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おかあさんのうた

どこをどう歩いてきたんだろう。
おかあさん、子供たちよ。
あのぬくもりはもう帰っては来ないのだろうか。

春なのに

2010-04-01 03:04:11 | 随筆
 今ね、結構まじめなんだ、こまめなんだ。

毎朝、仏壇と神棚にはお参りしているよ。

ここでは火の神があって神棚の代わりに台所に女性が祀るんだ。

女はいないから自分でやっている。

神様と火の神様には毎朝、君とアコとモコのことお願いしている。

仏壇はね、俊朗の好きなお菓子など、時折、買ってくるよ。

親爺には好きなタバコをのませなかったから時々あげている。

親爺はコーヒーが好きだったと妹からインスタントコーヒーを送ってきたので毎朝あげてる。

夜はね、晩酌の酒と肴とおかずをね。これはおふくろだ。


沖縄には沖縄の慣わしがあって、出来るだけ合わせてやっている。

結構、大変だよ。

でも供物はいずれ自分の口に入るから楽しんでいる。

ご飯が困るんだ。

独り身だから、毎朝炊くわけにいかないだろう。

一度にたくさん炊いて、冷凍に小分けして、毎朝、それをレンジで暖めて供えて、自分も食べてる。


静か過ぎて、少し早く寝るとこんな時間に眼が覚めてしまうんだ。

何とか生きがいを見出したくてこんなことをやっているけど、気休めにしかならないね。


きょうの寒さが終わりのようだよ。

寒の戻りが一度くらいあるかもしれないが、大したことはないそうだ。

からだは大丈夫かい?

腰は痛くないかい?

モコと仲良くやっているかい?

おまえに見せようとベランダに植えたブーゲンビリヤやハイビスカスが大きくなって、いま、たくさん花をつけているよ。

今年は庭の梅は咲いたかなあ?

<写真の花はブーゲンビリア>

最後の手紙

2010-03-26 10:06:04 | 随筆
 この寒さはこれで終わりだね。

とても寒いよ。すこし開いたてた窓からひゅーひゅー風が入り込む。

1人の部屋で机に向かっている。

由布子はいま何をしているのかな。

何も云わず、物干し竿に洗濯ものをほしているに違いないね。

そっちも寒いだろう?

 去年の日記を紐解いてしまった。

あの日あの夜に君に書いた最後の手紙を書いた日の日記のページが出てきた。

…………………………………………………………………………………

 昨夜、手紙を出した。

今夜は涙を堪える事ができた。我慢できた。

ゆふこ、これが最後の選択だ。

今朝からおまえに電話をしたくて何度もパソコンの机から離れてはおもい留まった。

きのうの手紙は明日には着く。前以て云っておかないとおまえは衝撃をうけるだろう。

電話して予告したところで、手紙が着くまでもっと辛いだろう。

おれはどうすればいい。

今までは、一緒に居るときはおまえが教えてくれた。

そういう場合でも、こうしろととかああしろとか云わなかった。

おれが決断できる言葉をくれた。

おまえと最後まで生きていたい。

おまえの最後は俺が見取りたい。


 昼飯で2合飲んだ。

この2ヶ月、安酒で悩みをごまかしている。

              21年7月26日


 

2010-02-07 23:46:50 | 随筆
 あれ、ゆふこがいる。

この家、誰の家?

あのひげを生やしたおっさんは誰?

あれ、ゆふこがいなくなった。どこ、行ったの?

「買い物じゃないの、すぐ帰るといってたわよ」

このおばさんだれ?でも、やさしそうだ。


 ゆふこが見えた!

