田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

これって『随筆』として読まれるだろうか、教えて下さい。 麻屋与志夫

2018-12-06 15:52:03 | ブログ
12月6日Thu.
りり、どこにいるの

「リリに、餌はやらないほうがいいのかな」
「どうかしら? 不妊手術だから」
 わたしはリリの餌皿をタンスの上に置いた。
「抱っこしていきましょう」
 カミサンは毛布を用意してきていた。リリは不安そうに、でも「ンン」とカミサンのかおを見上げて鳴いた。リリはなぜかニャオと猫の鳴き声が出ない。生後三月ぐらいで、わが家の玄関に迷いこんで来た。
「ごめんな。パパに働きがあれば何匹でも赤ちゃん産んでいいのに」
 カミサンはリリにほほを寄せて歩きだした。
 大通りの方ですごい騒音が高鳴る。道路工事をしていた。
 トラックが警笛を鳴らした。
 カミサンが悲鳴をあげた。リリが車道にとびだした。トラックが来た。
 わたしは一瞬リリがひかれたとおもった。
 そのイメージが脳裏にきらめいた。
 リリはすばやくこちらに引き返してきた。
 リリはそのまま狭い隙間にとびこんでいった。越後屋さんとF印版さんとの間だ。それっきりリリはわたしたちの視野から消えてしまった。
「リリリリ」いくら呼んでも姿をあらわさない。
 タンスの上でリリの餌皿が光っていた。斜陽が窓ガラス越しに射しこんでいた。
 わたしは固形餌の小さな山をくずさないように、タンスの上から餌皿をおろした。
 水飲み皿の横に置いた。
 餌と水飲み皿をみて「まるで影膳のようだ」と思ってしまった。
 裏庭のデッキでカミサンが弱々しく「リリ」と呼ぶ声がしていた。
 声は嗄れていた。
 涙も涸れているだろう。
 翌日は午後から冷たい雨が降りだした。眼下の東側の駐車場の端に側溝がある。越後屋さんの裏だ。水は流れていない。リリはその辺り、わが家から50メートルくらいしか離れていない場所で姿を消した。死の恐怖におそわれ、まるで弾丸のような速さで家と家の間の隙間に跳び込み消えていった。
「この雨で濡れないかしら」
「猫だから身を寄せる場所を探しあてているよ」
「寒いわ」
「毛皮をきているのだから……」
「凍え死んじゃうわ」
「心配することないよ」
「死んじゃうわよ」
「恐い体験をすると一週間くらい縁の下にもぐりこんででてこない猫もいる。インターネットで調べた」
「調べてくれたの」
「その猫の好きな食べ物をもって名前を連呼して歩くといいらしい」
「そんなことまで書いてあるの」
「あす晴れたら、削り節をもってもう一度、あの空家の周辺を探してみよう」
「ねえ、わたしがつくったサッカ―ボールがこんなにあるの」
 カミサンの手のひらにはアルミホイルをリリが咥えられるくらいに丸めたボールがあった。
 それを床に置いてはじくと、前足ではじきかえしてくる。
 カミサンは子どものように喜々としてリリと遊んでいた。
 ついぞ聞かれない笑い声が家のなかでしていた。
 リリのふわふわした布製のベッド。
 リリの破いた障子。几帳面なカミサンはすぐに桜の花の切り張りをした。
 障子の桟をつたって天辺まで登りつめたリリのヤンチャな爪痕。
 いままで、元気に飛び跳ねていたリリがいない家の中は、さびしくなった。
「泣くのはいいが、いつまでも嘆いているとまた風邪が悪くなる」
 カミサンは三カ月も風邪で咳が止まらない。
「だって、悲しいんだもの」
 少女のようにわたしの胸に顔をふせて泣きじゃくっている。
 いままでいたリリが不意に消えた。
 ケガをした訳ではないので――死んではいない。
 必ずまだ生きている。
 ひょっこりと、迷いこんで来たときのように玄関先にあらわれる。
「もどってくるよ」
「気軽にいわないで。探しに行きましょう」
「あした晴れたらもちろん行くさ」
「キットヨ」
 猫は怯えると、一週間もその場から動かない。そんな習性があるとインターネットで調べた。まちがいなく、越後屋さんの空家に居座っている。そう判断して二人で家をでた。
 削り節の袋をカミサンが手に、リリをさがしに出発した。
 リリが逃げてから三日目になる。
 工事現場の轟音とトラックのエンジン音を初めて耳にしたリリは恐怖のあまりカミサンの腕から跳びだした。
 危うく車道の中央でトラックに轢かれるところだった。
 よく踏みとどまり、こちら側に逃げ戻ったと思う。
 あのとっさの判断が生死の分かれ目だった。
 
 リリは狭い隙間に跳びこんだ。
 猫なら通れる。犬ではむり。細く狭い。
 この辺から、移動する訳がない。まちがいなく、越後屋さんの空家にいる。
 空家の隣のYさんがヘンスにある鉄製の扉を開けてくれた。
「リリ、ママよ。リリ、ママよ」
 カミサンが削り節をヘンスの上や、地面に置いた。
「リリ。リリ」
 鳴き声がした。
 あまり幽かなので小鳥の鳴き声に聞こえた。
 ニャアと猫の鳴き声ができないリリだ。
「リリだ」
「リリだわ、いた、あそこにいる。どうする。どうする」
 カミサンは感極まっている。


●地元の某誌に依頼された随筆の原稿です。ショートショートとして書いたものを随筆らしく書き改めた。でも、これでいいのだろうか。随筆という範疇には入らないのではないだろうか。ただ、あまりに近頃の随筆を読んでいると、おもしろくない。それに話題と語り口が類似的で老化を感じる。これは随筆の書き手は老人がおおいためかもしれない。じぶんが高齢者なのに、こうしたことを考えるのは、おこがましいことたが、随筆をもっとおもしろくしたい。それにはショートショートにスリヨッタほうが、随筆というジャンルを蘇生させるひとつの方法ではないだろうか。
若い人の意見をぜひきかせてください。




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