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大東亜戦争肯定論 (下) - 4 (大川周明と北一輝)

2016-11-21 17:48:13 | 徒然の記

 5.15事件は、昭和7年の出来事だ。海軍の青年将校たちが、犬養総理大臣を、自宅へ押し入って射殺した。

 2.26事件は、昭和11年の出来事で、青年将校ら1,483名が政府要人を襲い、高橋是清大蔵大臣、斉藤実内大臣、渡辺錠太郎陸軍教育総監ほか、警官5名を殺害した。

 林氏がわざわざ一章を設け、大川周明と北一輝について語っているが、納得しないまま読み終えたというのが、正直なところだ。5.15事件の背後には大川周明がいて、2.26事件には北一輝がいた。刑務所に入れられたが、大川周明は罪を問われることなく出獄し、北一輝は、ただ一人の民間人として、軍人と共に処刑された。

 その代わり大川周明は、敗戦後の東京裁判の法廷に引き出された。被告席で突然精神に異常をきたし、自分の前に座る東条英機の頭を叩き、MPに連れ出されている。記録の動画を見て、この異様な光景を覚えているが、氏の本を読む以前に、私が二人について知っていたのはこれだけだった。

 大川周明は明治19年山形県に生まれ、熊本五高から東京帝大の文学科で哲学を学んだ。語学は英、仏、独、サンスクリット語に通暁し、さらに支那語、ギリシア語、アラビア語を学んだ。生涯求道者であった彼は、最初はキリスト教に惹かれ、次にマルクスに心酔し、さらにプラトンの国家論に心を奪われ、最後には日本の思想家へと回帰する。それが熊沢蕃山であり、横井小楠であり、佐藤深淵であった。こうして彼は「大アジア主義」と「日本主義」を自己の魂の中に結晶させ、「昭和維新」の理論的指導者として実行活動へ没入していく。

  一方北一輝は、明治16年新潟県佐渡に生まれ、佐渡中学校で飛び級で進級するが、眼病を患い、学業不振となる。家業の造り酒屋が傾いたことも加わり、彼は退学した。経済的に恵まれた大川と異なり、苦学して学び、早くから社会活動に飛び込んでいる。24歳の時、『国体論及び純粋社会主義』を著し、35歳の時には『支那革命外史』を出している。

 これらの著作には、当時の経済学者、社会学者、社会運動家たちなど、多くの知識人から賞賛の手紙が送られ、福田徳三は北を天才と高く評価し、かの『貧乏物語』で有名な河上肇も、読後の喜びが抑えきれず、彼を訪問したとある。

 大川と北は、互いに面識がなかったものの、当時の知識人の中では共に一目置かれる存在であった。中国革命の最中に、宋教仁の誘いで上海へ渡り、活動に加わっていた北を、大川が訪ねたのは、大正8年だった。この状況を、氏が次のように述べている。

 「東亜百年戦争の末期を代表する、二人の革命的思想家は、」「相会うと同時に、二つの火炎星のごとく衝突して、」「猛火を発し、別れて再び会うことがなかった。」

 もともと私は、こうした講談めいた語り口を好まないので、林氏の意見に共感を覚えなかった。二人は確かに非凡な人物なのだろうが、心に伝わるものがなかった。吉田松陰や徳川慶喜の時のように、彼らが語った言葉が、具体的に紹介されていないところにも、原因があるのかもしれない。

 大川周明の社会主義は、王道政治と変化し、江戸末期の思想家へと回帰する。北一輝の社会主義は、法華経の教えとつながっていき、マルクスとは無縁なものとなる。彼らの社会主義とは、いわば「経済的弱者の救済」であり、「富の公平な分配」に主眼があり、過激な思想であるが、階級闘争とか、武力革命とかに力点が置かれていないらしく見える。

 もしかすると、林氏自身も、彼らの著作を読んでいないのか。それとも、短い一章にまとめられないほど、複雑だったのか。なんとも、中途半端な説明で終わる。けれども、章の最後にある率直な思いを発見し、安堵した。林氏らしい本音だと思う。

 「私には、北一輝と大川周明の本質または、正体が、」「まだ分からないと言っておくのが、正直なところだ。」「ただ分かることは、この二人が、東亜百年戦争の末期を代表する、魔王的思想家であったということだけだ。」

 「両者とも、敗北を運命づけられ、しかもアジア解放の戦争だったという、日本の歴史が生んだ、反逆的浪人学者であったこと。」

 いつか機会があったら、自分の力で二人の著作に触れたいと思う。博学な林氏でも手にしなかった本だから、理解できない気もするが、希望は大きいほど良い。ボケ防止になるし、長生きをする必要も生まれる。本が読める状態で長生きするのなら、息子や孫にも迷惑をかけないで済むので、一挙両得の希望だ。

 今回は、何となく中途半端な思いが残るが、林氏には感謝すべきと思う。長い人生には、こんな日もあるだろう。本日はここで終わり。

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