でも、声掛けちゃいけないんだ。誓約書に押印したからね。

そっと、ゆふこのそばによってみる。

ゆふこは逃げない。

ぼくをじっと見つめている。

目が潤んでいる。

 ぼくは勇気を出して、そっとゆふこの耳元に口を寄せた。、

「帰れるようになったら、そしたらもどっていくからね」

ゆふこは黙っていた。なつかしいゆふこの匂いがした。


 むこうで、家の壁に男はもたれ、女は男の前に座って男に話しかけている。

突然、ゆふこは僕の腕をとって、グングン家の中へぼくをと引っ張っていく。

男と女の前を通って、急ぎ足に家の奥へと連れて行く。

そうか、ゆふこももぼくに話しかけちゃいけないんだ。

誰もいないところで話そうって云うんだね。

右手を掴まれた腕からゆふこのぬくもりが伝わってくる。

あたたかい、確かにゆふこ、おまえのぬくもりだ。

おれのこと許してくれていたんだね。

 
 突然、視界からゆふこもおっさんんもおばさんんも消えてしまった。

ぼんやりしている。靄がかかったように何も見えない。

右腕の掴まれた感触とぬくもりだけが残っている。


 夢か。

夢をみていたんだと、次第に意識がはっきりしてきた。

ゆめなら覚めるな。夢に戻ろう。

ゆふこの手のぬくもりが右腕に残っている。今のうちにゆめの家に帰ろう。

ゆふこにあいたい。

夢の続きをみよう。

真っ暗な部屋の中でじっと目を瞑る。

ーーーーー。

  無情に意識は目覚めていった。

また、無意味な一日が始まる。

 

 

寒いね

2010-01-26 17:56:12 | 随筆
 あのね、お父さんのベランダには小鳥が来るんだ。

ひよどりやメジロ、そしてね頭の白い鳥でここでは「カンパチ」って云うんだ。

鉢植えのブーゲンビリヤの枝によく来るんだ。

みかんを輪切りにして、小枝に刺しておくと啄ばみに来る。

かわいいよ。

おかあさんと見においでよ。

冬の間だけなんだ。


 ひよどりはね、必ず、番で来るんだ。

きっと夫婦だろうね。

一匹がミカンをさかんに啄ばんでいる時は、

一匹は辺りの様子を伺っては突っつく。


 アコは寒くないかい?きょうは冷えるだろう。

モコはいらいらしてないかな?

おかあさん、どうしてるかな。

 裏庭に植えた紫式部は実をつけたかな?

野牡丹は寒さに耐えているだろうね。


 寒いね。

帰らぬあの日

2010-01-20 17:13:34 | 随筆
 きょうはとてもあたたかだよ。

おまえはきっと洗濯物を庭一面に干してあるだろうね。

昼から少しパソコンの記録の整理をしていたら

去年の夏、大切な大切なことを手紙にしてしまった日の日記が出てきた。

後悔したあの日。

仕方がないとも思ったあのとき。

平成21年7月22日記す



………………………………………………………………………………………………………

昨夜、手紙を出した。

今夜は涙を堪える事ができた。我慢できた。

ゆふこ、これが最後の選択だ。

今朝からおまえに電話をしたくて何度もパソコンの机から離れてはおもい留まった。

きのうの手紙は明日には着く。前以て云っておかないとおまえは衝撃をうけるだろう。

電話して予告したところで、手紙が着くまでもっと辛いだろう。

おれはどうすればいい。

今までは、一緒に居るときはおまえが教えてくれた。

そういう場合でも、こうしろととかああしろとか云わなかった。

おれが決断できる言葉をくれた。

おまえと最後まで生きていたい。

おまえの最後は俺が見取りたい。

昼飯で2合飲んだ。

この2ヶ月、安酒で悩みをごまかしている。

 …………………………………………………………………………………………………

「こんな女々しいことでどうするの!」

きっとおまえはーーーーーーー。






帰るところのない大晦日

2009-12-31 16:01:33 | 随筆
 おかあさん、
きょうは寒いんだ。
そっちも寒いんだって。川面に靄がたってるかな。

 アコは帰ったかい。
モコは相も変わらず仏頂面してるかな。
あれから半年。
俺のこと忘れて、なんてことないよね。

 もう何年も帰ってない。
どう言い訳しようかと正月が近くなる度
辛かった。
思いあぐねていた。
帰りたくても帰れなかった。
どんなに文句言われてもいい、
帰りたかった。

