇市なのだが、ついにロアビルや周辺一帯の再開発が現実化に進み始めたことがよくわかった。つまり、六本木がなくなるということだろう。