TONALITY OF LIFE

作曲家デビュー間近のR. I. が出会った
お気に入りの時間、空間、モノ・・・
その余韻を楽しむためのブログ

テサモエとメリチャリ ~ アイスダンス雑感

2014-09-23 23:12:17 | フィギュアスケート
テッサ・ヴァーチュは腕が特に美しい。
リフトの終盤、高いポジションで腕を上げながら旋回すると、ひときわ黄金のような輝きを纏う。
テッサ・ヴァーチュ&スコット・モイア組(カナダ、以下テサモエ)。
バンクーバー五輪で白鳥のような気品の「アダージェット」を演じた翌年、
モスクワのワールドでは野性味たっぷりのラテン・メドレーを披露した。
同じカップルが醸し出すとは思えない雰囲気の落差と、灼けた肌のテッサに釘付けになった。
少年少女の面影を残した2007-2008シーズンの「シェルブールの雨傘」も忘れられない。

一方でライバルのメリル・デイヴィス&チャーリー・ホワイト組(アメリカ、以下メリチャリ)の個性が弾けたのは
バンクーバー五輪シーズンの「Indian Bollywood」。
インドの古典舞踊を大胆に取り入れたこのプログラム、
フィニッシュのポーズはヒンドゥー寺院の彫刻からたった今抜け出たかのようであった。
五輪の金をテサモエに越された後は、ソチでは何としても頂点をという気迫が増したように感じる。
バンクーバーより後の二組の成績は、その執念の差としか思えない。
また、同等の実力を持つ選手が門下にいたら、しかもそれが世界最高峰レベルだとしたら、
指導者は金メダルを分け与えたいと思うものなのだろうか。
二組ともロシア出身のコーチ、マリナ・ズエワの元でしのぎを削ってきた訳だが、
ソチのシーズンに「シェヘラザード」を与えた時点で、コーチもメリチャリに肩入れしたと言うべきであろう。
おまけにエキシビションまでラフマニノフという、開催地ロシアを意識した選曲。
それに引き換え、テサモエのフリーダンスは音楽があまりにも平凡過ぎた。

閃いたアイディアが高い身体能力と技術によって具現化される、
静と動、太陽と月、といった対の世界を一度に作り出せる、などなど
コーチがこの二組から受けるインスピレーションも絶大であったに違いない。
脂の乗り切ったデザイナーが待ち望まれて開くコレクションのように
毎シーズン凝った新作を楽しませてくれたのは、
アイスダンスファンにとって幸福な時代であったと言えよう。
甲乙付け難い北米の2強がまばゆい輝きを放ったあと、
これからのアイスダンス界がどうなるのか気になるところである。

R. I. がアイスダンスの面白さに目覚めたのは1994年のリレハンメル五輪のこと。
プロの参加が認められたこの大会では、
サラエボでボレロを舞った伝説のカップル、トービル&ディーン組(イギリス)が復帰した。
プロの世界で培われた魅せる演技に客席は沸きかえったものの、
逆転の金メダルをさらったのはロシアの若きカップル、グリシュク&プラトフ組(ロシア)のロックンロール・ナンバーだった。
スピード、シャープさで明らかに上回った後者に軍配が上がって、
フィギュアはやはりスポーツなのだと大いに納得したものだ。

あの頃に比べると、様々なポジションでのリフトといい、高速回転のツイズルといい(逆回転まで!)、
アイスダンスは随分とアクロバティックな種目に変容した。
スポーツとしての側面が強化されたと言えなくもない。
画面いっぱい大写しになっても見栄えのするハリウッドスター並の美男美女が揃っているのもこの競技の魅力。
銀幕ならぬ銀盤は美しい人間を引き立てる。
時に衣装まで細密に描かれた童話の挿絵が現出したように感じることすらある。


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