おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「トーキョー・プリズン」 柳広司

2011年01月14日 | や行の作家
「トーキョー・プリズン」 柳広司著 角川文庫 11/01/13読了

 第二次世界大戦敗戦直後の東京を舞台にしたミステリー。

巣鴨プリズン内で相次いで2件の密室殺人が発生する。私的な調査のために巣鴨プリズンを訪れたオーストラリア人私立探偵のフェアフィールドが、戦犯として独房に幽閉されている元日本兵・キジマの推理力を借りて、事件を解き明かしていく―というもの。ちょっと「羊たちの沈黙」を彷彿させる。

まず、柳広司という作家の頭の中の引き出しにはとてつもない知識がつまっていることがわかる。恐らくはミステリーマニア(オタク?)として、古今東西、莫大な作品を読破したのであろうことに敬意を表したい。

そして、戦争に対して、著者が様々な「思い」を持っていることも伝わってくる。つきつめれば「大量殺人」でしかない戦争の虚しさ。拒否権もなく戦争に徴用されたり、家族を奪われたりした市井の人々の苦しみ―そうしたことを伝えようとする姿勢には共感する。

実は、私は著者と同世代。戦争を知らず、日本が右肩上がりの時代に育った幸せな世代だ。だからこそ、余計に私たちの世代が、戦争を「エンタメ」にしてしまうことに対して大きな抵抗感があり、ミステリーとして素直に楽しむことはできなかった。

著者の代表作「ダブル・ジョーカー」はいかにも架空のストーリーっぽいので割り切ってしまうこができた。でも、「トーキョー・プリズン」は、東京が舞台であり、もしかしたら実話かもしれない―という生々しさがあって、余計に、罪悪感が強まってしまった。

戦争を実体験した世代の方々が高齢化し、亡くなっていっている。私たちの世代は、体験していない戦争の記録と記憶を受け取り、さらに、もっと豊かになってから生まれた世代の人たちに引き継いでいかなければならない。その作業には、当然のことながら想像力が不可欠だと思うけれど…でも、やっぱり、私は「エンタメ」として楽しむほどスキッと割り切れない。

ただ、私たちの世代が戦争をエンタメにすることの是非の議論は置いておいても、「ダブル・ジョーカー」ほどには冴えた作品ではありませんでした。密室殺人のトリックも陳腐だし。今ひとつ、後味がよろしくない作品でした。



コメントを投稿