田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

「猫――飼いたいわね」と妻がいう。  麻屋与志夫

2018-07-13 04:16:13 | ブログ
7月13日 Fri.

●わたしは、裏のデッキに面した廊下にでて、曇りガラスの上部のスドオシになっている引き戸から棚を見る。大きいほうの「白」がいた。園芸用品の棚を支える、わずか十センチ幅の角材のツッパリのうえに乗っていた。いやそれほどの幅はナイダロウ。よくあんなに細いところに乗っていられるものだと、猫の驚嘆すべきバランス感覚に感心していると、パタンと跳び下りた。

●「なんだ……白ちゃん、ミイマでなくても近寄って来てくれるのだ――」
ひとりごとをいう。最近、ひとりごとをいうようになって、その新しくついた癖をわたしは、あまりうれしくはないのだが、受け入れている。

●だが、そこまでだった。白はデッキにすわっているだけで、近寄ってはこない。

●「ミイマ。白が来ているよ」
カミサンを呼ぶ声が、真夏の朝の大気をふるわせる。裏庭の塀のそとは、百台くらい置ける駐車場になったので、大声を出しても周り近所の人に迷惑をかけるということはない。

●「ミイマ!」
「そんな、大きな声で呼ばなくても、きこえているわ」
小柄な妻が廊下にあらわれると、白はソッポを見ていたのに、ゆったりとした動作でミイマのほうにあるきだす。ミイマが座って手をさしだすと頭をおしつけて、目をつぶり、ノドをゴロゴロさせはじめた。

●「飼い猫だったのに、捨てられたのかしらね」
ミイマがわたしを振りかえっていう。
「いいな。お座りできるのが羨ましいよ」
これはミイマにいった言葉だ。わたしは長年書道に親しんできたが、膝の痛みで正座できなくなったのを機に、小説を書くことだけに集中するようにした。ピチット膝をそろえて正座の出来る妻がうらやましい。

●白がうれしそうによってきてスリスリしている。猫ちゃんにモテル、ミイマがうらやましい。雄猫とたわむれている妻に嫉妬したところではじまらない。でも歳老いてからは、ツイゾわたしに見せたことのない無邪気な、童女のような笑顔を白に見せている。

●ブラッキー、に死なれてから、リリに死なれてから、わたしたちは寂しい生活をおくっている。猫ちゃんがいれば、毎日猫の話題がハズミ、家の中が明るかった。笑いがたえなかった。ところがこのところ、年相応の暗い気分からぬけだせない。リリに死なれたペットロス。ブラッキは二十年も生活をともにしてきたので、いまでも玄関を開ける時には「ブラッキ―帰ったよ」と声をかけてしまう。無人の、猫のいない空間にわたしたちの声が寂しくひびく。

●「やっぱり、猫、飼いたいわね」
白をなでながらミイマがわたしを見上げている。



ブログに発表した小説は下記の通り角川の「カクヨム」にまとめてあります。ぜひお読みになってください。

●ムンク「浜辺の少女」は吸血鬼だよ/麻屋与志夫

● 愛猫リリに捧げる哀歌/麻屋与志夫

● 吸血鬼処刑人/麻屋与志夫
あらすじ。 伊賀忍者、百々百子率いるクノイチ48は帝都に暗躍する吸血鬼に果敢な戦いを挑んでいた。百子は帝都東京で起きる「人を殺してみたかった。だれでもよかった」という凶悪犯罪の…の背後に吸血鬼の影が。






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