江戸300藩 殿様のその後(中山良昭著)

2010-03-04 00:00:06 | 書評
300han大作である。新書315ページではあるが、そこに江戸大名288家の末裔の消息を訪ねている。ある家は断絶、ある家は総理大臣になる。また、サラリーマンになったり政治家になったり。破産する者、交通事故で亡くなるもの。犯罪者もいれば、学者となる者もいる。

まず、著者が一体どうやって調べるのだろう、というところから労力を感じる。栄誉のエピソードは集めやすいが、不名誉の記録については一族の人間は語らない。聞いた話は事実かどうか確認しなければならないが、人の記憶なんてあやふやだ。

そして、実際には、多くの家は明治維新以来150年近く経過し、後継ぎもいなくなっている。殿様の頃は、江戸に本妻をおいても、地元には二号や三号を抱え、何とか子孫を作っていた。なにしろ男子がいないだけでお家取りつぶし。一夫一妻制度のモラルなんて後回しだ。

そして、時代が変わり、お値段も上がって、とても元大名貴族では愛人の維持ができなくなる。


また、旧大名というのは、江戸時代においては典型的な「資産富裕層」だった。明治維新後も一見富裕層だったのだが、「持つ富裕層」であっても「稼ぐ富裕層」ではなかった。その後、第二次大戦で資産価値は下がり、戦後は物価が上がる。高度成長とバブル崩壊という二度の資産ダメージが起こり、さらには高率の相続税制の結果、「持つ富裕層」は、もはや没落する以外なくなっている。

ただし、都心部に住んでいて通勤時間がほとんど必要のない名門一家だけは、あと100年後も今の地位を堅持しているのではないかと思われるわけだ。7~80年後までの当主も内定しているようだし、オリンピックのつど、一門の繁栄を祈願するメロディが流れることになっている。