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軌道エレベーター学会 ブーツストラップとスカイフック -軌道エレベーターの基本形の分類-(3)

2009-06-04 22:09:00 | 軌道エレベーター学会
(3) どちらにするか?
 では、ブーツストラップ型とスカイフック型、どちらが実現可能性が高いのだろうか? これは例えるなら、同じ川に橋を架けるのに、吊り橋にするか桁橋にするかという違いのようなものだ(ただし、仮に最終的に地上に対し相対的に静止するとしても、移動しながら使用して大型化するスカイフック型OEVが、最初から静止しているブーツストラップ型に衝突する恐れがあるので、共存は難しいかも知れない)。

ブーツストラップ型の長所
 完成させるまでの手間でいえば、スカイフック型は単純に規模が小さいほど簡単ではあるだろう。しかしブーツストラップ型は、ケーブルの下端が地上にいったん到達したら、あとは必要な資材をすべてエレベーターで持ち上げれば良い分、その簡便さと利便性はスカイフックとは比べるまでもないだろう。
 構造の大部分がケーブルのみ(「3001年終局への旅」「機動戦士ガンダム00」に出てくるような巨大なチューブ状でない簡便な構造)で、単に衛星から紐が伸びているだけのようなシンプルな形状のものであれば、エドワーズが示したように、数回のロケット打ち上げを経て、静止衛星からケーブルを垂らし、昇降機を取り付けるだけなので、シンプルさではブーツストラップ型に分がある。
 また、スカイフックとして使用しながら大型化していき、最終的には重心を静止軌道に移動させて地上との相対位置を停止させるとなると、それは途方もない作業になるだろう。
 うまく静止できないまま、静止予定ポイントを大幅に通り過ぎてしまったら、車のようにバックはできないのである。もしバックさせようとすれば軌道重心が下方へ移動し、重力につかまってOEV全体が落下を始める(もちろん質量の移動によって重心を維持するなど、多少の融通はきくだろうが)。
 またスカイフックの下端が大気圏内をかすめながら周回する場合、大気との摩擦によるブレーキ効果で、常に上端部との速度の不一致が生じ、修正が必要になる。このほか、これを特定の国家が実施した場合領空侵犯になる可能性や、スカイフックが上空を通り過ぎる国々の警戒心を誘うなどのなどの問題点もある。
 もっとも、これらの点は技術的に克服可能であろうし、政治的な調整も行われるだろう。逆に政治的な調整が順調に進み、スカイフックの通過コース下にある国々がこれを優先的に利用できるなら、その恩恵は莫大なものになるだろうが。

スカイフック型の長所
 ここまでブーツストラップ型に分のある書き方をしてきたが、この型の問題点は「素材がまだない」という点に尽きる。これに対し、規模にもよるが「技術的には今すぐ造り始められる」というのがスカイフックの圧倒的優位点だろう。
 OEVの議論を加速させたカーボンナノチューブ(CNT)だが、発見から17年が経過し、日々合成技術は発達しているものの、OEVに必要な強度と安定生産がいまだ実現できていない。現在のところ、静止軌道と地上をつなぐ素材はCNTのほかに見当たらない。
 一方スカイフックは、たとえばケブラー(デュポン社の登録商標。正しい素材名はポリパラフェニレンテレフタルアミド)やザイロン(東洋紡の登録商標。パラフェニレンベンゾスオキサゾール)などで、高度約4000kmまでのものを建造可能との研究もある。地上基部の用地取得などのロケーションを考慮する必要もない。
 このため、技術的側面からは「ケーブル構造を基本(ブートストラップ工法で造る)とするスカイフック」が最短距離にあるということになろう。

 加えて、政治経済的な観点から見ても、スカイフックが優先されそうな理由は少なくない。
 OEVの存在それ自体が、大気圏内におけるロケット使用や、一部の人工衛星利用の終焉か、そうでなくても大幅な減退を招くことは間違いない。なんの手も打たないまま、OEV建造の流れに乗れければ、宇宙開発先進国、特に米国に莫大な外貨と税収をもたらしている航空宇宙産業にとって打撃になりうる。
 だがスカイフックは、アプローチのためにロケットやスペースプレーンなどを利用する。このため、最終目標はともかく、OEV建造についてスカイフックから着手すればロケットの需要は継続、場合によっては加速されるかも知れない。
 そして何よりも、スカイフックの建造を始めるための格好の「足場」がすでに宇宙を飛んでいる。国際宇宙ステーション(ISS)である。決してISSがSEスカイフック建造に適しているという意味ではないが、ISSをスカイフック建造という新たなビジョンに利用することで、米国のロケット産業は失速せずに済む一方、存在理由や目的を失って久しい感のあるISSも、新たな役割を見出すことができるかも知れない。
 世間では事業は効率や優劣よりも、利害と力関係で決定する。米国をはじめとする宇宙開発先進国が、OEV第1号としてブートストラップ型よりもスカイフック型を採用する可能性は決して低くないのではないか。


 だが最も望ましいのは、両者の研究が切磋琢磨して発達していくことではないだろうか。そうして、一日も早くOEVが実現することを期待したい。

 ブーツストラップやスカイフック以外には、P.バーチが低軌道オービタルリングを提唱しているほか、G.ポリヤコフはブートストラップ型のOEVを数基建造し、静止軌道より高度に位置するオービタルリングによって連結し安定させるというアイデアを提唱している。これは、私たちの家の屋根の上のTVアンテナがワイヤーで四方に固定されていたり、電柱が電線以外にワイヤーでもつながっていて、一方方向に転倒するのを防いでいるのと、基本的には同じ考えである。

 このように細かく分ければアイデアは多彩にあり、昨年7月に米国開かれた"2008 Space Elevator Conference"でも続々発表されている。今回は、ブートスツラップとスカイフックに大別して解説したが、機会があれば、さらに整理してお伝えしたい。
(おわり)
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