「神の手」の講演会

2007-03-28 00:00:42 | 市民A
3月26日「神の目」の講演会の続き。

次に、国崎主税先生の胃がんの方の講演(横道だが、彼の両親は忠臣蔵のファンだったのだろうか。何か国税局みたいな名前である)。腹腔鏡補助下の胃の切除手術の話。

まずは胃がんのリスク要因からだが、こちらは、タバコ、アルコール、肉・魚のこげだそうだが、近年、話題になったのはピロリ菌。オーストラリアのマーシャル、ウォーレンの二人の教授が80年代初頭に偶然発見した菌で、酸性のきつい胃の中でも、体の回りにアンモニアをばらまいて中性化して生き延びるそうだ。そんな奇抜な話は誰も信じないので、自分達で菌を飲み込んで胃炎を起こして証明したという現代ではあり得ない実験を行い、2005年に二人揃ってノーベル賞を受賞している。ノーベル賞の話題が、どんどん登場する景気のいい講演会だ。しかし、現在、明治乳業でコマーシャルに派手に登場しているのはマーシャル教授の方だけ。二人の間に何が起きたのだろう?

話を聞いているうちに、わかってきたのだが、2004年に胃がん手術後の生存率の病院格差が日経メディカル誌に掲載(癌研についで横浜市立病院は全国二位だったそうだ)されたのが契機になって、日本胃癌学界が胃癌手術をマニュアル化してしまったそうだ。患者保護という意味もあるが、病院間格差の隠蔽という匂いも感じる。癌の部位や進行度合いによって、切除する大きさや取り除くリンパ腺の数が、おおよそ統一化されたわけだ。言い換えれば、それまでの大量の治療データを得るまでの長い試行錯誤の間に、適切な治療を受けられなかった患者さんも大勢いたということだ。南無。

そして、横浜市立病院では、早期がんの場合は、おおむねこの腹腔内に数本の腹腔鏡を挿入して、ゴッドハンドならぬマジックハンドのような器具で大部分の手術を行う。出血量が少ないのと、手術時間が短いそうである。(早期がんと進行がんというコトバは誤解を招きそうで、胃壁の内側の表面層の内側の筋肉層に1ミリでも浸潤していると進行がんという用語で呼ぶそうである。コトバだけであきらめてはいけない)

この講演では、後半の30分間、実際に腹腔鏡を使った手術のヴィデオ画像を見ることになる。「気の弱い方は目を閉じていて下さい」とは言っても、30分も続く。まず、上向きにした患者の腹の4隅に小さな穴が開けられ、さらに胃の上に5センチほどの切れ目を入れる。体内に挿入される手術器具は、要するにファーバースコープとマジックハンド。血管にクリップを打ったり、脂肪をはがしたり、リンパ腺を切り取ったり、すべての体内作業は画像を見ながらの遠隔操作。

前の工藤先生の講演の大腸内視鏡は、要するに「見る」ということに重点があるのに対し、国崎先生の講演の方は「胃の一部ないし全部を切る」ところに重点がある。会場内は、息をする音も聞こえないほどの異様な静けさが包む。そして、5センチの穴から胃の下部と十二指腸をひっぱりだして、何らかの方法で糸を使わず縫合して(よくわからない)再度、体内にきちんと戻すと会場内には安堵のため息が・・

ああ疲れた・・(最後のQ&Aの時、今度は、手術費用を聞こうという方はいなかった。いくらかかろうが、なったらやるしかないわけだ。)

以前「ミクロの決死圏」という絶賛されたSF映画があったが、映画を観た時に「もしかしたら、現実になるのではないか」と微かに予感があったことを思い出す。


そして、しばらく、焼肉を食べる気にはならなくなり、そして、イカの塩辛もちょっと・・(両方とも胃ガンハイリスク食品だから、それでいいかな)