日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
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◎本日のショートショート「対応する男」

2020年04月25日 | ◎本日の想像話
 対応する男


 約束の時間はとうに過ぎている。和宏は待ちきれずに、とうとう玄関の前に立っていた。うららかな休日の午後。今日は和宏にとってクリーム色のスポーツセダンが納車される特別な日だった。
 和宏はそわそわしながら通りを見ている。昨夜なかなか寝付けなかった。布団の中で、新車のステアリングを握る自分。助手席に座る妻。桜並木を駆け抜ける景色を想像すると、俺もなかなか捨てたもんじゃ無いなと興奮を覚えた。
 和宏が通りを見ているのには訳があった。和宏の住まいは一方通行の多い、奥まった場所にある。ここに車で到着するにはちょっとしたコツが必要だった。ディーラーの営業マンには地図を渡して説明した。
「了解しました」
調子のいい若者だったが、和宏は一抹の不安を感じていた。
 その時、クリーム色のセダンが通りの逆を走っていくのが見えた。
「ああ、その道は違う」
家に来るためにはもう一度大通りに出て、別の道に入り直す必要がある。
「これは時間がかかるな」
そう一人つぶやいて和宏は居間に戻る。
 アクシデントを乗り越えて無事納車された。
 
 納車後一週間が過ぎた。科学者である和宏にはある発見があった。ハンドルを握ると不思議と思考のまとまりを感じていた。
 十年目、セダンの調子が悪くなった。買い換えか修理か。悩んだ和宏は修理に出した。
 二十年目、ふらふらするセダンの足まわりと排気漏れがうるさいマフラーを交換した。
 三十年目、ゴム関係の部品在庫があるうちに出来るだけ交換した。


 和宏はある夜、時間路線図なるものを発明する。現在の時間に接続して乗り入れたものがいる場合、履歴として表示されるものだった。
 半ば冗談でつくったものだった。なぜなら、時間旅行の出来るものなどいないとふんでいたためだ。しかし、和宏を中心に十年、二十年、三十年に一回づつ何者かが乗り入れてた。
 和宏にはぴんとくるものがあった。クリーム色のセダンと関係があるのでは無いだろうか。
 和宏はガレージに向かう。
少々くたびれてはいるが愛車のセダンがそこには止まっている。もう少しで四十年、この車と一緒にいることになる。
 ドアを開けて車内に入る。ライトで照らしながら和宏は痕跡を探す。普段はあまり開けない後部座席の小物入れを開けてみる。丸まった状態の紙屑があった。延ばしてみると、それは見に覚えの無い飲み屋のレシートだった。日付をみて驚愕する。今から十年後の未来の日付が印刷されている。


 和宏はある仮説を立てる。
 十年の節目ごとにセダンが調子を崩し、修理をした。
 これは、調子の悪くなったセダンと共に過去に遡り、車を交換する。状態の良いセダンを未来に乗っていく。この行為を繰り返したのか?
 こんな事をする人物は一人しかいない。
 和宏は、平行宇宙の自分は作ることに成功したはずだと確信して、タイムマシンの開発に着手する。

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