 もう迷うことも
考えることもなくなってしまった。
 ことしから帰れない。
帰るところがなくなった。

 刺身セットを買ってきた。
仏壇にあげて、父や母に詫びよう。
由布子よ
勝手な俺だった。
後悔している。

 往く年来る年、
年は往くんだね。
もう還らないんだ。
 今年が最初からやり直せるといいね。
そしたら、そしたら、
こんな馬鹿なこと
決して、しないのに。


ありがとうって云えなかった

2009-12-05 17:54:19 | 随筆
 仏壇を買わなきゃね。

 昼下がり、あたたかな陽射を背に受けて
バス停にたたずんでいると
「あれ、お前ここで何している」
あの人もこの人もお前に見えてくる。

 「単身赴任のものだから小さい仏壇でいい」
繕いながら、愛想のいい店員に案内してもらった。

 いつ、父や母の仏壇を揃えるたのか知らなかった。
仕事を持ち、小さな子供たちを世話しながら、
愚痴ひとつ言わず懸命に家族のために尽くしてくれたね。
いつの間にか仏壇が座敷にあった。
あの時、
「ありがとう」
と言っただろうか。
すまないと思っただけだったような気がする。

 先日ね、
姪っ子が東岸寺にお参りに行った。
「兄ちゃん、お姉さんはよくお参りにきてくれるよ、ってお寺さんが言ってた」
「そう、あいつらしいさ。おれにはもったいないよ」

 押し付けるようなことは一言も言わなかった。
「機会があったらできるだけお参りしなさい」
と、それだけだった。

 帰りの道に咲くトックリキワタがきれいだった。
<お前に見せたい>
叶わぬ夢を見る。
なぜ、あの時、あの日、あの時代気がつかなかったんだろう。

 もうすぐ冬だ。
ひとりの冬はいやだ。
「一緒に住む気はありません」
あの一行が胸を刺す。

 葉を数枚残した冬枯れの樹がポツンと立っていた。
 

真夏の後悔

2009-10-31 15:46:11 | 随筆
「じゃあ行ってくるね」
電車通りの左端に車を停めて、妻と二人の子供を降ろした。
コンクリートの路面と線路に灼熱の太陽が降り注いでいた。
日曜日。朝から2キロほど先の門司港にある山城屋デパートまで買い物に出かけた帰りである。
 「明日、マージャンやろう」
と先輩の田岡が切り出したのは昨夜のことだった。薬河も大高も賛成した。
田岡と薬河は2つ、大高はひとつ上だった。
「明日は家族と約束がある」
と渋ったが許してもらえるはずがなかった。家族でデパートに買い物に出かける事になっていた。
妻の由布子の顔を思い浮かべた。せめてと夕方からにすることだけは認めさせた。
 両手にショッピングした大きな品物を下げて坂道を重たげに上る妻の手に次女の小さな手がすがりつく。長女は妻の荷物に手を添えているが、邪魔になりこそすれ助けにはならない。
照りつける夏の太陽の下を黙々と由布子の後姿に車を降りて、自宅まで一緒に行こうかと迷った。
止めた。
ごまかしのやさしが何になる。自分に腹が立った。
 思いっきりアクセルを踏んだ。
涙が停まらなかった。

 明世が五歳、智美が二歳の夏であった。
きょうのような青く澄んだ空を見るたびに目頭が熱くなる.
もう数十年も前のことなのに、いつも想い出しては取り返しの日々を後悔する。





かあさんのうた ~公園~

2009-10-08 17:23:50 | 随筆
 台風は北へ去って行った。

昨日まで降り続いた雨はあがった。

公園へ行ってみよう。ずいぶんと行ってないなあ。


 どこまでも、どこまでも広がる蒼い空が果てしなく誘う。

公園の丸太で作ったベンチで缶コーヒーを飲む。

秋風が通り過ぎてゆく。もう秋だ。


 自分はここで何をしているのだろう。

何をするためにこの公園に来たのか。

なぜ、この町にこんなに長くいるんだろう。

 
 公園の傍の大通りを走り抜けてゆく車の音が、遠い世界からのように流れている。

葉を繁らせた大きな赤木は、灼熱の夏の太陽を凌いできた自信を誇らしげに、いきいきとしている。

夏の間、枝いっぱいに花をつけていた百日紅は実となり、葉を落とし始めている。

公園で遊ぶ子等の声が、透き通って懐かしい。


 かあさん、おいでよ。

おまえの好きな風景だよ。

やめてたタバコを今、買ってきた。

おいでよ。

タバコは捨てるから。


平成21年10月8日(木)晴れ