少しだけ One for All

公的病院の勤務医です。新型コロナウイルスをテーマの中心として、医療現場から率直に綴りたいと思います。

新型コロナウイルス ---見えてきたかもしれない光--- 4

2021-10-17 01:06:34 | 日記
 これまでの感染の5つの波は、いずれも基本的に前の波を上回る大きな波で来ていました。一つ一つの波が一旦おさまる「収束」は感じても、そうした感染の波の繰り返し自体がおさまっていく「終息」については、感じることも期待することもできないような状態でした。
 ですが今回、この極端に急速な感染の減少を検証したとき、初めて「終息」というものの尻尾が見えたように思えたのです。この第5波はあまりに大きく、そして本当に医療を根こそぎ蹂躙しかけていました。ですから、その印象があまりに強くて、「幸運にも収束した」とホッとしているわけですが、本当にただの幸運なんだろうか?と思ったものです。そこで、検証してみることにして、3回にわたって記載させていただいた次第です。
 第5波の恐ろしいくらいに強烈だった感染の爆発。それとはアンバランスに、本当に嘘のように、みるみるとあっという間に減少した新規感染者数や自宅待機患者。自宅待機患者の多くは病院にすらかからず、保健所の管理のみで隔離を終了していった人たちが大勢いました。
 連休がなかったから?長雨が続いたから?感染への意識が高まって夏の暑い時期にも窓を開ける人が増えたから?8月の下旬に暑さが和らいで部屋の換気がしやすくなったから?、、、どれも立派な諸先生方がテレビや記事なんかで言っていることです。そんなことで、こんなに急激に減少しますか?
 連休がなかったといったって、9月の大型連休の2週間後に増えてないではないですか。長雨が続いて人流が減ったと言ったって、天候が回復してから2週間以上経過しても感染者は増えていないのでは?夏の換気を一生懸命したと言ったって、それをしていることで増えないのなら、そもそも爆発もなかったのでは?だいたい、個々人が感染対策に留意していたからこそ、これまで日本は不完全な医療体制のままでのらりくらりとやっていたわけで、一般庶民の感染対策に甘えていたわけです。それなのに、いまさらそれを庶民の感染対策がさらに高まったから、とかと言うのは、いくら複合的な要因の一つとしてとはいえ、要因に上げるにはお粗末すぎるように思えてしまいます。コメントを求められて、思いつくこともなく、さももっともそうに苦し紛れにこじつけているのでは?と思えてしまいました。
 
 「終息」の前には必ず感染力の強い変異株が感染の世界を平定するはずです。ですから、その観点で、今回のシリーズは、想定される「終息」のパターンから逆算してみました。
 感染力の強い株に平定されるわけですから、「終息」に入る前には、必ず激しく大きな感染の大波が生まれるはずです。感染者数はみるみる増える。でも、重症化率や致死率が低くて、病床がうまる速度は鈍い。この過程を経て、「終息」、すなわち減衰した波の繰り返しへのpeak out が始まるはずです。
 検証してみると、まさにデルタ株はその状況を生み出している可能性があると思えたものでした。みなさんはどうお感じになられたでしょうか?
 
 現在、デルタ株に置き換わる変異株の登場は見られていません。
 増大する感染爆発をデルタ株はつくってきました。そして、第5波でピークに達しています。ラムダ株が心配だ、と語る医師にも出会いましたが、今のところただの感想にしかすぎません。アルファ株からデルタ株への圧倒的な置きかわりを見てきた者にとっては、現状でデルタ株は「オレ様以外のコロナの感染は許さないぜ」と言って、日本での変異株の感染の世界を平定し、長期政権化の足場を固めています。ということは、このデルタ株を少なくとも病原性レベルで管理する(重症化させなくする)ことができれば、「収束」ではなく「終息」に向けた歩みが始まってもおかしくないことになり、その結果がこの急速な感染者数の減少と考えられるかもしれないと期待を持って考察しました。あらためて、皆さんはどうお感じになったでしょうか。
 第5波が予測されたのは(予測のはるか上をいったわけですが)デルタ株への置き替わりが考えられたからです。次の置きかわり株は出現しておらず、現状、今も今後もデルタ株です。次の置きかわり株が想定されない限りは、戦いの相手が今後もデルタ株である限りは、現状のワクチンが有効である限り、理屈上は「終息」への歩みが大きくすすむはずです(前回の文中でも触れましたが、ワクチン等を必要としない終息には、その後に、ウイルス自体が弱毒化した変異株の出現が必要です)。
  
