ねこ庭の独り言

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『日本史の真髄』 - 10 ( 政治家と学者の役割分担 )

2022-11-11 17:30:02 | 徒然の記

 〈 二闋 三韓来 ( さんかんきたる) ・古代の大英雄、日本武尊   11行詩 〉

                   ・神功皇后の「三韓征伐」

 表題をそのままにして、今回も渡部氏の解説を紹介します。

 「『記紀』の著者たちは、伝承されたことを正確に書き留めることに、神聖な任務を感じていたのである。従って、時代を分けて記述するという科学的とも言えるセンスを持っていた。」

 「『古事記』の上巻は神代(じんだい) で、『日本書紀』の巻第一と巻第二は神代(じんだい) を扱うことを明記してある。」

 「日本神話は神代の部に出てくるものであり、『記紀』の著者もそれが〈神話〉であることを知っていた。そこには日本の国と民族の成り立ちを暗示する多くの話があるが、それはあくまで暗示であって史実ではない。」

 過去の読書で『古事記』『日本書紀』に関する解説書を読みましたが、こういう視点からの説明はありませんでした。保守系でも左翼系でも本の著者たちは、直接原文を詳述し、読者を記紀の迷路に案内しました。氏の解説は、未熟な学徒には貴重な説明で、知ることの喜びを教えてくれます。

 「そのことは『記紀』もはっきり区別しているのに、区別なきが如く右翼イデオロギー歴史を作った者もいけないが、さりとて、『記紀』が歴史時代と明記している部分も、すべて神話の如く扱おうという戦後左翼イデオロギーの歴史観も、学問的ではないのである。

 そういうことだったのかと納得すると共に、戦前前後にかけて右と左の学者たちが極論を述べていたことを教えられます。ここで私たちが知らなくてならないのは、世間の風潮を作る大きな力を持つ者が、時の政治家と学者であるという事実です。

 政治(まつりごと) を行う政治家には、土台となる思想( イデオロギー )が必要です。思いつきで闇雲に政治を進めているのでありませんから、万民が納得する、あるいは納得させられる思想を求めます。古来から、政治(まつりごと)の土台となる思想を工夫・検討するのが学者の役目でした。

 万巻の書を読み、古今東西の知識に通暁し、理路整然とした思想を生み出すのは誰もができることでありません。今も昔も学者が多くの人から尊敬され、その意見が尊重される理由がここにあります。

 熟考された学者の意見を聞き、比較検討し、政治(まつりごと)の土台に決定するのが政治家の役目です。この仕組み自体は、今も昔も、日本でも世界でも同じです。

 ・戦前の日本には、政治家の周りに皇国史観の学者が沢山いた。

 ・戦後の日本には、政治家の周りから皇国史観の学者がいなくなり、社会主義的唯物史観の学者が多数を占めている。

 息子たちのため簡単に言いますと、戦前・戦後の思想的断層の原因がここから生まれています。氏の著書は、日本の思想的断層解明の手引きであり、修復を願う学者の言葉に聞こえます。

 「『古事記』や『日本書紀』の資料価値を疑う人は、それを覗いたことがない人なのでないかと思われる。そこには人名と地名が、あふれるばかりに書いてある。地名はだいたい実在であるが、左翼史観は人名は認めない立場のようである。」

 「しかも記述の方法が客観的であって、とくに『日本書紀』にはしばしば、別の場所にはこう書いてあるということを、〈一書に曰く(いわく)〉として注記している。客観性の努力において、ソ連の革命史などよりはるかに科学的である。」

 やはり氏が意識しているのは、共産党系左翼学者だということがなんとなく伝わってきます。こういう学者を敵視するというのでなく、政治家と学者が時代の思想を作っている事実を示唆しています。亡くなった安倍元総理が、なぜ「日本学術会議」のメンバーの再任を認めなかったのかも、何となく伝わってきます。

 表舞台でせめぎ合う政治家にだけ注目するのでなく、私たちは学者にも同等の注意を払う必要があるということになります。

 「憲法問題」、「皇位継承問題」、「国防問題」、「日米問題」、「日中問題」、「日韓問題」、「北朝鮮問題」と、日本の最重要問題についても国会で意見を求められているのは学者たちです。難しい問題が生じるたびにテレビや新聞で意見を表明し、国民を先導しているのも学者たちであることを、もっと息子たちに伝えたくなります。

 こうした学者は、大学教授ばかりでなく、政府の官僚、専門家、評論家、弁護士、裁判官など様々な姿で役目に励んでいます。そこまで話を広げると本書のテーマが曖昧になるため、保守系学者と左翼系学者についてだけ語っていると、私は解釈します。

 だから氏は、直接主題の解説に入らず、立ち位置の違う学者の意見の相違について語ります。( 退屈された方は、どうか遠慮なくスルーしてください。)

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