ベランダ蘭

灼熱と強風のベランダで健気に育つランの観察

富貴蘭 「鈴虫」 (Vanda falcata 'Suzumushi')

2018-06-06 | 富貴蘭・フウラン
富貴蘭(フウラン Vanda falcata の登録品種)の無地葉変わり品種、鈴虫です。
2014年6月に有限会社石井から購入。



強健な品種のはずですが、入手してからずっと機嫌が悪くて、たった2本の根だけで3年ほど持ちこたえていました。
その2本は継ぎ根でどんどん伸びるのですが、とにかく新根が出てこないという。
さらに親木も芯止まりになる始末・・・

あきらめ気味で、2016年の冬の間はベランダで段ボール箱にも入れず、寒風吹きさらしで放置していたところ、
翌2017年の春から一気に多数の新根と、さらに仔芽も出てきました。
始めのうち、根が少ないからと過保護にしていたのが、逆にいけなかったのでしょうか?



親木も、2年ほどのブランクを経て天葉の位置に小さい何かがごちゃごちゃ見えてきました。
新しい葉なのか、後継ぎの仔芽がついたのか。

そんなわけで私の鈴虫は株姿を観賞する点では全然だめですが、それでも個々の葉の「鈴虫剣」芸の面白さは変わりません。



鈴虫剣とは、上写真の玉金剛(豆葉品種)との比較で分かるように、葉先がシュッと尖って伸びる変異です(黄矢印)。
昔の人がこれを鈴虫剣(スズムシのメスの産卵管)に見立てた、という説明なのですが、実際のところあまり似ていません。
以下、昆虫写真へのリンク注意
スズムシのメスの産卵管 どうでしょうか?
むしろ、キリギリスに近縁なツユムシの仲間の産卵管のように見えます。
ヒメクダマキモドキのメスの産卵管 美しいですね(直翅目の中で私はツユムシ類が一番好きです)。
これら2つの写真は福岡教育大の福原教授のウェブサイトより引用させていただいています。

実はこの鈴虫剣の葉芸、フウラン以外の古典園芸植物でも見つかっており、特にミヤマウズラ(錦蘭)に多いようです。
そしてこのミヤマウズラの鈴虫剣は、フウランのそれよりもずっと細長く、確かにスズムシの産卵管に似ています。
(興味があれば「ミヤマウズラ 鈴虫剣」とかで画像検索してください)
おそらく先にこういった植物種での鈴虫剣が知られていて、富貴蘭の鈴虫は、後から便乗で名付けられたのでしょう。
それを裏付けるように、鈴虫は昔は別の名前で呼ばれていたという榊莫山さんの言葉が、同行蘭風さんに紹介されていました。
古本を探して、私も読んでみたいです。

便乗での命名と言えば、鈴虫に続いて、類似の葉芸を示す品種に「轡虫(クツワムシ)」は良いのですが、
近年になって出てきた品種で、葉先がちょっと尖ってさえいれば「松虫(マツムシ)」、
直翅目ではない「甲虫(カブトムシ)」、「黄金虫(コガネムシ)」、さらには昆虫ですらない「針金虫(ハリガネムシ)」と、
どんどん命名のクオリティが低下しています。昆虫を知らずに、ただ語感で「~虫」って付けているだけじゃないかと?

フウランにせよミヤマウズラにせよ、このタイプの希少な葉芸を野外の個体群の中から見つけて「鈴虫剣」と命名した
先人の自然観察の細やかさは、素晴らしいものだと思います。
私たち、現代の趣味家も見習いたいものです。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。