矢口記念大森ユニオン歯科

矢口記念大森ユニオン歯科 院長が綴る、ブログです。

広告

※このエリアは、60日間投稿が無い場合に表示されます。記事を投稿すると、表示されなくなります。

「歯垢病」と「咬合崩壊病」を知っていますか?

2014-03-03 11:18:11 | 歯科

 一般に広く知られている歯の病気としては、う蝕(むし歯)、歯周病(歯槽膿漏)があります。これを知らない日本人はほとんどいないと思いますが、病気の発症や進行の全体を包括的にとらえる見方はあまり知られていません。 
 前回、「誰も言わなかった歯ブラシの使い方」で触れた、唾液PHの低下(酸性化)とエナメル質の溶出(脱灰)は、う蝕発生に進む初期段階であり、唾液中に溶出したカルシウムや燐酸イオンなどをエナメル質に再び取り込む過程(再石灰化)が遅れれば、それだけう蝕発症の危険性は高くなります。唾液の緩衝作用(PHを中性に戻す)はう蝕予防の生理的メカニズムであると言えるので、これを最大限活用することをブラッシングの主目的と意識する、というのが私の考え方だとお話ししました。
 さて、その先う蝕(虫歯)はC1→C2→C3→C4と進行します。



歯周病(歯槽膿漏)はG→P1→P2→P3と進行します。

 この辺までは、かなり一般的に普及している知識だと思いますので、詳しい説明は省きます。
 患者として治療を受けているとすれば、虫歯を削って詰め物をする、冠をかぶせる、神経を取る、根の治療をする、ブラッシング指導を受ける、歯石を取る、知覚過敏の処置を受ける、歯肉を切る手術を受ける、揺れる歯を固定する、歯を削ってかみ合わせを調整する、歯ぎしり対策のマウスピースを入れるなどの処置を経験されているはずです。

 私が今回お話ししたい問題は、その先にあります。
虫歯と歯周病の進行、C4の先、P3の先はどうなるのかということを考えてみましょう。やや話が難しくなりますが、少し辛抱してお付き合い下さい。
 通常、C4とP3は抜歯病名と言われており、この診断名が付くことは抜歯処置が行われることを意味しています。抜歯されると、う蝕や歯周病の歯が喪失しますから、抜歯された歯と共に虫歯や歯周病という病名も消えて、その部位の病名はMT(Missing Teeth)、歯牙欠損症、歯列欠損症に変わります。これは一本一本の歯を単位として病気を把握するならば問題が無いように見えます。しかし、実際には虫歯も歯周病も同じ口腔内の別の歯にも進行する場合が多く見られます。したがって、一口腔全体を一単位として病気を把握するならば、抜歯して歯が喪失することでCやPの病名が消えてしまうことには問題があると私は思います。つまりMT病名に変わっても意味する内容は、う蝕や歯周病が喪失した=治ったのではなく、C4、P3からさらに病気が進行したという意味でC5やP4と把握するべきなのです。私の言いたいことがお解りになりますでしょうか?
 MT病名に移行してから先の治療法には、ブリッジ、部分入れ歯、インプラントなどがあり、歯の喪失歯数や部位、上下のかみ合わせの状態などによって、それに相応しい補綴装置を選択し適用することになります(下図を参照)。それには虫歯や歯周病の治療とは異なる考え方や技術を要する補綴(ホテツ)科という専門領域が係わってきます。因みに私は、補綴科の中の有床義歯補綴(取り外し式の入れ歯)が専門ということになります。
 補綴治療の専門性についてはさて置き、ここでの私の問題提起は、MT病名への移行がCやPが消失=治癒したことを意味するのではなく、C4やP3がさらに進行した病態、言わばC5やP4という認識が必要であるということです。病名が変わっても病気の本態は変わらず継続し、進行していることを忘れてはなりません。
 患者さんは、虫歯の治療を受けて痛みが無くなり、支障なく嚙めるようになれば治ったと誤解します。歯肉の出血が止まり、腫れが引き、グラグラする歯も抜歯で無くなれば、歯周病は治ったと誤解します。さらに治療者側も、病名が消失したことで治ったと誤解し、補綴処置に治療の中心を移してしまいます。
患者さんの誤解や、治療者側の誤解を招かないためには、病態の認識を根本的に改める必要があります。虫歯や歯周病という歯を単位とした病気のとらえ方だけでは不十分で、一口腔を単位として一生を通して進行して行く慢性疾患であり、生活習慣病であることを説明できる病名として、私は「歯垢病」と「咬合崩壊病」と表現しています。一本一本の歯を単位として見る虫歯や歯周病を木とするならば、森にあたるのが「歯垢病」という見方であり、そしてその歯垢病の進行が、噛み合わせの崩壊として表れてきた段階を「咬合崩壊病」と認識する、というのが私の見方、考え方です。最終的には上下の歯を全て喪失するところまで進行する可能性があり、全ての歯を喪失した後も口腔内常在菌のコントロール不良が嚥下(誤嚥)性肺炎を招くことがあるならば、これも「歯垢病」の範疇に含めて理解できるはずです。

