おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

博多座文楽公演 「義経千本桜」「新版歌祭文」

2009年12月30日 | 文楽のこと。
博多座文楽公演 夜の部 「義経千本桜」「新版 歌祭文」

 日帰りで福岡なんて、どう考えても、クレイジー。そんなことは分かっていても、やっぱり、私は、勘十郎さまの狐忠信が観たかったの♪

 思い返せば2年前、2008年2月公演で「義経千本桜」を観たのが、私の文楽デビュー。もちろん、その時は、まさか、これほどハマるなんて思ってもみませんでした。「ま、一回ぐらい見てみようかな」という軽い気持ちでした。ところが、あまりの迫力、大スペクタクルに圧倒され、幕が降りた時には完全に恋に落ちていました。
 
 その後、文楽を観るたびに、他にも好きな技芸員さんはたくさん増えましたが、でも、やっぱり、初恋の人(あくまでも、文楽のですが…)は特別なんです。勘十郎さまの狐忠信は何度でも観たい!  そして、福岡まで来た甲斐があった、素晴らしい舞台でした。

 まずは、「道行初音旅」。清治さんを元締めとする6人三味線には、テンション上がりました。最近、清治さんと清志郎さんが並んでいるだけで、私は、ウキウキしてしまうのですが…6人三味線となると、迫力が一段と増します。元締めの睨みが効いているせいか、音がビシッと揃ってなんとも心地よい。これぞ、ジャパニーズ・ミュージカルだわ-と一人得心しておりました。

 そして「河連法眼館の段」は、言うまでもなく、勘十郎さまの独壇場。何度も何度も早替わりがあり、堂本光一くんにも負けてない(?)宙づりの演技。楽しくって、ついつい、ニヤけてしまいました。

 私の隣の席のおば様は、長崎から遠征してきたそうで「初めて文楽を観たの。こんなに、面白いんだったら、もっと、早く観にくれば良かった」とおっしゃっていました。なので、「私も義経千本桜でデビューして、それ以来、病に陥ってます。とりあえず、3月の地方公演で九州で何回か公演あるハズですから、ぜひ、行ってみて下さい。絵本太功記は女たちの人間ドラマですよ~」と宣伝しておきました。

 そして、〆は「新版歌祭門」。床の組み合わせが渋い! 吉穂さん&喜一朗さんは、私的、30年後の切り場ゴールデンコンビです。もちろん、今回も、なかなかでした。やはり、吉穂さん、ちょっと滑稽味のある場面がすごく合っていると思うのです。私30年先物買いは間違っていなかったと確信しました。

 そして、切の嶋師匠は、もう、今さら、言うまでもなくステキ。紋寿さんのおみつも可愛らしく、かつ、一本気な強さもあってとてもよかったです。実は、5月の本公演の日高川で紋寿さんが遣われていた清姫に狂気の片鱗すら感じられず…というよりも、「やる気ねぇ~」という感じに見えてしまい、以来、私の中では、かなり要注意人物に分類していたのですが、今回で、その考えはリセットすることにします。

 玉女さんの親・久作も、軽妙で良かったです。いつも、偉丈夫なお侍さんなど動きの少ない人形を遣われることが多いですが、おやっさんキャラも悪くないなぁと思いました。 それにしても、丁稚久松、ケリ入れたくなるぐらいダメな奴です。昔も、今も、ダメな奴がなぜかモテるというのは、不条理ですなぁ。

「TOKYO BLACK OUT」 福田和代

2009年12月30日 | は行の作家
「TOKYO BLACK OUT」 福田和代著 東京創元社 (09/12/30読了)

 帯には「未曾有の大停電が東京を襲う 大型新人が満を持して放つ、超弩級のクライシスノベル」とある。もう、それを読んだだけで、ワクワクします。何の有り難味もなく、当たり前のように電気を使っていますが、台風やちょっとした地震ならほとんど停電することもなく、電気が安定供給の度合いは、先進国でもピカ一の日本。その日本の首都を大停電に陥れるって、いったい、どんな手法???

 新橋に本社がある東都電力(って、思い切り東京電力じゃん!)の給電指令所の描写、遠隔地にある発電所から首都圏に電力を供給するための仕組み、他の電力会社との電力融通(首都圏は電力需要が多いため、東北電力などから電気を購入している)など、どう考えても、インサイダーから取材して書いているとしか思えないリアリティーのある描写で、うすら寒くなります。ほんと、前半は、「超弩級」な感じで、ドキドキしながら読みました。

 が… 後半は、かなり尻すぼみかな。電力会社やその周辺の描写に比べると、停電した後の東京の街の描き方がかなり大雑把な感じでした。東京大停電を描くとしたら、犯行の手口もさることながら、その後のパニックは重要なパーツになると思うのですが…。停電になっても、それほど混乱した感じじゃないんのです。東京大停電という事態が進行中なのに、台所をのぞいてお姑さんが嫁にたいして「ご飯は、まだかしら?」と間抜けな質問をする場面には、ちょっと、ガッカリしました。

 また、都知事の会見場面も、「冷静に行動しましょう」とあっさり終わってしまうのですが、絶対に、そんなハズはありません。未曾有の事態で、知事が質問に答えないなんてことがあったら、会見場が怒号の渦に巻き込まれることは必至です。

 いつも、推理小説を読んで思うのは、人間はそんな理由で罪を犯すだろうか-ということです。この「TOKYO BLACK OUT」もそこが一番ひっかかりました。実際、新聞を読んでいると、人間は、実にくだらない動機で犯罪を犯しているのですが、でも、それって、結構、突発的な犯罪なのです。首都東京を停電にして混乱に陥れるという、知識・知能・組織力をベースに緻密な計画を要する犯罪を企てるというのは、単なる、恨みつらみぐらいではできないのではないかという気がするのです。宗教や狂信的な思想に取りつかれての犯罪ならばともかく…そこまで、緻密に計画を立てられる人は、その犯罪によって、自分の恨みつらみを晴らすことができないことを理解してしまうと思うのです。

 でも、2007年にデビューしたばかりの新人作家。その取材力には、感服します。次回作に更なる期待をしたいと思います。

「シアター!」 有川浩

2009年12月30日 | あ行の作家
「シアター!」 有川浩著 メディアワークス文庫 (09/12/28読了) 

 12月創刊されたばかりのメディアワークス文庫第一弾の作品。そこそこ人気はあるものの、借金を抱えた劇団「シアターフラッグ」に、金は出すが口も出す鉄血宰相のような経理担当がやってきて、稼げる劇団に再生さよう-という話。

 有川浩の出世作「図書館戦争」がアニメ化された際に、主人公である笠郁の声を担当した女優さんが所属する劇団の芝居を見に行ったことがキッカケでできた作品だそうだ。有川浩の取材力には敬服する。これを読むと、なぜ、劇団が貧乏なのかが、大変、よくわかりました! 

 ストーリーは、まぁ、お手軽で、後腐れないといったところです。混んでいる電車の中でもイライラせずに読む分にはちょうどいいぐらいかな。