情痴小説の研究(北上次郎著)

2010-12-15 00:00:53 | 書評
jochi毎年100冊以上の読書を心がけていて、年の暮れになり90冊目が『情痴小説の研究』著者の北上次郎氏は、主にミステリ、アドベンチャーノベルの評論家として有名だが、なぜか「情痴小説」という新語を作り、新方面に展開か。

この「情痴」だが、いわゆる「官能」とか「SM」といった方向でもない。また「伊豆の踊子」のような純愛小説でもない。「雪国」なんか、この範疇に入りそうだが、著者の厳しいカテゴリ分けによれば、芸術度が高くなると、また違う分類らしい。

著者の分析によると、情痴小説には、その主人公に5つの特徴が必要ということになる。

 1.主体性に欠けること
 2.優柔不断であること
 3.反省癖があること
 4.自己弁護がうまいこと
 5.何事にも熱中しないこと

つまり、主人公は、「ダメ男」。あるいは「ダメ女」がいいということ。

あれこれ悩むようなのは論外で、頭より先に体の一部が動き出すようなのがよくて、追いつめられると、また妙な理屈を考えて自分を正当化し、グジグジ反省しつつも、つい次の行動が始まってしまう。

まあ、こんな小説。



とはいえ、著者は、大家の手による情痴小説には、それなりに「老い」とか「生の確認」とか「人類存在の不毛さ」とか社会制度を超えた人間の所作を描く作家たちの苦悩を読み解くわけだ。

読み始めた時は、33作の小説と作家について、来年は全部読んでみようかと、あらぬ目標を思い描いてみたのだが、それでは100冊の読書の33%が情痴小説になってしまうのではないだろうか、ということに気付いたのと、33種類もの情痴を読んでもしょうがないかな、とか著者の綿密な読み解きに、ちょっと疲れる。