図の全体が一つながりの、非常に長い経過をたどる慢性疾患、生活習慣病である。その包括的な病名として「歯垢病」と「咬合崩壊病」がある。

続いて、以前に患者さんに対する説明用にまとめた文章がありましたので、重複するところもありますが、下記に引用してみます。

1. 歯垢病について

1)歯垢病(Plaque Disease)とは
 歯垢(しこう)は口の中にいる細菌のかたまりです.食べ物の残りかすではありません.歯垢の中には何十~何百種類もの細菌などの微生物がいて,いろいろな病気の原因になります.虫歯(齲蝕(うしょく))や歯肉炎,歯槽(しそう)膿漏(のうろう)(歯周病),欠損,義歯性口内炎,誤嚥性(ごえんせい)肺炎(はいえん)などと呼ばれて来た病気や症状(状態)は,すべて歯垢が原因で起こる病気です.ですから,歯垢が原因で起こる病気を歯垢病と呼びます.これを口という器官の病気としてだけでなく,全身的な健康という見方からすると,高血圧や糖尿病,虚血性心疾患などと一緒で,やはり生活習慣病といえるものです.


2)歯垢病は自分で治す生活習慣病です.
 虫歯や歯周病は歯医者さんに治療してもらわなければ治らない,と考えるのは一面的です.確かに進行した病状をコントロールすることは医師でなければできません.しかし,根底にある生活習慣病としての歯垢病をコントロールするのは自分です.歯垢病に対する指導やアドバイスはできても,歯科医師や衛生士は歯垢病を治すことはできないのです.
 歯垢は細菌のかたまりですが,これを抗生物質などの薬で殺すことは良くありません.一時的には抑えられても,さらに強い菌(耐性菌)が生まれて薬が効かなくなったり,他の細菌が繁殖して生態系のバランスを崩すので具合が悪いのです.細菌を薬で殺すのではなく,上手にコントロールして共存するのが正しい考え方です.われわれの棲む地球環境も大きな生命体であり,その生態系のバランスを崩さないようにコントロールし,共存してゆくことが人類全体としての正しい道であるのと全く同じように,一人ひとりの人間という生命体の健康を維持してゆくためには,生活習慣病の正しいコントロールが基本になります.

3)歯垢病の正しい養生法. 歯垢病の正しい養生法のポイントは,第一に口の中のプラークコントロール,次に食事やおやつを含めた食生活の内容や咀嚼(噛み方),さらに余暇・運動や休息・睡眠の取り方まで関係してきます.

