わしには,センス・オブ・ワンダーがないのか?

翻訳もののSF短編を主に,あらすじや感想など、気ままにぼちぼちと書き連ねています。

黄金律~デーモン・ナイト③

2022-06-26 21:35:34 | デーモン・ナイト
 「黄金律」とは、「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい」との道徳の根本則であるが、本物語は、「黄金律」の否定型(silver rule)である「他の人からしてもらいたくないことは他の人に対してするな」がしっくりきます。

 ミズーリ州チリコシ界隈のあるエリアで、他者に対する行動がそのまま自分に跳ね返るような奇妙な事件が続発します。
 このことに、政府に関わるきな臭いものを感じた新聞記者のダールは独自に取材を行ううちに、当局から秘密裡に接触を受け、軍の研究施設において、真実を知ることと引き換えに、その機密をしばらくの間、隠匿することが人類にとって必要なことを理解し、公表しないことを求められます。
 ダールは、完全に承諾したわけではありませんが、事実を見て、判断することを前提に、軍の研究施設へと向かいます。
 いわゆる「ロズウェル事件」になぞらえたお話のようですが、ダールは、研究施設内に幽閉されているものか、政府か、どちらの側につくかの選択を迫られることになります。

 まあ、政府側につくのなら、この話はそれで終わってしまいますので、ダールは、この来訪者との同行を選び、「地球改革」の荒療治を身近に見て、いろいろと悩みつつも、「人類側」の代表者的に、事の次第と顛末を記す役どころを振られています。
(ちなみに、同作者の「人類饗応法」みたいな裏切られ方もあるので、この作者にかかるとどのみち、我が人類には悲運が訪れそうですが・・・。)

 人類が一皮むけて、より高次の存在となり、銀河の先進種族に加わることができるように仕向けていく、来訪者は、その使命を帯びて、他者への危害、苦痛、さらには戦争のような所業を一掃するため、silver ruleがあまねく行き渡るように、「身をもって相手の痛みを知る」ことが徹底される手法を用います。

 捕食動物は、絶滅に追いやられますが、人類にも多大の影響が生じ、政治、経済、社会が抜本的に変わっていき、混乱の末に無秩序状態に陥るかと思いましたが、国や人種を越えた横断的組織や、地方の自己充足的なコミュニティが、崩壊する政府の機能を代替し、新しい価値観のもとでの生き方が段々と確立されていく様子が描かれています。

 ダールと来訪者との逃避行の中で、パスポート偽造のために、ホイールライトという男と話をつけようとしますが、抵抗されたため、ダールは衝動的にホイールライトを殴打しいうことをきかせようとします。そのときにダールが、ホイールライトから感じた苦痛と恐怖により、人が背負いこんでしまっている因果な性分について、思いを至らす場面が印象的です。

 「ホイールライトに恐怖の心を植え付けたのは誰か。そしてだれが、全世界はおまえの敵だと教え込んだのだ?
 それはあなた、そしてわたし、そして地球上すべての人類、さらに我々の前にいる二足の祖先全員なのだ。我々のうちには、あまりにも満足できることが少ないからだ。
 何十億という苦しみもがく人間のうち、ほんのひとにぎりの者しか、父から娘から息子へ、世代から世代へと続く、不幸の鎖をうちくだこうとしなかったからだ。
 だから、ホイールライトがいる。我々が人類の中からつくりだした男だ。芸術的手腕と勇気とは、彼の内部に針のように細く、針のように固い核となって圧縮されてしまっており、だからこそ我々にはそれは絶対にうちこわせなかった。彼の残りの部分には、自己嫌悪と、疑惑と、怒りと、恐れとが満ちている。」


 厳しい生存競争を勝ち抜いてきた、「動物」の進化の過程(こういっちや、動物には気の毒ですね。精神的苦痛を与えることも辞さない人間は、より特異な進化を遂げたというか・・・)で、深く深く刻み込まれた、宿業のようなものを感じます。いじめ、差別、ジェノサイド、戦争・・・。
 人類自らによっては、そこから脱することはできない、他の強制的な力をもってしないと無理という考え方は、大変、ペシミスティックで、あまり、大向こう受けしない話ではあります。

 「本当にこれでよかったのだろうか」
 物語のラストはどうとらえればよいのてしょう。
 一見、苦難の末のめでたし、めでたしともとれますが、人間の存在価値の否定に対する思いがくすぶります。

 Speculative Fictionとして、力作であり、名作だと思います。
 あんまり目立たない作品ですが、忘却するには惜しく、どこかでアンソロジーに再録してほしいですね。
 





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