 つまり、今回の第5波で得られた事実の中での白眉は、mRNAワクチンがほぼ完璧と言いたくなるくらい、デルタ株感染による患者さんの重症化を抑えていた事実です。感染は完全に止められませんが、重症化が本当になくなっています。わたしたちの病院でも、つい先日、保健所や周辺の病院との間でカンファレンスを開催し、この第5波をそれぞれの立場から振り返り検証しました(私たちの地域は、一時は実効再生産数が全国一位になるなど、激しい感染爆発にさらされ、保健所の積極的疫学調査も一時破綻しました)。その中で、ワクチン接種者の感染者、いわゆるブレイクスルー感染者の中に、重症者がほぼいないことが確かめられました。一方で、ワクチン未接種者に対しては、デルタ株はアルファ株よりはるかに重症の経緯をとる怖いウイルスであることが示されました。これらは、私たちの地域だけではなく、おそらく全国の現場の医療者に共有されている実感であり、事実であると思います。
 
 参考までに、米国CDC(日本とはかけてるお金も人員も労力も比べものになりません)のデータは、ワクチン接種者が新型コロナウイルスに感染して死亡する確率は0.001%未満と報告しています。
  
※  CDCとはアメリカ疾病予防管理センターと翻訳されています。年間予算は2020年度で76.9億ドル、1ドル115円で計算すると8850億円になります。そのうち、感染症対策27億ドル(=3100億円)と危機対応8.3億ドル(=870億円)で少なくとも4000億円の予算が計上されています。ちなみに、日本の国立感染症研究所の予算は2020年度は65億円(=0.57億ドル)です。いかに日本が感染症に無頓着だったか、現場は小さなシステムで必死に戦っていたか、わかっていただけるのではないでしょうか。そして、この米国との4000億円の差をうめた大きな要因は、最終的には国民の感染対策であり、行動制限だったと思います。一人一人の地道な努力によって、いかに奇跡的に日本は救われたのか、いずれ検証されるべきだと思います。閑話休題。
 
 幸いだったのは、この強力な感染力を持つデルタ株に、mRNAワクチンが極めて有効に作用したことでした。おそらくですが、現状ではワクチン接種者同士の間では、感染者は発生させるものの、重症者はほとんど出現せず、感染者数ばかり増大する(たとえば現在のシンガポールの状態)、社会的にはコントロールされた感染状況を作り出しているはずです。社会を支配している変異株が、このmRNAワクチンが有効に作用する変異株である間に、感染者数のコントロールを成立させ(きっと他の株を侵入させない程度にデルタ株を活かす必要はあるかもしれません。置き換わる変異株にワクチンが有効であれば、置き換わってもらってもいいはずですが)、今回の急激な感染者数の減少が、兆しだけでなく、まずはワクチン存在下での「終息」に導かれることを願ってやみません。
  
 ここまで読んでいただいてありがとうございました。
 世の中で言われていることと、違う視点や考え方が提供できたらと考え、そのようにできることを中心に記載しています。ご意見は様々あって当然だと考えています。
 次回は「ワクチンパスポートは誰のため?」と題して記載したいと考えています。もしお時間がゆるすようでしたら、お嫌でなければお付き合いください。
 
 
                              2021/10/17
      新型コロナウイルス ---見えてきたかもしれない光---  了 



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2 コメント

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ありがとうございます。 (ゆり)
2021-10-17 10:17:28
おはようございます。

>「終息」の前には必ず感染力の強い変異株が感染の世界を平定するはずです。

ここを読んだ時「夜明け前が一番暗い」って思いました。そのように終息向かってほしいものです。

私は田舎の主婦で仕事が一杯ですので、引きこもっていてもストレスにはあまりなりませんでした。
もちろん都会の家族とは2年以上会ってませんが、もっと経済的に打撃を受けてる方のご苦労と比べれば、こんなこと大したことではないとも思ってました。

しかしです・・・様々な身体の不調が出ても病院へ行くのがためらわれたことは困りました。
2年ぶりに人間ドックも申し込みましたが色々指摘がありそうです。

そんな中で休まずに働き続けてくださった医療他勤務の方々の大変さに頭が下がります。
ご無理なさらず、またこうした記事を書かれてください。よろしくお願いいたします。
ありがとうございます (One for All)
2021-10-17 22:57:05
ゆり様。「夜明け前が一番暗い」のコメントしみました。ありがとうございます。まさに同じ思いです。
受診への不安、お察しします。うちも当初からコロナ患者を受け入れていたため、はじめは閑古鳥が鳴きまくっていました。あのガラガラ具合はそれはそれはすごかったです。
人間ドックを受けれられるとのこと、ご健康をお祈り申し上げます。どうかお身体大事にお過ごしください。

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