アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

紙面掲載された「アイヌ政策の期待と課題は」(朝日新聞11/5付)に疑問

2016-12-06 15:08:02 | 日記

11月5日付の朝日新聞朝刊に掲載された「アイヌ政策の期待と課題は」ここを以前に読み、ひと月がすぎてしまいました。すでに常本氏の文に対し、いろいろ批判されているのを見聞きします。たとえばdon-xuixoteさんのBlogなど。 

阿寒アイヌ協会長の廣野洋さんの最初のことば「スタート地点に立たせてほしい」の言葉に、大きくうなずきました。先住民族アイヌが奪われてきた権利を取り戻すためのスタート地点にも立っていない、それすら国は整えていないと。アイヌ民族が何十年も求め続けてきた法律制定を期待し、「もっと普通に文化や伝統を守っていけるようにしたい」と訴えておられます。

それに続いて、北大アイヌ・先住民研究センター長であり、政府のアイヌ政策推進作業部会部会長の常本照樹さんのインタビュー記事は今までの繰り返しであり、問題だと思います。

「政府は東京五輪・パラリンピックの2020年に「民族共生象徴空間」を白老町に整備します。アイヌへの理解と共生を進める「扇の要」になる施設です。」

 2020年の民族共生の象徴となる空間を「扇の要」と宣伝するのをこの数年、何度か耳にしますが、そこには大きな問題(慰霊施設への遺骨収集と遺骨研究)があることは以前から書いています。それをカモフラージュするかのように東京オリンピックを抱き合わせてお祭りムードでもって行こうとする感がプンプンします。

2016年7月に出た「民族共生象徴空間」基本構想(改定版) ここを確認すると、「遺骨等に係る調査・研究の在り方」(P15)に、今後は (公社)北海道アイヌ協会、日本人類学会及び日本考古学協会の三者による「これからのアイヌ人骨・副葬品に係る調査研究の在り方に関するラウンドテーブル」において議論するとあります。三者だけでいいのでしょうか。しかもアイヌ協会はアイヌ民族全体の代表ではありません。

その中間まとめここの「これからの人骨と副葬品を用いた研究について」(P4)に、こうあります。

研究は、当事者であるアイヌに対し、研究の目的とそれによってもたらされる成果とリスクについて十分に説明し、同意を得た上で、慎重に進めることが前提であり、これまで大学が保管していた人骨と副葬品のうち、以下の条件に触れるものは、研究倫理の観点から見て研究対象とすることは問題がある。

ⅰ.研究の実施について、アイヌの同意を得られないもの。

ⅱ.海外における法制度やガイドラインの事例を考慮して、研究が行われる時点から見て三世代以内、すなわち概ね 100 年以内に埋葬された人骨と副葬品。

ⅲ.現在の遺族等への影響を鑑みて、収集経緯を公開できないもの。

ⅳ.収集経緯が不明確であるものや、時代性や埋葬地に関する情報を欠如するものや、資料の正確性を担保する基本的データ(例えば、発掘調査時の実測図、写真、出土状態の記載)が欠如するもの。そのほか、調査行為自体に研究倫理の観点からみて学術資料として活用することに問題を含むもの。

 なお、上記の i から iv の条件に触れる人骨と副葬品は研究対象としないことを原則とするが、iv)の条件に触れる人骨のうち、アイヌも交えた検討と判断の結果として、研究の有効性がしかるべき手続きを経て保証されると見なされる場合には、限定的に研究を行う可能性を有する。

ⅱの条件では、北大等から移されるご遺骨のかなりの数は100年以内なので研究対象外となるかと思いきや、気になるのはⅳの項目。

この項にも北大等から移される遺骨が入ります。そして、その後のただし書きには、ⅳは原則的には研究対象外とするが、「アイヌも交えた検討と判断の結果」、研究可となることが書かれています。ここでいう「アイヌ」は先の三者のなかのアイヌ協会であるならば、極めて閉ざされたなかでの了解で可能となる、ということでしょう。

また、ご遺骨と並んで副葬品に関してもさらりと記述されていますが、副葬品は明らかに盗掘品です。黙って掘り出し、盗んでいったものなのです。この事に関して、何の言及もなされず、ここに「研究対象」の可否について並べられている事自体が問題です。かつて、児玉作左衛門が、八雲でアイヌ人骨を掘った際の資料には「副葬品」の項目があり、ほとんどのものに「有」と記入されています。だれの許可もとっていませんし、しかも、その後の行方は全く不明です。これらを含めて、副葬品に対する調査を国は行うべきです。

4ヶ月も前のこと、8月6日に札幌で国際先住民族の日記念事業「考古学・人類学とアイヌ民族—最新の研究成果と今後の研究のあり方」の講演会が行われ、わたしは聞きに行けませんでしたが仲間が行って、内容を報告してくださいました。チラシはここ

その中の遺伝人類学からの講演で、北海道アイヌ協会の了解を得て54体の遺伝子研究をしたと報告があったとのこと。

すでに、遺伝子研究もすすめられている! この「54体」は健在しているアイヌ民族の皆さんからのものなのか、大学等で「保管」されている遺骨からなのかは分からなかった、と。これらが遺骨からであったならば、この「研究」も、先の「三者」による合意に基づくものということでしょうか。

さらに、日本人類学会理事の講演で、人類学会と道アイヌ協会が、札幌医科大学所蔵のアイヌの骨に関して『協定』を結んだとの発言があったようです。協定内容を知りたいものです。

先日、八雲教会の礼拝に招かれて八雲に行ってきました。八雲郷土資料館を訪ね、くわしい説明を受けました。かつて、児玉作左衛門らが遺骨を「発掘」した場所であろうところも教えて頂いて行ってきました。

八雲墓地の入口に建つ墓碑です。墓前で祈ってきました。

かつて、落部のアイヌ墓地から三人のイギリス人によって盗掘され、犯行がばれて返された13名の名が記されています。(植木哲也著『学問の暴力』第1章参照)。

 

八雲のあと、七飯、函館、函館千歳、渡島福島、江差、利別の各教会を訪問。

北方民族博物館、松前城にあるアイヌ資料も見学に行きました。

 

 


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