(1) プラークコントロールのチェック
(2) 食生活のチェック
(3) 噛み方のチェック
(4) 余暇・運動のチェック
(5) 休息,睡眠のチェック


4)歯垢病の内容
(1)齲蝕(虫歯):C
 歯垢病が歯に進行した状態.進行程度によりC0,C1,C2,C3,C4 に分類されることは広く知られている.歯がしみたり,痛んだりするのはC2,C3が多い.「虫歯は自然には治らないから歯医者さんに削って詰めたりかぶせたり治療をしてもらわなければ治らない」,と決めて考えるのは間違いです.
 C0,初期の齲蝕は明らかに自然に治ることが証明されている.
 C1はもちろん,C2,C3でも進行を停止したり,あるいは非常に遅い場合がある.(私自身に齲蝕があり,ずっと経過観察しているが,30年以上ほとんど変化していない)したがって,必ずしも早期発見,早期処置をしなければならないわけではない.
 C4と診断されると「抜きましょう」と言われることも多いが,原則的には抜かないほうが良いことは明白(言うまでもなく,歯1本でも命の一部であり,大切に守るべきものです.ガンのように悪性のものはごく稀で,すぐに外科的に取り除く必要のあるものはほとんどない.(私は,抜歯以外に症状を軽減する方法がない場合でなければ抜歯を見合わせる).「抜きたくないので何とか残してほしい」と相談し,詳しい説明を受けたほうが良い.説明に納得がいかなければ,別の先生の診断を仰ぐ(セカンドオピニオンを求める)ことも良い.
 忘れてならない肝心なことは,原因が歯垢病という生活習慣病だということ.歯垢病は歯垢をコントロールしなければ進行を抑えられない.歯垢をコントロールするには歯垢の性質をよく知り,できるだけ着かないように,着いてしまったものは確実にとること.自分でとれるようにすることです.削って詰める,被せる,入れ歯を入れる…これらは全て応急処置,対症療法です.歯垢病と言う病気が治ったわけではないことを良く理解して,今までの誤った食生活や歯磨き習慣を正しくすることが重要です.
(2)歯肉炎:G
 歯垢病が歯の周りの歯肉に進行して炎症を起こした状態.はぐきの炎症なので目で見て赤くなったり,腫れたりする.歯ブラシが当たると出血することがあるが,歯周ポケット(歯とはぐきの間の溝)は3mm以内と浅い.これは炎症が歯の周りの歯肉に限定されているのでまだ軽症.出血をこわがらず正しいブラッシングを身につけることだけで全快する.歯石がある場合は歯科医院で診てもらう必要があるが必ずしも取ってもらえば済むという問題ではない.「私は定期的に歯石を取ってもらいに行っています」という人は,全て歯医者さんまかせになっていないかを反省する必要がある.
 忘れてならない肝心なことは,原因が歯垢病という生活習慣病だということ.歯垢病は歯垢をコントロールしなければ進行を抑えられない.歯垢をとるには歯垢の性質をよく知り,できるだけ着かないように,着いてしまったものは確実にとること.自分でとれるようにすることである.そして,歯垢がとれた状態で毎日を過ごすことである.
(3)歯周病(歯周疾患,歯槽膿漏):P
 歯垢病が歯肉炎の範囲を越えて歯周組織に進行した状態.歯周ポケットは4mm以上に深くなるため,歯垢は歯周ポケットの中に侵入し,歯根膜(歯を歯槽骨に支え,噛む力をコントロールするクッションになる組織)や歯槽骨(歯の根を取り囲む骨で顎骨に続いている)まで炎症が広がった状態.進行程度によりP1,P2,P3,と分けられる.歯周ポケットは4mm以上と深くなるため,普通の歯ブラシでは届かない.中から化膿してはぐきが腫れたり,痛んだり,出血だけでなく,膿が出たり,強い口臭がするなどさまざまな症状が出る.慢性的に炎症があり,歯槽骨が次第に溶けて失われ,歯の根の支えがなくなると,歯は次第にぐらぐら揺れるようになり,最後は自然に抜け落ちるところまで進行する.「歯槽膿漏の治療は,いくら歯ブラシをしてもダメ,歯肉を切ったり,溶けた骨を再生させる手術をしないと治らない.」あるいは「まったく歯槽膿漏は治らないもの」といった極端な考え方をする人もいる.
 忘れてならない肝心なことは,原因が歯垢病という生活習慣病だということ.歯垢病は歯垢をコントロールしなければ進行を抑えられない.4mm以上の深い歯周ポケットの中まで歯垢をとり,歯肉をマッサージするにはどうしたらよいのかを理解し,そのためのブラッシング法を身につけることである.歯肉を切ったり,溶けた骨を再生させる手術…これら歯周病の治療は全て応急処置,対症療法である.歯垢病と言う病気が治ったわけではないことを良く理解して,今までの誤った歯磨き習慣や食生活を正しくすることが重要です.そして,歯垢がとれた状態で毎日を過ごすこと.
(4)欠損:MT
 歯垢病が進行し,歯の喪失に至った状態.侵されていた歯や歯周組織がなくなり,痛みや腫れ,口臭などの不快症状が消えて,病気が良くなった,治ったと錯覚しやすい.齲蝕や歯周病はなくなったとしても本当の原因である歯垢病は治ったわけではない.逆に,歯を喪失するまで進行してしまったのだと理解しなければならない.
 欠損は通常ブリッジ(固定性義歯)又は部分床義歯(可撤性義歯)で補綴されるが,義歯が装着されて機能回復,審美回復ができると治療が終了したものと錯覚されてしまう.義歯の機能回復に関する調整は行なわれても義歯清掃に関する指導はなおざりにされがちである.歯垢病の概念が必要なゆえんである.
(5)義歯性口内炎:
 歯垢病が義歯を介して床下粘膜に広がり,炎症を起こした状態.義歯の清掃を十分に行なわず,入れっぱなしにしていると起こる.義歯に付着した歯垢の中でも特にカンジダ菌の関わりが大きい.
 忘れてならない肝心なことは,原因が歯垢病という生活習慣病だということ.歯垢病は歯垢をコントロールしなければ治らない.歯垢をコントロールするには歯垢の性質をよく知り,できるだけ着かないように,着いてしまったものは確実にとること.義歯性口内炎をおこす人は夜間,義歯を装着してはならない.食後は義歯をはずしてよくブラシで清掃し,義歯洗浄材を使って化学的清掃も行なう必要がある.そして,歯垢が付着していない清潔な状態で毎日を過ごすことです.
(6) 嚥下(誤嚥)性肺炎:
 歯垢病の原因菌である口腔内常在菌が肺に誤嚥されて炎症を起こした状態.寝たきりの高齢者などでは死に至る場合も決して少なくない.本人はもちろん,状況によっては家族や介護にあたる人達が忘れてならない肝心なことは,原因が歯垢病という生活習慣病だということ.歯も義歯も歯垢が付着していない清潔な口腔内状態で毎日を過ごすことです.歯垢をとるには歯垢の性質をよく知り,できるだけ着かないように,着いてしまったものは確実にとること.その方法を身につけなければ誤嚥性肺炎は防げない.

このつづき「咬合崩壊病」は、次回以降にお話しします。



矢口記念大森ユニオン歯科のホームページはこちら

コメント