伊藤元重学部長、不況脱出法を語る

2009-04-06 00:00:29 | 市民A
2697e173.jpg伊藤元重氏は経済学者である。普通なら伊藤元重教授と書けばいいのだろうが、現在は東京大学経済学部学部長である。学部長というのは、偉い肩書きなのだが、この職をやっていると、教授の仕事は殆んどできなくなるのだろうが、大丈夫だろうか。私の書棚にも一冊、経済学の教科書的な一冊がある。結構、今は、大学の教科書にも使われているのではないだろうか。オバマ政権の要職であるローレンス・サマーズのおじさんであるサミュエルソンの『経済学』もいいと思うけど、いささか古くなってしまった。

さて、その伊藤教授の講演を聴くことになった。一応「経済リポート」という題名であるが、昨今の事情からいって、じっくり経済学の勉強をしようという人はあまりいないだろう。リーマン・ショック以降の世界同時不況の影響と、脱出への道程が知りたい人ばかりだ。

まず、文豪トルストイの『アンナ・カレーニナ』の冒頭の言葉から始まる。

「幸福な家庭はみな一様に似通っているが、不幸な家庭はいずれも、とりどりに不幸である。」

この言葉を、国の経済にあてはまると、こういうようになる。

「経済がうまくいっている時には、すべての条件が整っているが、条件が一つでも欠ければ、経済成長モデルは崩壊する。」ということ。

つまり、経済システムのすべてが悪くなくても、一部が壊れただけでも大不幸に陥ったりするわけだ。現在は、日米欧それぞれ抱える問題が違うというのが現状と見ているとのこと。

日本:最大の問題は企業、特に輸出企業にダメージがあること。

米国:金融、ビッグ3以外の基本的な産業構造は健全だが、消費者が痛手を追っている。

欧州:問題は根深い。EUが中核国から拡大をしてきた過程で新規加入した国の経済がダメージを受け、他の国がそれを負担するようなことになっている。

次に、景気回復までの期間は、「かなり先だろう」とのこと。理由は、「山高ければ谷深し」と、やや経済学的じゃないが。

世界経済のキーポイントは「米国の産業基盤」と中国の「内需」だろうと予測されている。


それでは日本経済の問題である企業業績のこと。なぜ、急に大赤字が発生しているかということ。

「過当競争の末の過剰輸出」が、特に自動車・電機業界で起きている。バブル期に他の産業分野では、M&Aの大嵐が吹いたのだが、自動車・電機ではそれが起こらず、相変わらず国内で過当競争を続けている。その結果、「何でも買ってくれる米国」へ製品が流れ込んでいた。そして、北米市場が凍りつくと、製品が売れなくなる。

「自動車・電機」に頼りすぎている産業構造。国内には多くの産業があるのに、この二つの産業が輸出の中心になっていた。

「円高」については、本来、120円から80円までの間で、大きな波を描いて行ったり来たりしているのだから、現状はちょうど真ん中に位置する。今までが円安のゾーンにいただけで、これからは円高のゾーンに入るだけである、とのこと。

ということで、「自動車・電機」の業界でも、今後、M&Aが進み、さらに海外展開が加速されると思われるが、そうなると製造業に勤務している国内1000万人の従業員の雇用が大問題になるだろう、と予想している。

そして、一方、内需を見ると内需不足が不況の一因になっている。さらに少子高齢化で物が売れない。そのかわり、貯蓄が多い。年間可処分所得と貯蓄の比率を見ると、ドイツ、フランスは可処分所得の2年分の貯蓄率に対し、英国・米国は3年分。日本は4年分の貯蓄があるそうだ。原因は将来への漠然とした不安ということ。

今の状況は、「おカネがないから物が買えなくて不況になっているのではなく、おカネを持ち過ぎていて不況になっている状態」とのことだ。(もちろん個別論では例外は多いだろうけど)

そのための政策提言として、無税贈与を短期間設定(例えば3000万円までとか)して、住宅投資などを活性化させること。消費税を増税して、ドブに捨てることなく、社会福祉を充実させることによって、過剰貯蓄を減少させることが必要だそうだ。

産業構造も内需型産業を育成し、輸出産業からの労働力のシフトを行って医療・食料・環境・住宅などの新しい産業(特に中小企業)を育てることが重要ということだそうだ(私見:優秀な中小企業の経営者というのが数少ないのだが)。

そして、1969年の田中内閣以来続いた重厚長大産業主導型構造に終止符を打とう、とのことである。


まあ、実行するには、なかなか思い通りにならないことが多そうだが、あえて個々には書かない。