温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

秩父 千鹿谷鉱泉 惜別入浴

2020年08月04日 | 東京都・埼玉県・千葉県
埼玉県秩父地方に(湧出温度が25℃以上の)温泉は湧出していませんが、冷鉱泉ならば随所にあり、中でも秩父七湯とよばれる歴史ある鉱泉は、既に江戸時代にはその名が知られていたそうです。拙ブログは鉱泉が不得手なため、いままで取り上げたことのある七湯は「新木鉱泉」だけですが、七湯の一つである「千鹿谷鉱泉」が今年の夏を以て閉鎖・解体されてしまうという情報を小耳に挟んだので、惜別入浴するべく伺いました。


錆び切った看板が立つ角から、車一台しか走れない狭隘な林道「千鹿谷線」を進んでゆくと・・・


歴史ある鉱泉の一軒宿「千鹿谷鉱泉」にたどり着きました。長年にわたって客を迎えいれてきましたが、ご主人が昨年お亡くなりになったことに伴い宿の営業も取りやめ、この夏に解体されることになったそうです。鬱蒼とした山の緑に飲み込まれんばかりの宿の建物は、この上なく草臥れ切っており、もう十分に役割を果たし切った感が伝わってきます。


「でんわ でんぽう」の看板が昭和のノスタルジーを感じさせてくれますね。


(画像一部加工済)
関係者の方には大変失礼な表現ですが、ほとんど廃墟然とした建物の様子におののきながら、玄関の引き戸に手をかけ横にスライドさせます。三和土に足を踏み入れて声を掛けても何の反応も無かったので、館内にはどなたもいらっしゃらなかったようですが、上がり框にはスリッパが綺麗に並べられており、訪問者のための帳面が用意されていました。また帳面の脇には「建物の解体につき7月13日(月)~8月22日(土)までお風呂を解放(ママ)致します。ご利用ください。AM8:~PM7: 令和2年7月 館主」と書かれたお知らせが文鎮で押さえられていました。どうやら解体までの約一か月は、誰でも入浴できるよう開放してくださっているようでした。


まだ営業していたころは、玄関左手にあるこの戸棚の小さな引き出しに入浴料700円をセルフで納めていたようです(釣銭もセルフなんですね)。
今回の訪問時は開放提供されていたため、これを使う必要は無かったのですが、後述するようにお風呂はきちんと清掃され、しっかりお湯も沸かされており、一か月の開放期間内だけでも 維持管理に相当の手間や費用がかかるものと思われますので、気持ちとして幾許かを引き出しに納めさせていただきました。


誰しも日本史の教科書で学習する明治の自由民権運動のひとつ「秩父事件」。この歴史ある鉱泉宿もその舞台になったらしく、この宿で秘密会議が催されたんだそうです。山奥のひっそりとした立地が、密談に最適だったのかもしれませんね。
館内にはこのことが筆書きのメモで説明されており、そのメモをイノシシの剥製がジッと見つめていました。


秩父鉄道の電車内に掲出されていたと思しき広告です。宿を訪れた多くの方はこのフォトジェニックな広告を撮影なさっているようですが、私も惹かれてついカメラを向けてしまいました。実に良い味を出しています。


イノシシの剥製の奥が男湯。


浴室もかなり年季が入っており、いまにも崩れそうな気配すら漂っていますが、それでもきちんと清掃されています。館主の方のご苦労に頭が下がります。
レトロなタイル張りの浴室。床にはスノコが敷かれていますが、部分的に撓んでおり、今にも踏み抜いてしまいそうな感じ。気を付けながら利用させていただきます。浴槽には保温用の蓋がかぶせられていますので、自分が入るのに必要な分を取り外しますと・・・


このような湯船が現れました。無人状態ながらちゃんとお手入れされており、しかもお風呂の湯加減もちょうど良いのです。実にありがたいお風呂です。


石積みの湯口から加温されたお湯が勢いよく出ています。冷鉱泉ですから当然加温されており、循環装置も稼働しています。電気が使え、しかも加温や循環の各装置まで運転させているのですから、さすがに手ぶらで入る気持ちになれず、帰りに料金入れへ寸志を納めたのでした。
お湯は無色透明で無臭ですが、肩まで湯船に浸かると全身にヌルヌルスベスベの浴感が伝わってきます。


もっとすごいのがカランの水。こちらは冷鉱泉が冷たいまま吐出されるのですが、湯船以上にニュルニュルしている上、ほのかなタマゴ風味も感じられます。秩父の冷鉱泉には「たまご水」と称されるような、硫化水素イオンなどの硫黄分を多く含む鉱泉が点在しており、硫黄の温泉が好きな私でも興奮できちゃう実に面白い鉱泉なのです。
館内に分析表は見当たらなかったので、明確なことは申し上げられませんが、おそらくアルカリ性で、かつ炭酸水素イオンや炭酸イオン、そして硫化水素イオンが多いのでしょう。湯船も良いのですが、蒸し暑い陽気でヒンヤリした感覚を全身で楽しみたかったので、ついつい冷たい鉱泉をそのまま頭からかぶって、全身でニュルニュル感とタマゴ感を堪能させていただきました。

閉館に伴う開放は8月下旬で終了し、その後宿の建物は解体されます。実に味わい深い佇まいで、しかも泉質的にも魅力的なこの歴史あるお宿が終止符を打ってしまうのは非常に残念ですが、未確定ながら、数年後には営業再開の予定があるんだそうです。秘境の一軒宿「千鹿谷鉱泉」がどのように生まれ変わるのか、いまから楽しみです。再興を心からお祈りしております。
コロナの感染云々でなかなか外出しにくい社会情勢ではありますが、皆様にて感染対策をしっかり講じたうえで、期限までに足を運んでみてはいかがでしょうか。


泉質名不明(分析表確認できず)

埼玉県秩父市上吉田2148

訪問可能時間などは本文をご参照ください。

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コメント (4)
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