コンピーター・リサーチ社なるところで人事部長をしているケネディ。
会社の研究者オーエルバッハ博士は、脳が記憶を蓄えるように、未知の超自然的な力を、現実の力に変換し、貯めることができる機器を発見しています。
この研究を発展させて「反重力」を手に入れようと、ペンタゴンは、幾人かの「超能力者」を送り込んで協力する手はずとなっています。
そして、ペンタゴンから、最初に、スワミなる人物が連れてこられます。
スワミは、未知の高みにある存在とコンタクトできる「霊能力者」として生業を立てている、いかがわしげな男性です。
しかし、灰皿一つ、念動で動かすこともできないのを見て取ったケネディは、早速スワミを送り返そうとしたところ、ペンタゴンからの送り書には次のくだりが。
「ケネディ殿—このスワミが贋物であることは当方もすでに承知しているが、それにもかかわらず当方としては、何らかの説明できない力があると信じていた。そちらの所長ヘンリー・グレノーブル氏にも話しておいたことだが、当方としては協議した当方分担の仕事、はっきりいうと六人の男性ポルターガイストを用意する仕事を実行しつつあり、あなたと所長のふたりに、謹んで反重力班をただちに作成される仕事にかかっていただきたいと申し上げるものである。」
やむなく、ケネディは、スワミに「降霊会」を開催させて、どういう結果になるかを見ることにするのですが。
1955年の作品で、「SFベスト・オブ・ザ・ベスト<下巻>」(創元SF文庫)に収録されていますが、巻頭のコードウェイナー・スミスの「夢幻世界」と三番目のフリッツ・ライバーの「マリアーナ」に挟まれ、ほとんど注目されず埋没してしまっているんじゃないかなと思います。
実際、私も、これまで読み飛ばしていましたが、今回、たまたま読み直してみると、これが意外に面白かったですね。
確かに、今も古びない作品とは言い難く、会話もユーモア感覚も古めかしく、機器のちゃちさも御愛嬌です。
でも、「霊能力者」は、古今東西絶えることなく、世は変われども、今なお、それなりのニーズと影響力を持っていますよね。
科学では説明できないスピリチュアルなものへの敬いや畏れを背景に、「業界」として、長年のうちに、人を惹きつける手練手管というか、「技能」が確立され、基本的なところは、今も同じだなということが、作品の経年劣化を案外に食い止めている感じがします。
自分の能力に覚醒したスワミが、意気揚々と「空中浮揚」する姿など、どこかの教祖を思い起こさせましたね。
この作品の面白さの第一は、スワミ自身が、本当は「霊能力者」であることを知らなかったところです。当初は、いわゆるペテン師としてふるまい、途中から、自分に怯えてしまう姿を見せますが、新たな自信を得て尊大になっていくところなど、憎めない世俗的な姿がシニカル、ユーモラスに表現されています。
もう一つの面白さは、題名の奇妙さにもあるように、作者の超能力に対しての妙な考え方ですね。明快に理解できるものではなく、けむに巻くような胡散臭さがよいと思います。とはいえ、もう少しクリアーにならないかな。そんな機会はないだろうけれども、新訳に期待します。
作者のマーク・クリフトンは、すっかり忘れられた存在でしょう。知られているのは、「最も知られていないヒューゴー賞の受賞者」ということで、第2回(1955年)の長編部門を「ボシイの時代」(フランク・ライリイとの共作)で獲得しています。この話もSFトリビアの一つであり、「創元SF文庫総解説」に記載されています。
マーク・クリフトンのより知られた短編である「希望の星」は、60年前!の1964年のSFマガジンに掲載されています。バックナンバーを買いあさっていた頃に入手していた号でしょうか。一度、実家の倉庫を探してみようかと思います。
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