きんいろなみだ

大森静佳

「塔」2021年7月号 作品2(前田康子選)

2021年07月29日 | 短歌
付箋をつけた歌より

***

「奇跡的に全壊でした」と答えたり全壊の上に流失ありて 逢坂みずき

掛け金をことりとはづせば寒がりの小さな箱がのばらをうたふ 若山雅代

「こちょこちょ」というだけで子は笑いだし我の空白色づいてゆく 王生令子

柿わかば朝の雨に濡れてあをり読まるるまへのページは翳り 岡部かずみ

防波堤しぶきに濡れてどの町の本屋にも谷川俊太郎 奥川宏樹

呼び捨てに俊郎と言うは此れの世に九十八の惚けし母のみ 坂下俊郎

こねあげてゆく水餃子三十個みんな味方の三十個なり 星亜依子

午後の陽のひかりの粒に吹かれをり「ゆ」の字の暖簾の紫は褪せ 栗栖優子

おづおづといふ感じにて昇り来てわたしひとりのものとして月 高橋ひろ子